イベント報告

2016/05/13

2015年度第4回JTF関西セミナー報告
翻訳の基礎スキルを見直そう


高橋 聡
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英日翻訳者。翻訳経験は25年以上に及び、その前半は学習塾講師を兼業しながら、コンピューター関連や環境法、出版翻訳など各種の分野を経験。1998年から翻訳会社に社内翻訳者として勤務し、2007年にフリーランスに。現在はニュースやブログなどを中心にIT・テクニカル翻訳に携わる。その傍ら、翻訳学校での指導に当たるほか、SNSを中心として各種の勉強会・セミナーなども主催または共催している。JTFでは、標準スタイルガイド検討委員と、ジャーナル編集委員を務めている。
 



2015年度第4回JTF関西セミナー報告
日時●2016年3月18日(金)14:00 ~ 17:00
開催場所●大阪大学中之島センター
テーマ●翻訳の基礎スキルを見直そう
登壇者●高橋 聡 IT翻訳者、株式会社帽子屋翻訳事務所 代表
報告者●岩崎 由起子(株式会社 翻訳センター)

 



今回の関西セミナーは、翻訳者であり多くの勉強会やセミナーに登壇されている高橋聡氏が、「翻訳の基礎スキル」について、様々な例題を説明しながらご講義された。

翻訳の基礎ってなんだろう

翻訳学校や、現役翻訳者が集まる場でいろいろと話を聞いていて、翻訳の土台をいま一度固める必要性を感じるようになった。基礎さえしっかりしていれば、もっと本質的な翻訳に集中できるはずである。その翻訳の土台、基礎とは?
まず、翻訳に必要な力は、「読む力」+「書く力」+「調べる力」、これに加えて「疑う力」(原文に対して、調べた内容に対して、そして自分が訳した文章に対して)と「説明する力+その根拠を探す力」。これらを支えるのが翻訳の基礎スキルである。翻訳者のみならず、校正者にとっても、修正を行う際の根拠を説明するためにこうした力が必要となる。

日本語文法の基礎

日本語文法の基礎知識を再確認することにより、正しい日本語を書き、自分の訳文を説明できるようになる。動詞(用言)の活用や助詞など、高校生の頃に学んだ基本的な文法や語法を再確認するとよい(例えば「今後も…が続くかは分からない」と「今後も…が続くか“どうか”は分からない」、どちらが正しい?その根拠は?)。それには国語辞書だけでなく、学生時代に使った国語便覧や、日本語を学ぶ外国人が直面する日本語文法・用法のポイントをまとめた日本語教師向けの日本語文法ハンドブックも有用である。

英文法の基礎

英訳では正しい英語を書き、自分の訳文を説明するために、和訳の場合も原文の意味を正しく解釈するために、英文法の基礎知識をその都度おさらいするとよい。一見何でもない単語でも、その文法や用法について深く掘り下げることで、その単語が文章全体の重要な役割を果たしていることに気付くことがあり、その重要な意味を訳文にしっかりと反映する必要がある。次に示す様々な辞書を利用し、文法や語法を徹底的に調べるようにする。

辞書の基礎

辞書について知っておくべきこととして、辞書としての特性(発行年と版、出版社、編集方針、凡例)とその使い方がある。古い辞書には新しい用語や用法などは含まれていないことがあるが(例えばリーダーズ2nd(1999年出版)では、virusに「コンピュータウイルス」の意味はなく、リーダーズ3rd(2012年出版)からこれを採用)、一方でまだそれほど浸透していない最新の用語を採用する辞書も存在する。話法の説明が詳しい、分類が細かいなど、辞書は出版社ごとに様々な特徴があり、ある用語について複数の辞書を引いてみるとその特徴がよく分かるので、用途や自分の好みに応じて使うとよい。また、学習英和辞典や類語辞典(シソーラス)も、語義を吟味したり訳語候補を探したりする上で非常に役立つ。さらに、辞書を引いたときに、例えば(名・形動ダ)といった最初に記載されている「ラベル」と呼ばれる文法情報は特に重要。こうした各種辞書は、フォーマット(EPWING、LogoVistaなど)や辞書ブラウザごとの違いを踏まえて有効に使えるようにする。

表記の基礎

最後に、読みやすい表記で書けるように、間違いに気付けるように、そして自分の表記を説明できるようになるために、表記の基礎を習得する。それにはスタイルガイドが有用である。翻訳会社から指定のものが提供されることも多いが、ない場合も自分で表記ルールをテンプレートとして持っておくとよい。また指定のスタイルガイドも自分のテンプレートに落とし込むと理解しやすくなる。スタイルガイドの内容には、括弧(全角か半角か)やスペース(全角と半角の間に半角スペースが必要か)といった表記スタイルのほか、漢字とかなの使い分け(例:きわめて/極めて)やカタカナ表記(例:interface=「インターフェース」とする)などを含めるとよいが、ここでも基本的な文法知識が必要になることが多い。「JTF日本語標準スタイルガイド」や「記者ハンドブック」(新聞用字用語集)もルールを決めるうえで参考になる。スタイルガイドは、ある程度の拘束ルールをあらかじめ作ってしまうことにより翻訳作業を進めやすくするが、これを持つことで逆に翻訳の進行の妨げにならないようにしなければならない。チェックツール(WildLightやJust Right!など)を活用しその負担を軽減することで、翻訳に集中することが可能。東京・大阪にそのようなツールやワイルドカードの活用についての勉強会が存在する(東京ほんま会/ほんまかい(大阪):翻訳者のためのマクロ&ツール勉強会)。

まとめ

原文、調査結果、自分の訳した文章(特に厳しく!)、そして常識までをも疑って調べる。調べては疑い、疑ってはまた調べる。それを繰り返し行うことが重要であり、そのためには辞書や文法についての基礎知識をぜひ身に付けておきたい。

セミナーを受講した感想

私たちは普段、言語方向や原文・訳文に関係なく、なんとなく違和感がある文章に多く遭遇している。なんとなくおかしい、そのことははっきり分かるけど、いざその理由を説明するとなると途端に気弱になってしまう。その結果、悩んだ割に自信なく決定したり修正したりすることも多いが、徹底的に文法や用法を掘り下げることによりその根拠を説明することが可能になる。講義では、このような「なんかちょっと変な表現」を含むいくつかの文章に対し、どこに着目し、どの辞書をどのように用いて、あるいはインターネットでどのように調査して解決するかを丁寧に説明された。特によく出くわす用語・表現に関しては、調べる時間をしっかり取って一度裏を取ってしまうと、その後出くわした際は自信を持って瞬時に判断でき(当然説明もでき)、結果的に時間短縮につながると感じた。

高橋氏は80名を超える受講者を前に、開始早々マイクを使うのをやめて地声で熱く講義された。ユーモアあふれる説明で大変わかりやすく、参加者らも積極的に質問や意見を述べ、大変活気ある講義であった。
 

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