イベント報告

2017/07/14

2017年度第2回JTF翻訳品質セミナー報告
文書作成における接続詞の役割
~接続詞を使うと文書は論理的になるのか~


石黒 圭

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国立国語研究所 研究系 日本語教育研究領域代表・教授、一橋大学大学院 言語社会研究科連携教授。
大阪府生まれ、神奈川県出身。一橋大学社会学部卒業。早稲田大学文学研究科博士後期課程修了。一橋大学国際教育センター教授を経て現職。研究分野は文章論・読解研究・作文研究など。2009年第7回日本語教育学会奨励賞受賞。主な著書に『書きたいことがすらすら書ける! 「接続詞」の技術』(実務教育出版)、『文章は接続詞で決まる』(光文社新書)、『語彙力を鍛える―量と質を高めるトレーニング―』(光文社新書)、『よくわかる文章表現の技術Ⅰ―表現・表記編― 』『同Ⅱ―文章構成編―』『同Ⅲ―文法編―』 『同Ⅳ―発想編―』『同Ⅴ―文体編―』(いずれも明治書院)など。
石黒圭研究室
http://ishigurokei.cafe.coocan.jp/

 



2017年度第2回JTF翻訳品質セミナー報告
日時●2017年5月22日(月)13時30分~15時30分
開催場所●剛堂会館
テーマ●文書作成における接続詞の役割 ~接続詞を使うと文書は論理的になるのか~
登壇者●石黒 圭 Ishiguro Kei  国立国語研究所
報告者●星野 靖子(個人翻訳者)

 


 

接続詞は、文を書く際、読み手に内容をわかりやすく、かつ論理的に伝えるのに欠かせない道具である。しかし、接続詞を使えば使うほど、わかりやすくて論理的な文になるわけでもない。言語研究者であり、接続詞に関する著書もある国立国語研究所の石黒圭氏が、接続詞の「勘どころ」について解説した。

接続詞の定義と役割

講義では、日本語の接続詞について、以下の6つの観点から考えた。

1.    接続詞とは何か
2.    どんな接続詞があるか?
3.    接続詞はどこにあるか
4.    接続詞はどんなジャンルで使われるか?
5.    接続詞は文書作成に役立つか
6.    接続詞で文書は論理的になるか

日本語の接続詞は広く数えて300程度あり、主に接続助詞由来、副詞由来の2系統に分類されるが、品詞としては厳密には定義しにくい。その背景には、近代日本語の成立事情がある。明治以降の言文一致運動で、書き言葉の「文を区切る」動きが生じ、「文と文をつなぐ」働きのある接続詞が多数生まれた。

接続詞は、以下の4つの機能に分類される。

①    論理:因果関係を用いて読者に期待させる・・・ 順接、逆接(「だから」「しかし」など)
②    整理:類似のものを並べて整理する・・・並列、対比、列挙(「そして」「一方」「次に」など)
③    理解:別の側面から読者の理解に歩み寄る・・・換言、例示、補足(「つまり」「たとえば」「なぜなら」など)
④    展開:区切りを示して流れを意識させる・・・転換、結論(「さて」「こうして」など)

接続詞は、文末や文全体に現れる場合もあるが、文の先頭に位置するのが基本である。 ちょうど自動車の方向指示器が、後続車両に方向転換や停止を知らせるためウインカーやブレーキ、ハザードを使うのと同様に、接続詞には読み手の予測を助け、後続文脈を読みやすくする働きがある。

分野による接続詞の傾向を知る

接続詞の使われ方は、話し言葉と書き言葉、文体によって異なるが、ジャンルによる偏りもみられる。ニュース原稿、社会科学の学術文献、聖書から文例を挙げ、それぞれの接続詞の特徴を考えた。
テレビやラジオのニュース原稿では、「こうしたなか」「これをうけ」といった指示語「こ」のつく接続詞が頻出する。新聞記事ではほとんど使用されていないことからも、メディアによる特性は明らかだ。映像や音声ニュースの即時性や、ニュースキャスターと視聴者との近距離性といった要因が挙げられる。
 また、学術文献でも分野別に接続詞の違いがみられる。商学分野で「たとえば」が頻繁に用いられるのは、実学に基づく学問であるためだ。これに対し、経済学分野で「したがって」が頻出するのは、理論的、抽象的で数理分析を中心とした学問の特性を表す。法学分野で、以下のように「なお」「ただし」「もっとも」といった補足(付加)の接続詞がよく用いられるのは、論理の抜け道を作らないよう後から条文を加えていくといった法律文独特の論理展開を示している。
    
ただし、民法の規定・制度のすべてが、ある一定の思想や理論によって基礎づけられているというわけではないので、注意が必要である。(法学『基本民法1』)
もっとも、この論点の順序は、必ずしもつねに明確だとは言い切れないから、そういう場合には裁判所が定めた順序を尊重しなければならないであろう。(法学『判例の読み方』)

翻訳の際には、その分野特有の接続詞を意識していくべきである。そのためには、業界雑誌に目を通すほか、国立国語研究所が中心に開発した現代書き言葉コーパス「少納言」を参照するなどして、分野別接続詞の傾向を把握していきたい。分野に適した接続詞を用いることが「できる翻訳者」の評価につながるだろう。

接続詞を用いた文書作成テクニック

接続詞は文章作成に役立つ。その実践方法として、以下の3つを紹介した。

①    発想開拓の装置として使う
文の発想を広げるにあたり、接続詞を利用する方法がある。「風呂敷」をテーマにした例文では、まず「たとえば」を使って発想を広げる。

風呂敷は便利です。たとえば、……

たとえば、ものを包むのに使えます。
たとえば、かさばらないエコバッグになります。
たとえば、ギフトラッピングとしておしゃれです。
たとえば、読んで字のごとく、敷物として使えます。
たとえば、冷えたときのちょっとしたひざ掛けになります。

次に「なぜなら」「だから」を使って、さらに発想を広げていく。

風呂敷は便利です。なぜなら、用途が多様で、折りたためばスペースをとりません。たとえば、かさばらないエコバッグになりますし、ギフトラッピングとしておしゃれです。また、読んで字のごとく、敷物として使えますし、冷えたときのちょっとしたひざ掛けになります。だから、私はいつもハンドバッグに入れて携帯するようにしています。

②    接続詞テンプレとして使う
 論文やビジネスメールなど論理展開がパターン化された文書は、要旨を決めて書き始める。論文やレポートでは「しかし」→「そこで」、ビジネスメールでは「さて」→「つきましては」→「なお」のように、接続詞の間に文を当てはめていく方法がある。

③    テレビのテロップ的に使う
テレビ番組では、視聴者に次の映像を観たいと思わせるために、「ところが」「すると」「さらに」といった接続詞を、テロップで示す手法を取ることが多い。これを応用して、接続詞の後続文脈を期待させる後に続く文脈を読者に期待させる効果を狙う。

 このような実践的なテクニックを活用する一方で、接続詞の使用が逆効果になる側面にも注意したい。以下の3点から接続詞の非論理性について考えた。

①    接続詞の多用は、論理が錯綜して読みにくくなる原因になる。
②    話し言葉の接続詞に見られるように、牽強付会になりやすい。
③    接続詞を使うと、そこに論理の飛躍を含みやすい。

接続詞の使用率は、一般の文章では文全体の10%程度、論文、レポートでも25%程度である。先に述べた車の方向指示器と同様に、接続詞もたまに使うから意味がある。多用しないよう気をつけたい。また、話し言葉の接続詞に見られる「逆に」「要するに」など強引に論理を展開しがちな場合や、

    北海道の夏は涼しい。だから、ミヤマクワガタが多い。

このように書き手側の論理は完結しているが、他の説明要因が足りないために論理が飛躍する場合がある。接続詞の論理性を損なうことのないように、前後の文の論理展開に注意していきたい。

まとめ

接続詞の運用は、翻訳品質を高めるために欠かせないスキルと言える。原文、訳文それぞれの言語における接続詞を正しく理解し、原文の論理展開を訳文に反映させていくことが、質の高い翻訳につながるだろう。本講義で示された豊富な文例をもとに、接続詞の知識体系を深め、翻訳や文章作成の実践に役立てていきたい。


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