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イベント報告

2016/11/04

2016年度第2回JTF関西セミナー報告
医療通訳セミナー:医療の国際化とオリンピック・パラリンピック以後も活躍が期待される専門医療通訳者が今、学ぶべきこと


竹迫 和美

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1979年NHK「ニュースセンター9時」ニュースキャスター。2008年東京外国語大学大学院国際コミュニケーション研究科通訳専修コース修了。米国における医療通訳発展の研究で2014年大阪大学より博士号取得。 米国で1986年に創設、世界で2,000人以上の会員を有する医療通訳者の職能団体 IMIA(International Medical Interpreters Association)の米国本部執行役員・日本支部代表としての経験や、スペイン語・英語会議通訳者や医療通訳者としての経験をもとに、2016年4月より、藤田保健衛生大学大学院保健学研究科、医療経営情報学領域、医療通訳分野(日本初の医療通訳の修士課程)の教授。専門医療通訳(者)トレーナーや言語アクセス管理者の育成や研究に尽力。多言語医療通訳の実践には遠隔医療通訳の実践が肝要との視座に立ち、日本遠隔医療学会遠隔医療通訳分科会長として実践にも尽力。2016年4月、これまで10年以上にわたる日本とアジア地域における医療通訳発展への貢献が世界的に評価され、医療通訳発展に最も貢献したプロフェッショナルに贈られるRaquel Cashman Language Access賞を受賞。
 



日時●2016年8月19日(金)14:00 ~ 17:00
開催場所●ナレッジキャピタルコングレコンベンションセンター
テーマ●医療通訳セミナー:医療の国際化とオリンピック・パラリンピック以後も活躍が期待される専門医療通訳者が今、学ぶべきこと
登壇者●竹迫 和美 Takesako Kazumi 藤田保健衛生大学大学院保健学研究科 医療経営情報学領域 医療通訳分野 教授、IMIA執行役員 日本支部代表
報告者●宅和 佳子(株式会社 アスカコーポレーション)



 

本セミナーは、JTFが初めて通訳をテーマとして開催したセミナーである。
 

講師の紹介

当日の講演タイトルは「医療の国際化とオリンピック・パラリンピック以後も活躍が期待される専門医療通訳者が今、学ぶべきこと」。予告では「オリンピック・パラリンピック『で』活躍が期待される」となっていたが『以後も』が加筆された。2020年東京五輪への対応にとどまらず、さらに将来を見据えた竹迫先生の強い思いが伝わってくる。
竹迫先生は医療通訳に加え、大学院教育、IMIA(医療通訳者の職能団体)、遠隔医療通訳の各分野でご活躍中である。その内容を、各分野の動向と併せてご紹介しよう。 

医療通訳者として

20年ほど前、チリで子育てをしていた先生は、日本と全く異なる診療方針に驚愕し、医療通訳の重要性を痛感する。帰国後に起こった阪神・淡路大震災で、外国人被災者が言葉の壁のために必要な医療を受けられないことを知り、「10年後に状況が変わっていなければ、プロの医療通訳者が活躍できる環境を作るために働く」と誓った。当時、日本にはプロの医療通訳者はいなかった。「医療通訳を職業として確立させたい。通訳の質を向上させ、日本の医療通訳を発展させたい」。この思いが、先生のご活動の根底にある。

IMIA: International Medical Interpreters Association
米国本部執行役員及び日本支部代表として

IMIAは世界最古、最大の医療通訳者の職能団体であり、医療通訳の質の標準化のために、医療通訳の業務規程および倫理規定を定めている。先生は、日本語による医療通訳の質の確保に向けて、医療通訳の国際的な認定(CMI: Certified Medical Interpreter) 試験を日本語―英語で実施するよう準備されている。
また、IMIAは手話通訳者も含めて医療通訳のプロ化の重要性を訴えている。先生は、世界的に手話も言語のひとつとして認知されていること、聴覚障がい者も外国人と同様に情報弱者であり、医療通訳による医療へのアクセスが保証されなければならないことを強調された。

大学院教授として

今年4月、先生のご尽力により、藤田保健衛生大学大学院保健学研究科に日本初の医療通訳分野の修士課程が開講された。当課程では現場経験を重視し、外国人模擬患者を招いた通訳演習に力を入れている。さらに、専門医療通訳トレーナーの養成や遠隔医療通訳の実践、言語アクセス管理者(医療通訳者の管理や病院職員との連携に携わる管理職)の養成と、調査・研究も行っている。

日本遠隔医療学会 遠隔医療通訳分科会長として

テレビ電話等を利用した遠隔医療通訳は、今後需要の増加が見込まれる。しかし、日本では遠隔医療通訳の実施例は少なく、ベテランの通訳者でさえ遠隔現場の経験は豊富とはいえない。遠隔医療通訳分科会では、遠隔で講義・演習を行える遠隔医療通訳養成プロジェクトを計画中である。
 

医療通訳に求められる役割とスキル

一般にイメージされる通訳と異なり、医療通訳に求められる役割の大きな特徴は、「介入」すなわち通訳者が患者と医療従事者の間に入ってコミュニケーションの円滑化を図ることである。例えば患者の発言や表情やボディーランゲージから理解度を読み取って適宜確認したり、通訳者自身が疑問をもった点について医療従事者や患者に説明を求めたりする。
一方、医学用語をそのまま訳しても患者には通じないため、医療通訳者には、「患者にわかりやすく訳すスキル」すなわち患者の言語理解度や教育水準に合わせて通訳するスキルが求められる。その際、外国人患者の8割以上は非英語圏出身者であることを踏まえて、患者の文化的背景を理解することが極めて重要である。
上記を含めた医療通訳の難しさとやりがいが、続くロールプレイで具体的に解説された。
 

ロールプレイ

医療通訳者の中村小百合さんと金千佳さん、手話通訳者の寺嶋幸司さんと奥さんでろう者の寺嶋久枝さん、3名の学生ボランティアの皆さんにより、以下の4つのケースを想定したロールプレイが行われた。

聴覚障がい者の通訳

前述のように、手話を言語のひとつとして扱う取り組みが世界的に高まっているため、今後、医療現場でも手話通訳のニーズは増えると予想される。手話は「見る」言語であり、私たちが日常話す日本語(「聞く」言語)とは全く異なる。また、「聞く」日本語とは言葉の指す意味の範囲が異なる点でも難しさがあり、「朝食を抜いてくるように」との医師の指示を「ごはん(=米飯)を抜いて」と訳した結果、患者がパンを食べてしまう等の事例も紹介された。

病院の受付にて

外国人男性が友人に連れられて来院。英語しか話せない。通訳アプリを使って頭痛を訴えるが、いまひとつ要領を得ない。受付職員も英語に堪能ではないため、対応に苦慮している。医療通訳者が詳しい病状を患者に確認したところ、発熱があることがわかり、適切な診療科へ案内することができた。

診察室にて

ベトナム人の母親が子どもの発熱を訴えた。診察のため服を脱がせると、なんと腹部一面に痣ができている。「虐待では?」そこで文化的知識をもつ医療通訳者が確認したところ、この痣はベトナムの風習によるものとわかった。邪気払いのために体をコイン等でこする「コイニング」が、現在も広く行われているという。医療通訳者の介入により、誤解を避けることができた。
 

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薬局にて

長期にわたり服薬していた高齢の女性患者。流暢な日本語で薬剤師と会話し、日本人だと思われていたが、実は在日コリアンだった。数年後、認知症となった彼女は、韓国語しか話せなくなっていた。同様の状況は、日本での外国人の受け入れ増加に伴い、多くの施設で発生すると考えられる。それは医療通訳者の活躍の場の増加につながるかもしれない。
 

日本における医療通訳

中高年からでも医療通訳者になるには十分間に合う。日本の医療通訳はまだまだこれからである。プロの医療通訳者と言える人材は日本には少ないうえ、現場経験も浅い。通訳者としてのレベルが高ければ、医療通訳者として活躍するチャンスは増える。正確でわかりやすい医療通訳のスキルは、専門のトレーニングや現場経験を重ねて身に着けるしかない。必要なのはプロになる覚悟、ニーズは自分たちが作るのだという意志である。
 

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セミナーは3時間の予定を超えて、様々な角度から医療通訳の歴史、現状及び将来性を伝える盛りだくさんの内容であった。質疑応答では、医療通訳の誤訳リスクに対する補償制度の有無や、医療通訳の契約内容について質問があったが、いずれの点でも、議論が交わされておらず、日本における医療通訳の環境整備はまだ創成期にあることが示された。一方、先生が再三強調されたように、文化的背景を理解した上で患者の気持ちを汲み、適切に訳すという視点から、医療通訳者の存在意義は大きい。通訳アプリにはない、医療通訳の醍醐味といえるのではないだろうか。参加者にとっては、初の通訳セミナーとして多くの刺激を得られた貴重な機会だったことだろう。