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1-1 ゲームローカライズの極み― 多言語同時開発を生き残るためのブルーオーシャン

2014/01/10

柴山 正治(Wehner Marcus)

株式会社 スクウェア・エニックス ローカライズ部 シニアトランスレーター
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報告者●津田 美貴(個人翻訳者)

 



J-LOP (http://j-lop.jp) がゲーム業界では今ホットな話題である。J-LOPは、日本のコンテンツを海外に展開する際に必要なローカライズやプロモーションの支援や費用の一部を助成してくれる制度である。海外ではこのような助成はわりとメジャーだったが、日本もコンテンツを売り込むことにやっと本腰を入れはじめたようだ。

現在のスクウェア・エニックスのローカライズで主流となっている海外言語は、EFIGS+CH+KOである。今後は成長著しいBRICSも増えてくるであろうし、さらにMENA(中近東やアフリカ地域)も伸びてくるのではないかと予想している。

一般的にゲーム翻訳に限らず、翻訳は社外の翻訳会社などに一括して頼むことが多いのではないだろうか?最近発表があったが、Google社でも今後ゲーム翻訳を開始するそうだ。40カ国語に対応し低価格で翻訳を行う予定だとか。このように社外に委託しようと思えばいくらでも可能だが、弊社では社内にローカライズ部を置いて翻訳を行っている。そこで、今回は「あえて社内でローカライズ部を持つメリット」についてお話したい。

 弊社のローカライズ部は60名位が在籍し、コーディネーターとトランスレーターで成り立っている。コーディネーターはローカライズ予算の作成や進捗管理、ゲーム開発に携わる各部門また海外スタジオとの連絡窓口として動く。トランスレーターはゲームタイトルの提案やインゲーム翻訳、用語集の作成、ゲーム仕様の調整などを行う。通常、FINAL FANTASY®などの大型タイトルだとコーディネータや言語担当者は4~5人で形成され、つねに多数のタイトルが同時進行で作業が行われている。

どちらかというと、ローカライズ部単独での作業というよりは社内の他の部署と連携して行う仕事が多い。たとえば、経理部や人事部と連携してビザの発行や特許申請を行ったり、倫理構成部門と連携して発売国の倫理に触れるような表現や描写がないかなどをチェックしたりしている。このように他部署と連携して作業を行っているにもかかわらず、なぜかローカライズ部の忙しさや存在価値を今ひとつ理解してもらえていないように感じることが時々ある。ローカライズ部も会社の1部署であるので、会社にどのように貢献しているかをアピールしなければならない。一番簡単な方法としては1日あたりの翻訳スピードという手があるが、これでは翻訳の質の向上やローカライズの地位向上にはつながらない。そこで、本来のプロジェクトの翻訳以外にも、社内向けに啓蒙活動を行っている。たとえば、社内向けに海外のゲーム開発専門誌を翻訳したり、海外で話題になっているゲームを幅広く紹介・解説したり、旬の海外ゲームを社員向けに貸し出しするサービスやローカライズバイブルの作成を行っている。

ローカライズバイブルは、スペックシートのようなもので、たとえば、自動改行を入れる、イベントスキップ機能を入れる、リップシンクする、Unicode対応、言語別のファイルセットを用意するなど、ゲームを開発する際に注意して欲しいことがまとめてある。そしてプロジェクトが終了した際に、そのプロジェクトがローカライズバイブルにどれだけ対応していたかを評価し、履歴をつけて利用している。

 社外の方から「翻訳の際にどこの翻訳支援ツールを使っているのか?」と質問されることがよくあるが、当社ではすべて内製の翻訳支援ツールを使用している。”Moomle”という音声台本用のツールと”Rosetta”という字幕+全テキスト用ツールの2つである。なぜ内製ツールなのかというと、既成品では使い勝手が悪かったというのが1点。もう1点は、社外の製品だとその会社が買収されたり倒産した場合、製品が無くなってしまったり使い勝手が変わってしまったりする恐れがあるからだ。内製ツールの場合、社内で開発しているので改良や機能追加、GUIの変更など気軽に意見が出せ、その都度対応してもらうことが可能だ。そのため、弊社では内製ツールを使用している。

翻訳を頼む側にとって、社内にローカライズ部を持つ一番のメリットは「無茶が効く!」ということではないかと思う。基本的に翻訳者1日のアウトプットを日本語からFIGSの場合、3000文字で計算して作業をしているが、最盛期には最高で1日に11343文字を訳したことがある。もちろん、翻訳の質を我慢してもらうなど妥協してもらっての数字だが、本来ならばこんな無茶な翻訳を行いたくはない。しかし、身近で開発が頑張っているのを見て知っているので、多少の無理なら応えたいと思うのは自然なことだ。一般的に外に出す時には、こんな無茶な依頼は通常できないはず…である。

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