翻訳勉強会十人十色●井口 富美子

2016/03/04

井口 富美子
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立教大学文学部日本文学科卒業。卒業後は専門図書館に勤務。国内外のゲーテインスティテュートでドイツ語を学ぶ。数回の短期留学とバイエルン州の小中高校でのインターンシップ(半年間)を経て1992年から1994年までフンボルト大学文学部日本語翻訳学科(ドイツ/ベルリン)に留学。帰国後は翻訳会社に10年間勤務し、2005年にフリーランスの翻訳者として独立。専門分野は自動車・機械・医療機器・歯学他。翻訳学校で独日実務翻訳の講師も務める。blog: It's a Wonderful Life(http://wonderful-translife.com/



つながる
翻訳は孤独な作業です。ところがSNSの登場で状況が変わりました。TwitterやFacebookで翻訳者がゆるくつながり、翻訳クラスタとよばれるバーチャルなグループができたのです。悩みをつぶやくか投稿するだけでだれかがアドバイスを書き込んでくれる。1日中PCの前にいる翻訳者にぴったりのコミュニケーションツールでしょう。
2012年春、「どんな風に翻訳しているか互いに見せ合いませんか」という投稿がきっかけで実際に数人が集まって勉強会を開催しました。それが翻訳勉強会十人十色の始まりです。すぐにFacebookでグループを作り、「翻訳者が互いに教え合って勉強する」という、今までにない形の勉強会ができました(現在管理人10名、メンバー約500名)。
 
翻訳者の「欲しい」をかなえる
最初は翻訳方法、使用ツールや辞書、仕事の増やし方などを数人で発表し合い、動画でも配信するという形でしたが、現在は大きな会場を借りて発表する方式に落ち着きました。自分たちが勉強したいと思うテーマが見つかったら講師を招いてセミナーも開催しています(正規表現入門など)。翻訳者の希望がダイレクトに実現される勉強会なのです。
 
ひろがる
2013年には5月に広島と大阪に出張し、SNSでつながるだけだった地方在住の翻訳者と一緒に勉強会を開催しました。これをきっかけに両地で勉強会が立ち上げられ、交流が活発に。大阪のメンバーを講師に招くなど(1回目の翻訳祭前夜祭)、翻訳者の輪が広がりました。
2014年には「翻訳者のためのAutoHotkey入門講座」を開催。翻訳祭前夜祭では川月現大さんによる「翻訳者のための日本語講座」が好評でした。またこの年の翻訳祭に初めて十人十色として登壇(「新米の上り坂、中堅の曲がり角」)。準備は大変でしたが反響も大きく、翻訳者が積極的に発信する必要性を実感しました。
 
Give & Give
「互いに教え合う」勉強会なので、会費は会場費と運営費の実費です。私たち主宰者側も登壇される方も基本的に無償ボランティアです(セミナー形式の講師は除く)。ベテランや中堅も、先輩にお世話になってここまで来られた、今度は自分が後進を育てる役だ、という思いで自分の「企業秘密」を惜しげなく披露してくださいます。勉強会の参加者がやがて中堅やベテランになり、この勉強会で後進のために発表してくださる。それが理想です。
 
日本中、世界中から
当勉強会には、同業者が少なく仲間が見つかりにくい、情報も限られている地方や海外在住の方が多く、グループの存在をとても喜んでおられます。最初は勉強会の様子を動画で公開していましたが、管理人の負担が大きいため現在は発表資料をグループ内で共有しています。2015年の広島・大阪遠征ではバーチャル参加(アンケートに回答)を募り、地方はもちろんインドやイギリスからも参加者がありました。広島編には大阪、岡山、島根から、大阪編にはドイツや東京、京都から参加があり、さらに偶然アメリカから帰国中の方が飛び入りで発表もしてくださいました。翻訳祭前夜祭には九州や山陰、カナダ、イギリスからの参加者もいらっしゃいました。リアルな場に参加して「仲間ができる」ことが大きな心の支えになるのだと思います。
 
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2015年7月、十人十色東京編
 

活動の年
昨年はこれまでで最も活動的な年でした。まず4月には管理人のお一人遠田和子さんによる「英訳に役立つ頭の柔軟体操 —言葉の置き換えから意味を伝える翻訳へ」セミナーを開催。
7月には十人十色東京編でツール、翻訳、辞書について発表が行われました。内容は、「産業翻訳者が出版翻訳の世界に踏み出すには」(矢能千秋)、「Evernote活用法」(井口富美子)、「クラウド型工程管理ツール」(中島拓哉)、「Xbenchの活用方法」(東尚子)、「ライティングの基本」(高橋さきの)、「私の翻訳法」(大光明宜孝)、「青空WINGなど自作公開EPWING形式」(大久保克彦)、「Dicregate 中心に検索について」(水谷健介)、「自作のツール『かんざし』の紹介」(内山卓則)、「代表的な辞書ブラウザの使い方と学習辞典」(高橋聡)。午前午後の長丁場でしたが内容の詰まった緊張感あふれる勉強会でした。
10月には広島と大阪に遠征(2回目)。西日本医学英語勉強会やほんま会の方に会場手配等大変お世話になりました。広島での発表内容は、「冗長環境で辞書引き時間を短縮」(井口富美子)、「私の翻訳環境」(大賀美範)、「自家製情報子辞典と翻訳公害対策」(辻谷真一郎)。大阪では「翻訳者のためのEvernote入門」(井口)、「ぼくが出会った日英翻訳・英文ライティングの参考書たち+α」(藤田順弘)、「海外の翻訳会社と仕事をするコツ」(野中貴男)、「4つの自家製辞書+データベース」(辻谷)、「辞書と作業環境のお話」(小林晋也)、「アンケートに回答して」(名村孝、西垣内寿枝)。広島編、大阪編の両方で、アンケートで寄せられた「翻訳者の悩み」について意見が交わされました。
 
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2015年10月、十人十色広島編
 
11月の翻訳祭前夜祭は「翻訳そのもの」をテーマにした勉強会を開催。「悩ましい表現をみんなで一緒に考える」(大光明)、「訳し方の『原理原則』」(高橋さきの)、「『世界で最も○○』を英訳しよう」(遠田)、「ハチの本の原文と訳文比較 ~産業翻訳との二足の草鞋~」(矢能)、「脳みその筋トレ、やってますか?」(井口耕二)、と非常に濃い内容でした(敬称略)。
翻訳祭のセッション、「曲がり角を抜けて、ベテランへ」は先号のジャーナルに詳しいレポートが掲載されています、翻訳者の本音が聞けた貴重な場でした。
全力で駈けぬけた1年でしたが、今後も翻訳者が望むテーマで勉強会/セミナーを地道に開催していきたいと思っています。
 
参加方法
参加をご希望の方はFacebookページ(https://www.facebook.com/jyunintoiro/)にメッセージをお送りください。メッセージには翻訳者/勉強中であることを明記してください(スパム対策)。折り返しグループページ(非公開)のリンクを知らせします(インハウス/フリーランスの個人翻訳者、または翻訳を勉強中の方に限定)。
 
 

 

コラムオーナー

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高橋 聡
(たかはし あきら)

 
CG 以前の特撮と帽子をこよなく愛する実務翻訳者。翻訳学校講師。学習塾講師と雑多翻訳の二足のわらじ生活を約10年、ローカライズ系翻訳会社の社内翻訳者生 活を約 8年経たのち、2007年にフリーランスに。現在はIT・テクニカル文書全般の翻訳を手がけつつ、翻訳学校や各種SNSの翻訳者コミュニティに出没。

■ブログ「禿頭帽子屋の独語妄言」
http://baldhatter.txt-nifty.com/trados/


 

MISSION STATEMENT

「意外と知られていないフリーランス翻訳者の素顔をさぐる」ために始まったこのシリーズ。そもそもは、私自身がいろいろな翻訳者さんの様子を伺ってみたいと思ったことがきっかけでした。思ったとおり、今に至るまでの人生も、生活スタイルも仕事のしかたも千差万別です。これからも、登場していただきたい方はたくさんいますが、執筆してみたい方がいらっしゃれば、ぜひ帽子屋までご連絡ください!