1-4 グローバル申請で求められる医薬翻訳の品質

2016/01/15

北川原 浩子 Kitagawara Hiroko

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CSLベーリング株式会社 開発本部
大学卒業後、全くの文系ながら縁あって外資系製薬企業のマーケティング部門に職を得た。その後、留学を経てしばらく在宅で医薬翻訳に携わり、10年ほど前から製薬企業の開発部門で社内翻訳者として勤務。以来、新医薬品の開発申請、メインテナンス、その他諸々に関わるさまざまな翻訳に取り組んでいる。モットーは、翻訳は「言葉探しの旅」。日々、目指す「言葉」を探し求めて旅している。

モデレーター:

千種 美穂 Chigusa Miho

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株式会社アスカコーポレーション QCマネージャー
兵庫県出身。大学卒業後、日本語が読めない知人のために日本語の書類を英訳したことをきっかけに翻訳業界に興味をもつ。特にメディカル分野の翻訳に関わりたいとの思いから、2009年より株式会社アスカコーポレーションにて勤務。翻訳の品質管理責任者として営業スタッフとともに顧客を担当すると同時に、翻訳者などのリソース採用活動や教育のための勉強会企画に携わる。2014年に大阪から東京へ転勤となり、東京支店の品質管理チームの強化に取り組んでいる。
 
報告者:赤間ゆみな

 


求められる医薬翻訳の品質(北川原)

 医薬翻訳には医薬品に関する翻訳、医療機器に関する翻訳、医学系の翻訳の3つのジャンルがある。このうち医薬品に関する翻訳がいわゆる治験翻訳で、今後需要が増えることはあっても減ることはない領域である。

 治験翻訳のニーズが高まった背景にICHの発足がある。ICH発足以前は日欧米が別々に各々の審査基準(ガイドライン)で新医薬品の評価承認をしていたが、各地域の医薬品承認審査の基準を合理化・標準化し、安全で有効な新医薬品を必要な患者により早く提供するためICHが発足した。以降、ICHは年2回「専門家作業部会」を開催しガイドラインの素案を作成している。各地域の基準がガイドラインで統一されたことで、治験翻訳というジャンルが確立した。ガイドラインは通知として発出されており、日本では厚生労働省医薬・生活衛生局から出されている。

 新薬開発には10年前後の時を要する。候補薬物発見後3~5年かけて前臨床試験を行い、その後人における試験である治験が始まる。いくつかの治験終了後ようやくCTD作成、承認申請となるが、ドラッグラグ解消を目指し審査期間が短縮されているため、機構から出る照会事項への回答にはトップスピードで対応が必要である。この照会事項の翻訳のほか、回答受理後の審査報告書、承認書、その他多くの文書で翻訳会社や翻訳者の手を借りることになる。これらの翻訳には質とスピードの両方が求められる。

 質とスピード両方を上げるため、翻訳の際は必ず定訳を探すこと。PMDAのホームページは情報の宝庫で非常に役立つ。どのような分野のどのような文書であるかを理解し、その分野、文書で標準的に使われる用語を調べふさわしい訳をする。これを迅速に行うために自分の辞書を作ると良い。その仕事の先には、薬を待つ患者様がいることを忘れてはならない。

翻訳会社の品質管理(千種)

 翻訳会社では翻訳の品質向上のためにチェック工程を設けている。チェッカーは、数字と単位、固有名詞、訳抜け、誤字脱字、誤訳、スペルチェックと文章校正、全角文字の有無(英訳のみ)、レイアウト、参考資料との整合性、文書内の用語統一、主述の不整合、てにをはの違和感をチェックする。仕上げに数字と単位をダブルチェックして客先への確認事項(コメント)の記載を検討し、商品として美しいレイアウトかどうか確認して納品する。英日翻訳の場合、チェッカーは約4,000ワード/人日のペースでこれらのチェックを行う。

 チェックの効率化と精度向上を目指す取り組みとして、チェッカーの修正した内容の分類とカウントを行っている。ある月の単月データからは、英日では誤字脱字、不適切な訳語、指示事項違反が多く、日英では訳抜け、誤字脱字、誤訳が多いという結果が出た。この取り組みは、まだ始めたばかりで傾向を見出すほどのデータは蓄積されていないが、効率的で精度の高いQCを実現するために必要な情報だと考えている。