EPWING辞書のご紹介●大久保 克彦

2015/11/06

大久保 克彦

 
会社員(ソフトウェア開発)。翻訳家どころか翻訳学習者でもありません。
セネカを原文で読みたくてラテン語に手を出すものの、膨大な変化形に手を焼き、米Tufts大が無料公開しているデータを元に電子辞書を作り始める。ネット上の著作権切れテキストを興味の赴くまま電子辞書化していくうちに、青空文庫やWordNetなどにたどり着き、翻訳フォーラムにもお邪魔させていただく。
そもそも31の時、20代の頃からずっと尊敬していた翻訳家の方から幸運にも賜った「辞書引きなさい!」「知っている語を辞書で引けるかどうかがプロとアマチュアの差だと思います」の言葉に翻訳の恐ろしさを知り、私は電子辞書を作ろうと思った。この言葉が毎日頭を刺す。
アテネ・フランセのラテン語上級クラス修了後、フランス語中級で苦戦中。東京都台東区在住。

 

EPWING辞書について
いまどき「電子辞書」といえば、カシオやシャープのもの、パソコンやスマホで使うさまざまな辞書ソフト(サービス)が一般的かと思います。しかし、翻訳家の間では90年代に流行したEPWINGという形式の電子辞書を愛用されている方が沢山いらっしゃいます。現在市販されているEPWING辞書は、『広辞苑第6版』や「うんのさんの辞書」こと『ビジネス技術実用英語大辞典』くらいしかなく、あとは中古市場を探すことになります。
EPWING形式の辞書データを検索するソフトには、EBシリーズLogophileがあります。ロゴヴィスタ株式会社が販売しているEPWINGではない多くの電子辞書も、これらのソフトで大抵使えます。ただし、2015年以降に新発売となったいくつかの辞書は、辞書フォーマットの変更によりロゴヴィスタの検索ソフトでしか検索できなくなりましたので、注意が必要です。
 
続いて、私が公開している様々なEPWING辞書について、主なものをご紹介します。いずれも無料ですのでお気軽にお試しください。お役に立つものがあれば幸いです。
 
参考:「翻訳者の薦める辞書・資料
 

WordNet EPWING
プリンストン大学が公開しているWordNetという大変優れた英語のシソーラスをEPWINGにしたものです。英英辞典として使えるのはもちろんですが、ある単語の同意語・反意語・上位語(catに対してfeline)・下位語(同domestic catなど)・関連語などを調べられます。語義の分類は、1960年代にブラウン大学で作成された百万語のBrown Corpusが元になっていて、分類の的確さは翻訳フォーラムでも高く評価されていました。EPWING化する際に語義とcorpusを合体させましたので、ある語がその意味で使われたと専門家が判断した用例のテキストと用例数を個別に見ることができます。

 
goodの検索結果とcorpusへのジャンプ例
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参考:「WordNetについて、あらためて-禿頭帽子屋の独語妄言 side A
 
青空WING
青空WINGは、青空文庫の著作権切れ作品テキストをEPWINGにしたものです。もともと作者名・作品名で検索して作品テキストを表示できれば良いと思って作りました。しかし、翻訳家の方々から、ある言葉や言い回しがどのように使われているかを全文検索で調べる、という使い方を教わりました。通常の国語辞典では意味や用例が載っていたとしても、どういう場面でどういう人がどのように使うのか、までは詳しく分からないことがあります。しかし青空WINGで全文検索すると、その語が使われている全ての段落を省略なく眺めることができるので、使い方の参考になるでしょう。
また、小内一氏が編集された『てにをは辞典』を参考に、青空文庫の全作品テキストを単語に区切り、ある語の前後にどのような語が何回使われたかをまとめた『青空てにをは辞典』も作りました。言葉探しや言葉遊びに使えることもあるでしょう。

 
「を挽回」の全文検索結果
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参考:高橋さきの先生「辞書の向こう側:生きた用例と辞書を往き来する
 
Lailaps
おなじみWikipediaの姉妹プロジェクトとして、自由に語義を記入できるWiktionaryという辞書サイト(一言語辞書)があります。専門の執筆者による記述ではないものの、通常の辞書には載らないような新語や固有名詞なども大量に入っていて、現在も成長し続けています。特に英語とフランス語は見逃すには惜しいほどの規模です。この辞書の情報を、英仏独伊西の5言語についてEPWINGにしたものを公開しています。EPWING版を使えば、他の英和辞典などと一緒に参照できます。
また、Project Gutenbergの英仏独伊西の人気作をEPWINGにしたものも作りました。青空WINGのように、それぞれの言語の用例を有名作家の作品から探すことができます。
 
Project Zephyr
市販されている辞書のCD-ROMのデータをEPWINGに変換するツールキットです。辞書を購入した上で、このサイトで公開しているキットやEBStudioというEPWINGデータ作成ソフトなどを使うことでEPWINGデータが作れます。現在対応しているのは、旺文社のプチ・ロワイヤル仏和辞典とロワイヤル仏和中辞典、Oxford English Dictionary第2版のversion 4.0 CD-ROMなどです。
 
WaDoKu EPWING
Ulrich Apel先生が公開されている和独サイトのデータをEPWINGにしたものです。もともとは和独辞典なのですが、独和としても使えるようにしてあります。また、ドイツ語のシソーラス(WordNetのようなもの)やドイツ語変化形一覧(変化形から元の形を調べる)のEPWINGもあります。
 
シソ改
山口翼氏による『日本語大シソーラス』という大変すばらしいシソーラスがあり、そのCDが販売されています。ただし検索方法があまり便利ではないと思えたので、私なりに改良した上でEPWING化するキットを公開しています。
 
EPWING for the classics
私の電子辞書開発は古典ラテン語・ギリシャ語関係から始まりました。ご興味のある方はどうぞご覧ください。特に、シェイクスピア・パック(Globe版全作品テキスト+各種専用辞典)やバイブル・パック(ヘブライ・ギリシャ・ラテン・欽定訳・和訳+各種専用辞典)は、通常の英和辞典以上のことを調べるのに役立つでしょう。また、英語の語源にも興味を持ち、Weekleyの英語語源辞典(1921年初版)を自前で電子テキストにしました。語源ネタがお好きでしたらこちらもどうぞ。(https://osdn.jp/projects/classicalepwing/news/23894)

 

 

 

コラムオーナー

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齊藤 貴昭
(Terry Saito)

 
電子機器メーカーにて開発/製造から市場までの品質管理に長年従事。5年間の米国赴任から帰国後、社内通訳・翻訳者を6年間経験。2007年から翻訳コーディネータ兼翻訳者として従事。「翻訳者SNSコーディネータ」として業界活動に精を出す。ポタリングが趣味。甘いもの好き。TwitterやBlog「翻訳横丁の裏路地」にて翻訳に関する情報発信をしています。

■Twitter: terrysaito
■Blog: http://terrysaito.com




 

MISSION STATEMENT

「翻訳横丁の表通り」には色々な人々が往来するようになりました。このコーナーでは、翻訳者さん達に「翻訳横丁の表通り」に出店して頂き、自身が持つ翻訳への「こだわり」を記事にして頂きます。「想い」であったり「ツール」であったり、「翻訳方法」であったり「将来の夢」であったり、何が飛び出るかは執筆者の翻訳への「こだわり」次第。ちょっと立ち寄って、覗いていきませんか?