• トップ
  • 特集一覧
  • メディカル翻訳の極意:原文に足さず、引かず、コンセプトを伝える●渡辺典子

メディカル翻訳の極意:原文に足さず、引かず、コンセプトを伝える●渡辺典子

2014/07/11

メディカル翻訳の極意:

 原文に足さず、引かず、コンセプトを伝える






株式会社アスカコーポレーション
顧問、シニアトランスレーター
渡辺典子

201407011137_2-160x0.jpg


 
「赤毛のアン」などの翻訳で知られる村岡花子を主人公とする今期の連続テレビ小説「花子とアン」が好評で、私も女性翻訳家の先駆けの生涯を描いたこのドラマを毎朝興味深く見ている。第32話で、「翻訳とは原文との距離感が大事なんだ。原文に引きずられて直訳や不自然な日本語になってはいけないし、読みやすさを重視して端折りすぎても駄目だ」というセリフがあり、「原文に足さず、引かず、コンセプトをそのままに伝える」を目標とする私は思わず頷いてしまった。メディカル翻訳なので、正確な内容理解は大前提として、その上で原文全体の流れを理解し、センテンス、パラグラフ、セクションがそれぞれに果たしている役割を俯瞰的に把握し、それを反映させながら訳文を展開させていくことが大切だと考えている。
 
メディカル翻訳では何より正確さが求められる。内容を正確に理解するためには、まず経験を積み、多くの疾患、多くの薬剤について幅広い知識を集積していくことが重要である。また、言葉は常に新しくなるので、辞書の訳語にとらわれず、現場の医療従事者や研究者がどんな言葉を使っているのか、アンテナを張っておく必要がある。実際の翻訳の作業においては、クライアントから提供された資料の中から必要不可欠な情報を迅速に抽出したり、インターネットなどによる検索で周辺の状況について理解を深めたりすることを心掛けている。経験と知識があれば、原文には書かれていない背景を察知することができ、より的確な訳語を選び、ニュアンスを過不足なく伝えることができる。
 
学術文書には無駄な文章がなく、ひとつひとつのセンテンスに意味と役割がある。つまり、結論に向かって何らかの役割を果たしている。前後のセンテンスとの関係や結論に対する位置づけを考えれば、おのずとその役割が浮かび上がってくるので、それを活かした訳文にすることにより、論理性の高い、読者が理解しやすい翻訳になる。これはセンテンスに限らず、パラグラフ、さらにはセクションにも当てはまり、ひとつひとつのパラグラフやセクションがそれぞれに持つ役割を十分に果たせば、よりオーガナイズされた文書に仕上がる。最初に自分が原文を読んだ時に得た知識や印象を訳文から読者にそのまま感じ取ってもらえることが理想である。
 
こうして最善を尽くした翻訳もクライアントのジャストなニーズに応えることが最終目標なので、時に自分の意に反しても、クライアントの好む表現に合わせられる柔軟性も翻訳者に求められる資質のひとつだと自分に言い聞かせている。
 
 
201407011118_1-400x0.jpg