「半農半翻訳」はじめました●大久保雄介

2014/07/11

大久保 雄介


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個人翻訳者。信州大学人文学部卒業後、都内の翻訳会社に約6年間勤務。2年間の海外生活(ニュージーランド、オーストラリア)を経て、2012年より故郷の長野県小川村にて本格的にフリーランス翻訳業を開始。忙しくも楽しい田舎暮らしの中、得意とするIT翻訳のほか、特許校正にも挑戦中。訳文にこめる「熱」を何よりも大事にする。畑仕事にも「熱」をこめるが、いまだ想いは届かず空回り(失敗続き)。
 

はじめに、このような素晴らしい機会を与えてくださったコラムオーナーの高橋様、および「ほんやく検定」を運営されているJTF様に心からお礼申し上げます。ほんやく検定1級(英日、情報処理)合格を機にフリーランス翻訳者として本腰を入れ出した、まだまだ「あまちゃん」な私ですが、日々の暮らしについて少し書かせていただきたいと思います。
 
「半農半翻訳」というライフスタイル
 
「半農」というフレーズを聞いて、「農産物を出荷しながら翻訳も!?」と思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、自然相手の農業を、片手間で商売としてこなすのは至難の業です。この場合の「農」とは、自給用の畑仕事を中心とした農作業を指します。ですので、同じような生活を送っている翻訳者さんは、他にもたくさんいらっしゃるかもしれません。「農」だけでなく、それとともにある田舎暮らしの良いところ、大変なところ、その両方を受け入れつつ、大自然とともに生き、かつ大好きな翻訳も続けたいという思いが、私の「半農半翻訳」生活を支えています。
 
人生を変えたWWOOF
 
「半農」に結びつく大きなきっかけとなったのが、オーストラリアでのワーキングホリデー中に参加したWWOOF (Willing Workers On Organic Farm、ウーフ)です。WWOOFとは、農作業を手伝う代わりに、ホストから食事と宿泊場所を提供してもらうプログラムのことです。農作業で流す汗、仲間との語り合い、野菜中心の健康的な食生活など、それまでとは180度違う生活を経験し、心も体も生まれ変わりました。帰国後も、できるだけ当時の生活リズムを維持しようと心がけています。
 
海外に出るまでのことについては、こちらの記事をご覧ください。
http://www.amelia.ne.jp/user/reading/flavor87_01.jsp
 
生活サイクルにおける「農」と「翻訳」のバランス
 
1. 春、秋
 
農と翻訳のバランスが最も良い時期。暑くも寒くもない時期なので、畑仕事は時間を問わず、翻訳の気分転換に行う。種まき、植え付け、収穫など、必要になったときに、合間を見て1~2時間の農作業。毎日発生するわけではなく、作物の成長をニヤニヤしながら見守るだけということもしばしば。翻訳作業は平均して9時~19時に6時間ほど。
 
2. 夏
 
バランスが農に偏る時期。寒冷地の長野といえども日中は暑いので、農作業は早朝か夕方。専業農家である友人の収穫手伝いが中心。4時半に起床して畑に直行、2~3時間の収穫後に帰宅してシャワーと朝食。翻訳作業を13時頃まで集中的に行い、昼食。ここで一度体力が切れるので、2時間の昼寝を挟む。目覚めたときは新しい一日が始まるかのよう。夕方は残りの翻訳作業と自宅の夏野菜の収穫。翌朝に備えて22時には就寝。
 
3. 冬
 
バランスが翻訳に偏る時期。12~3月は雪に埋もれる地域なので、畑仕事はほぼ無し。運動はもっぱら雪かきと雪遊び(!?)。朝は毎日氷点下なので、起床は8時頃と遅め。翻訳作業は平均して10時~20時に7~8時間ほど。
 
田舎生活も楽じゃない
 
満員電車に揺られて深夜まで残業という生活に比べれば、悠々自適と言って良いかもしれませんが、四六時中縁側で茶をすすっているわけにもいきません。過疎化が進む田舎にとって、若者は重要な人手です。町内会に当たる「組」や「区」の役職、地域の草刈り、消防団の活動など、活躍する場はたくさんあります。つい先日も、村内で山火事が発生したばかりです。朝10時、村内に流れるサイレン。その日は納品日でしたが、人命には代えられません。出動です。実際、消防団に入ってまだ1年と少しの私にできることと言えば、スコップで火を叩いて燃え広がりを防ぐことぐらいでしたが、どの団員も仕事を中断して駆けつけているので、条件は一緒です。客先に納期延長をお願いするのは後からになってしまいますが、事情を説明すれば快く応じてくださるので助かっています。
 
また、村内では「英語ができる人」として、村の宿泊施設から「お客さんの通訳をしてほしい」と頼まれたり、英会話教室の手伝いをしたりすることもあります。会話の方はとても褒められるようなレベルではありませんが、少しでも役に立てるのは嬉しいものです。
 
良いこともたくさん
 
地域のために尽くした分だけ返ってくるものも大きいのが、ここでの生活です。嬉しいのは、ご近所からの野菜のおすそ分け。ゴーヤ10本やキュウリ50本(!?)など、気前が良すぎることもありますが(笑)。野菜の他にも、仕留めたばかりのイノシシや鹿の肉など、珍しいおすそ分けもあります。
 
近所のお年寄りは畑仕事の先生でもあり、時間を忘れて質問攻めにしてしまうこともありますが、お年寄りも地域が若返ったことを喜んでくれているようです。
 
そして田舎はやはり景色が良く、空気も澄んでおり、周囲も静かです(草刈機とチェーンソーの音を除けば)。翻訳に疲れたときは、妻と散歩に出て他愛もない話をしつつ、ときにはすれ違った人たちとおしゃべりをすることが最大の気分転換になっています。
 
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村内の景色
 
 
欲張って仕事を取らない
 
消防などの地域活動は突発的に発生し、畑仕事も気候に左右されるため、翻訳の受注量は、基本的に前倒しで納品できる範囲にとどめています。余裕ができた場合は、前から行きたかった場所に妻と出かけたり、友人と食事したりするなど、できるだけその時間を仕事で埋めないよう心がけています。翻訳は大好きですが、何でもtoo muchは良くありません。それこそフリーランスの特権を生かし、一杯のコーヒーをゆっくりドリップするぐらいの時間は常に確保したいものです。
 
パートナーの存在
 
野菜作りが趣味の私ですが、料理の腕はまだまだ人並み以下で、結婚後は妻に任せっきりです。野菜の旨味を生かし、「陰」と「陽」のバランスを考えた「重ね煮」と「酵素玄米」なるものが彼女の持ち味(だそうです)。身内自慢で恐縮ですが、健康を胃袋から支えてくれている妻には、この場を借りて感謝したいと思います。
 
今後の目標
 
「半農半翻訳」生活はまだまだ名前負けしており、農も翻訳もこれから経験を積んで、さらにレベルアップしていくつもりです。密かな目標は、コラムオーナーの高橋様から「A評価」をいただくことです。
 
また、需要があれば、田舎暮らしを考えている翻訳者さんをサポートしたり、JTFの保養地として、この小川村をご活用いただけるようお手伝いしたりできればと思っています。小川村は、「日本で最も美しい村」の1つに選定されています(http://www.utsukushii-mura.jp/ogawa-index/)。

 

コラムオーナー

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高橋 聡
(たかはし あきら)

 
CG 以前の特撮と帽子をこよなく愛する実務翻訳者。翻訳学校講師。学習塾講師と雑多翻訳の二足のわらじ生活を約10年、ローカライズ系翻訳会社の社内翻訳者生 活を約 8年経たのち、2007年にフリーランスに。現在はIT・テクニカル文書全般の翻訳を手がけつつ、翻訳学校や各種SNSの翻訳者コミュニティに出没。

■ブログ「禿頭帽子屋の独語妄言」
http://baldhatter.txt-nifty.com/trados/


 

MISSION STATEMENT

「意外と知られていないフリーランス翻訳者の素顔をさぐる」ために始まったこのシリーズ。そもそもは、私自身がいろいろな翻訳者さんの様子を伺ってみたいと思ったことがきっかけでした。思ったとおり、今に至るまでの人生も、生活スタイルも仕事のしかたも千差万別です。これからも、登場していただきたい方はたくさんいますが、執筆してみたい方がいらっしゃれば、ぜひ帽子屋までご連絡ください!