イベント報告

2016/09/16

2016年度第1回JTF翻訳セミナー報告
翻訳センター 30年の歩みと成長戦略~言葉のコンシェルジュを目指して~


東 郁男

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1961年鹿児島県生まれ。1984年京都産業大学外国語学部スペイン語専修を卒業後、大阪の通信設備工事会社に入社し、海外部にて海外通信工事支援業務、人事部にて人事・採用・教育業務を担当。1992年に(株)京都翻訳センター(現 (株)翻訳センター)に営業担当として入社。主に特許・医薬分野の営業を担当し、1999年取締役大阪営業部長、2000年取締役東京営業部長。2001年に代表取締役社長に就任。業界活動経歴として2004年日本翻訳連盟常務理事、同年、日本知的財産翻訳協会理事に就任。2006年には日本翻訳連盟会長に就任する。

 



2016年度JTF第1回翻訳セミナー報告
日時●2016年7月6日(水)14:00 ~ 16:40
開催場所●剛堂会館
テーマ●翻訳センター 30年の歩みと成長戦略~言葉のコンシェルジュを目指して~
登壇者●東 郁男 Higashi Ikuo  株式会社翻訳センター 代表取締役社長、JTF会長
報告者●中野 千佳(株式会社 アビリティ・インタービジネス・ソリューションズ)




 株式会社翻訳センターは、1986年に大阪の薬の町、道修町で創業し、医薬専門の翻訳会社として出発した。今回の講演では、JTF会長も務める同社の東郁男社長が、会社の経営ビジョンである「すべての企業を世界につなぐ 言葉のコンシェルジュ」を目指して、事業領域の拡大とサービスの拡充を図った設立からの30年を、「翻訳の専門化」、「専門性の高度化」、「事業領域拡大、サービス拡充」をキーワードに振り返った。
 

翻訳の専門化

 設立翌年の1987年には大阪、東京、名古屋での基盤整備を完了し、金融自由化を経た1990年代後半には、医薬、工業、特許、金融・法務の4分野のラインナップがそろった。翻訳業=翻訳“サービス”業である、という事業の基本姿勢に根差し、言語障壁を取り除くという使命を具現化すべく、顧客のニーズに応じて翻訳サービスの専門分野を拡大した結果である。

 当初は翻訳事業をエリア別に展開していたが、分野別の組織へ変更することで多様化・高度化する顧客ニーズに対応し、他社からの差別化を図ってきた。分野別の体制を確立したことにより、制作や営業面での品質のばらつきがなくなり、分野ごとに統一された方針に則ってサービスを提供している。
 

専門性の高度化

 2001年には「第二の創業」として、事業の方向性を大きく変えた。具体的には、積極的営業を量から質へ転換し、業務の経営効率化を図った。その流れの中で、5年の準備期間を経て、2006年に業界初の株式公開を果たした。上場の目的として、会社の信用力向上やブランド効果ももちろんだが、翻訳業界の認知度や地位向上も目指している。

 4分野の専門性を深耕する翻訳プラスアルファーのサービスとして、2010年に特許分野の外国出願支援サービスを、2014年にメディカルライティングサービスを、それぞれ専門会社化した。前者は、メーカーの知財部がターゲットであり、対象国への特許出願をサポートしている。後者は、製薬会社、医療機器関連会社、臨床試験受託事業者がターゲットであり、ドキュメント作成から翻訳までを一括受注し、円滑な新薬申請のサポートをしている。

 この2つの高付加価値サービスは、顧客のニーズに合わせて成長性のある分野をまずは専門の部署でテストマーケティングし、後に本格的に事業展開して成功した例である。現在進めている中期経営計画の中でも、顧客満足度向上のために分野特化戦略をさらに推進することを盛り込んでいる。
 

事業領域拡大、サービス拡充

 専門性を重視した翻訳分野別の展開にこだわってきた一方、2010年代にはM&Aも活用して言葉に関する事業領域の拡大を図ってきた。これにより、自前では立ち上げることの難しい分野でもスピーディーに成長してきた。

 その代表例として、2012年にアイ・エス・エスグループを子会社化し、通訳、人材派遣、コンベンション事業に参入した。翻訳センターとアイ・エス・エスの独自の商品の強みをそれぞれの顧客部署にクロスセールスできるというシナジー効果が生まれている。国際会議の誘致は、日本のプレゼンスを高めるためにも積極的に進められており、今後のニーズが期待できる。

 2015年には、多言語コールセンターのジョイントベンチャーであるランゲージワン株式会社を設立した。2020年の東京オリンピック、パラリンピックに向けた訪日外国人数の伸びに加え、国内労働力不足を補う在住外国人の増加から、潜在的なニーズは大きいと見込んでいる。
 

今後について

 グローバル化やインバウンドに対する需要等から、翻訳通訳に対する一般的な認知度や興味は高まっている。翻訳センターでは、今後も翻訳事業だけではなく、外国語、言語に関係するサービスの展開を目指している。

 「言葉のコンシェルジュ」を達成するパーツはそろった今、中期的には「専門性の高度化」と「事業領域拡大」の2つのベクトルで成長はできるだろうと見ているが、長期的には違った戦略も必要となる。社内体制を含めて、大型案件にも対応できる組織力があることが一番大きな強みであるが、制作能力のさらなる拡大が必要となってくるであろう。

 一つの選択肢として、機械翻訳ともうまく付き合っていく必要がある。その活用により、効率アップと利益向上を図りつつ、従来手法では対応できない顧客ニーズに対応することがますます求められている。ただし、従来の翻訳制作とは異なる作業であるチューニングやポストエディットに携わる人材の育成、収益化できる体制の構築、翻訳者の意識変化等、機械翻訳の実用化のためには解決すべき課題も多い。JTFのセミナーや翻訳祭でも話題に上っているが、顧客に良いサービスを提供するためのツールとして業界全体として勉強するべきではと考えている。

 翻訳センターは、その時々のクライアントのニーズに合わせて業務展開してきたが、この業界で「何でもできます」では信頼されない。高度な専門性の複合体、専門集団の集合としてこそ、強みが保てる。社員には、翻訳以外にも顧客の技術や業界の知識を深める必要があり、例えば医薬品業界であれば、新薬開発の工程、必要なドキュメントの種類やその役割をまず学ぶようにと話している。トータルで顧客にとって何が一番かを考えて、「翻訳“サービス”業」に徹することが重要である。

 翻訳業界では質・量ともに対応しきれていない潜在需要はまだまだある。単なる文書翻訳ではない新たな価値創造を図るべく、これまでのノウハウを基にした事業支援やコンサルティングを含む高度専門化と、機械翻訳の活用を含む高度技術化を業界全体で目指していく必要があるであろう。

 

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