イベント報告

2017/01/20

2016年度第3回JTF翻訳セミナー報告
TMS(翻訳管理システム)の導入と活用


目次 由美子

サンフランシスコ州立大学卒。外資系の翻訳会社にて多言語プロジェクトのマネージメント業務に長年従事し、共同プロジェクト推進のためパリ支社に1年間滞在。ドイツのグループ会社にて開発されたランゲージテクノロジー製品群の造詣を深め、特に翻訳支援ツールのスペシャリストとして奔走。日系の大手電気通信事業者および外資系の大手医療系企業のIT部門での勤務経験も有する。2015年春に独立し、産業翻訳コンサルタントとして「LOGOStar」を開業。翻訳に関連するすべての人に利益がもたらされ、ランゲージテクノロジーが適正に活用されることを目標に掲げ奮闘中。
 

河野 弘毅
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1960年福岡県生まれ、東京大学工学部卒。宇宙開発業界からローカリゼーション翻訳業界に転職し、1991年から翻訳会社を経営。2002年に一旦廃業した後、2005年に翻訳業界に復帰。複数の翻訳会社勤務を経て、2016年4月より再び独立。現在は機械翻訳が社会に普及していく過程で翻訳業界がどのような役割を果たしていけるのか、その結果として翻訳のあり方がどのように変わっていくのかに関心を持つ。日本翻訳連盟機関誌「JTFジャーナル」編集長(2011年~)。
 



2016年度第3回JTF翻訳セミナー報告
日時●2016年10月13日(木)14:00~16:40
開催場所●剛堂会館
テーマ●TMS(翻訳管理システム)の導入と活用
登壇者●目次 由美子 Metsugi Yumiko  LOGOStar 産業翻訳コンサルタント
河野 弘毅 Kawano Hiroki  ポストエディット東京 代表
報告者●菊田 直歩(株式会社 翻訳センター)



 

近年、産業翻訳の現場で「TMS」(Translation Management System)と呼ばれる翻訳管理システムが台頭し始めている。第3回JTF翻訳セミナーでは、ランゲージテクノロジーに精通するLOGOStarの目次由美子氏とポストエディット東京の河野弘毅氏を講師に迎え、TMSの導入と活用をテーマに、翻訳支援ツールとの違いや機械翻訳との連携といった点をわかりやすく解説いただいた。
 

第一部:初めてのTMS(Translation Management System、翻訳管理システム) (目次 由美子)

進化する翻訳環境、CATからTMSへ

翻訳メモリを活用する翻訳支援ツール(Computer Aided/Assisted Translation tool:CAT)が登場したのは1990年代。当初はデスクトップ型でインストールしたマシンでしか使えないという制約があったが、ネットワーク化の進展に伴いLAN環境でのライセンス共有が可能となり、さらにはここ10年でのクラウド技術の発展とともに、インターネットを介して期間ベースのサブスクリプション形態で利用できるCAT・TMSへと進化してきた。

CATとTMSの違い

TMSは、従来の翻訳支援ツールに翻訳ワークフローを管理する機能を組み込み、さらに機能を拡張させたシステムである。CATは翻訳作業自体を支援するツール、TMSは翻訳プロジェクトを全体的に支援するツールと捉えるとわかりやすい。

参考1:CAT・TMSの機能比較

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TMSの機能のなかで特に注目すべきは、翻訳のニーズに応じて期間ベースでライセンス数を調整できるサブスクリプション機能と、機械翻訳エンジンや自動組版システムといったサードパーティ製品との統合を可能にする外部プログラムとの連携機能だ。

TMSを活用した翻訳プロジェクトの流れ

翻訳プロジェクトは、TMSベンダーが提供するセキュリティの堅牢なクラウド空間で進行する。まず翻訳発注者が、翻訳メモリや用語集、翻訳原稿など、プロジェクトに必要なデータをクラウド上に置く。翻訳会社は必要に応じて解析を行い、翻訳分量と納期に基づき翻訳者を割りふる。翻訳者は、インターネットブラウザを介して翻訳環境にアクセスし、即座に翻訳を開始することができる。各者間の連携はTMSのメッセージング機能で円滑に行われる。


参考2:クラウド型TMS

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(注)上図では、左下の「翻訳発注企業」や右下の「翻訳会社」がクラウドを介して複数の翻訳者とコミュニケーションしている様子が示されており、講演ではズーム機能を搭載したプレゼンテーションスライドとして効果的に解説された。

クラウド型TMSの最大の強みは、翻訳発注者、翻訳会社、翻訳者の三者が、クラウドを介して翻訳プロジェクトをリアルタイムで共有できることだ。これにより、翻訳者間での用語や訳文の流用が可能になり、一つのプロジェクトを複数の翻訳者が分担しても用語・表現のゆれを制御することができる。また、翻訳発注者や翻訳会社にとっては、翻訳データの一元管理が可能になり、プロジェクトの進捗状況もリアルタイムで確認することができる。

TMSの導入

最近日本でも、Memsource、Isometry、Wordbee、XTMなど、さまざまなTMSが知られるようになってきた。すでにTradosなどのCATツールを運用している場合はワークフロー支援ツールと組み合わせる手もあるが、TMSの導入を一から検討する際には、それぞれのTMSの機能特性や費用面などを比較し、できれば実際に試用してみるのがよい。また、それぞれ連携できる外部プログラムが異なるが、アプリケーション連携機能(API)を介して簡単に連携できる場合もあるので、まずはツールベンダーに問い合わせてみるとよいだろう。
 

第二部:TMSと機械翻訳の統合ソリューション(河野 弘毅)

なぜ今こそ機械翻訳(MT)か

エンジンや分野によって出力結果に大きな差があり、実務翻訳にMTを適用するにはいまだ課題も多いが、欧州ではMT出力の下訳利用が急速に普及しつつある。一方で、発達の目覚ましい人工知能・ニューラルネットをMTに応用する研究も進められており、近い将来、MTの精度は飛躍的に向上する可能性がある。

なぜTMSとの統合か

これまでも、自動翻訳を目指すMTエンジン開発者と、実務翻訳の流れを深く理解し翻訳支援を目指すCAT・TMSの開発者とでは歩みを異にしてきた。MT技術の高度化を背景に、この開発分担化の流れは今後ますます顕著になっていくとみられる。だからこそ、快適なユーザー環境であるTMSにMTを統合するソリューションが翻訳業界で浸透していくだろう。

どうTMSとMTを統合するか

4つのスキーム(枠組み)が考えられる。

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各スキームに長所と短所があるが、推奨したいのはニーズに応じて柔軟かつ簡単にTMSとMTを組み合わせることができるスキーム3だ。

TMSとMTのAPI連携

TMSとMTをAPI経由で連携させるには、それぞれのツールにAPIが実装されていることが前提条件となる。また、下の表が示すように、TMSによって連携可能なMTエンジンは大きく異なってくる。
 

参考3:代表的TMSの対応MT一覧表

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(注)表は2016年9月時点のデータに基づいて発表者が作成したものでツール開発元の査閲を受けていない点に留意してください。各TMSとも対応MTは随時追加されるため、利用にあたっては必ず最新の状況を確認してください。

TMSによってMac版の有無、コンテンツ管理に優れた機能性など、さまざまな特色があるが、MTエンジンも同様に各エンジンによって特性が異なる。言語別、分野別エンジンが提供されている場合もあれば、特定の分野に特化して膨大なコーパスを備えている場合もある。注意したいのは翻訳データが誰に帰属するかという点。ユーザーの場合もあれば、MTベンダーの場合もある。

ただ、どのTMSでもAPIを介して簡単にMTを呼び出せるという点は共通しており、ユーザーインターフェースも直観的な操作が可能な設計となっている。

 

参考4:エディタからMTを利用するイメージ(Memsourceの画面例)

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失敗しないTMS・MT選び

ニーズによって自分の仕事に適したTMSとMTエンジンは異なってくる。まずは、CAT機能・TMS機能・MT機能のうち、導入する価値があるのはどの機能かを考える必要がある。特に、MTエンジンは分野別に提供されている場合もあるので、自分の対象分野にしぼり多数のエンジンを調査して、最善のエンジンを最善のフローで使った場合に翻訳効率を改善できるかを検討することが重要だ。
その上ではじめてスキームの検討が可能になる。必要な機能が多岐にわたる場合は、できる限りすべての機能が集約されたシステムを選択するか、機能を組み合わせて揃えるかを考える。組み合わせのスキームならば、まずはTMS、次にMTエンジンを…というように段階的な導入も可能となる。欲しい機能が工程全体におよばず限定的な場合も必要な部分から導入することができる。

 

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