6-4 ISO/TC 37/SC 5コペンハーゲン会議参加報告&パネルディスカッション

2017/01/20

パネリスト:

水野 真木子 Mizuno Makiko

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金城学院大学文学部教授。「法と言語学会」副会長。
会議通訳と法廷通訳の経験を経た後、大学等での通訳教育に携わっている。法廷通訳言語分析や通訳者の役割研究など、コミュニティー通訳の分野を中心に研究している。近年の研究テーマは、要通訳裁判員裁判における法廷通訳の言語分析を通じて裁判員の心象形成や意思決定への通訳の影響を解明することである。「司法通訳の質向上のための言語学者と法学者のコラボレーション」が現在関心のあるテーマである。司法通訳に関する主要著書として、『コミュニティ通訳―多文化共生社会のコミュニケーション』(共著)(みすず書房 2015)、『実践 司法通訳』(共著)(現代人文社、2010)、『コミュニティー通訳入門』(単著)(大阪教育図書 2008)、『司法通訳』(共著)(松柏社、2004)などがある。その他、多くの論文と、海外を含めた学会での研究発表がある。

Andrew MIGITA-MEEHAN

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株式会社ミーハングループ 代表取締役社員 国際会議通訳者協会(AIIC)
長崎県出身。スイス国際会議通訳者連盟(AIIC)会員。ジュネーブ大学大学院通訳翻訳学部卒。ニューヨークの住友銀行、ニクソン元大統領経営法律事務所マッジローズ他で「9・11同時多発テロ関連航空再保険事件」「住商事件」「バリ爆弾テロ事件」「大和事件」を担当後、株式会社ミーハングループを設立。現在は会議通訳者、法廷通訳者、セミナー講師として活動。TC37 SC5国内委員。

篠原 明夫 Shinohara Akio

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株式会社放送サービスセンター テクニカルアドバイザー
1972年:株式会社 放送サービスセンター入社
2009年:常務取締役就任
2015年:常務取締役退任後、テクニカルアドバイザー
ISO/TC37/SC5/WG3 松江会議にオブザーバー参加
2016年:ISO/TC37/SC5/WG3 コペンハーゲン会議にオブザーバー参加
【主要同時通訳運用業務】
1979年:第5回先進国首脳会議 記者会見/技術運用
1986年:第12回先進国首脳会議 記者会見/技術運用
1988年:IOC総会/ソウル/技術運用
2002年:日韓ワールドカップ 記者会見/技術運用 
2008年:第34回先進国首脳会議/技術運用 
2010年:APEC JAPAN 2010/技術運用
2010年:COP-10/技術運用

佐藤 晶子 Sato Akiko

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JTF理事、JTF/ISO規格検討会通訳プロジェクトリーダー アトリエ・アーク・マリー代表者
外為専門銀行勤務、社内通・翻訳業務を経て、金融・法務関係の翻訳、法廷通訳、大学非常勤 講師業務に従事。言語文化学修士(大阪大学)。ISO総会は2014年から参加。JTF理事。ISO国内委員会委員。共著『第二次世界大戦の遺産―アメリカ合衆国』(大学教育出版)『Modern Japan: Social Commentary on State and Society』(Springer)出版。2016年6月個人事業主として「金融・経済・法務」「医学・医薬」を認証範囲とするTSPとしてISO17100:2015認証を取得した。TC37 SC5国内委員。


モデレーター:

森口 功造 Moriguchi Kozo

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JTF/ISO規格検討会副議長・機械翻訳プロジェクトリーダー 株式会社川村インターナショナル 取締役
品質管理担当として株式会社川村インターナショナルに入社後、チェック、翻訳、プロジェクトマネジメントなどの制作業務を経験し、2011年からは営業グループを含めた業務全般の統括として社内の管理に携わっている。ISOの規格策定には、JTFのISO検討会発足時から参加し、当検討会では副議長を務め る。TC37 SC5国内委員。
 
報告者:小川順慈(株式会社日本翻訳センター)
 



JTFは翻訳および通訳の国際規格策定の動向を把握し、業界団体としてのISO酷な委員会に提案することを目的として2012年より関わってきた。このセッションでは翻訳も一部関係するが、大部分は主に通訳に関しての報告を行っていく。

ISO/DIS18841「一般通訳サービスの要求事項」(佐藤氏)

本規格は通訳サービス一般に関して包括的に策定が進められている規格である。通訳者、通訳会社等の通訳サービス提供者、通訳サービス依頼者を対象とする。当初は、初級/中級/上級のレベル分けや同時通訳の稼働時間等の数値が設定されていたが、そうした数値等は分野を特化した国際規格で検討されることとなった。これまでに、インターネットを利用したWebEx会議が複数回開催され、話し合いが継続的に行われている。用語は「ISO17100:2015翻訳サービスに関する要求事項」と齟齬が起きないように調整している。最近の話し合いでは、CompetenceとSkillの違い、Native Language・Primary Language・A Languageをどう捉えるかなどの検討が行われた。2016年10月にDIS登録された。今後はWebEx会議で話し合いが細部に渡って行われ、本年度中にFDIS登録が行われ、2017年5月に発行の予定である。

ISO/DIS20228「法務通訳」(水野氏)

法務通訳はプロの翻訳者によって法の場での適正なコミュニケーションを助ける必要があるが、法律等が国や地域によってさまざまであり、その基準が確立していない。特に日本や韓国には国内法が整備されていない。過去、EUでの域内基準確立の動きが盛んであったが、そのような動きがこの規格策定の背景にあると思われる。しかし、近年、国や地域の事情によっては通訳者のプロ化に逆行する動きもあり、懸念されている。法務通訳の規格は「一般指針」ではなく「要求事項(Requirement)」となり、資格要件について検討が行われている。この資格要件として学位・公的資格・過去の翻訳経験年数などが考えられているが、日本や韓国といったアジアの諸国には満たすことが難しい要件である。語学能力の基準としては、欧州中心の資格であるCEFRに対して、日本には英検・TOEIC・日本語検定があることを通知し、それが盛り込まれることになった。また、少数言語の場合、規格のRequirementをRecommendation にするといった日本からの提案が受け入れられてもいる。

ISO/NP「医療通訳」および「会議通訳」(MIGITA-MEEHAN氏)

ISO通訳翻訳規格委員会のメンバーはここ10年ほどで数倍に増えており、医療通訳と会議通訳の規格策定が予定有れている。会議通訳にはドイツの翻訳会議連盟(AIIC)メンバーがリーダーを務めてその基準が土台となり、医療はアメリカの医療通訳協会元会長によって決まってくると思われる。医療と会議は東京オリンピックには間に合わないと思われるが、今後よりグローバルスタンダードになることが予想されるため、日本でも対応できる内容に整備していくことが重要と考えられる。この規格策定には政治関係も大きく、特にまだ動きはないにしてもドイツ・アメリカの厳しい基準に対して慎重に対処し、日本の業界に不利にならないようしっかり議論していくことが肝心である。既に去年の国連防災世界会議・G7・TICADなどの首脳会議、オリンピックなどでは多くの入札案件にISOが条件となっていて、ロビー活動も盛んなことから、通訳翻訳のISOにも入札条件が入り始めるのは時間の問題と考えられている。

「通訳機器関連」(篠原氏)

同時通訳常設ブースの一般的特徴と機器の要求事項に関しては、大きな変更はなく、賛成多数で承認されている。ブースのための建築基準も賛成多数で承認されている。同時通訳機器に関する要求事項(遠隔同時通訳)は現在進行中であるが、2017年春には賛成となる見込み。同時通訳音響及び画像に関する要求事項は賛成多数で承認。映像に関しても細かい条件が決められている。大きな難点としては日本での通訳機器の運用は欧州・北米とは異なる事情がある。同時通訳運用は多言語同時通訳が少なく、大半は日英2か国語通訳。放送サービスセンターの2015年度実績を参照しても91%が2か国語翻訳、3か国語が6%、の合計97%であり、4か国語以上に対応することはほとんどない。日本国内は英日が主流のため、通訳機器も簡易のものが好まれる傾向にある。そのため、複数言語対応は技術的には可能であるが、国内の仕様にあった機器はどちらかといえば2~3言語対応が効率的であり、設営・撤去などの作業性が高い。通信機器も国内メーカーの製品でこれまで同時通訳の運用業務を行ってきたが、メーカーがほとんどなくなり、多言語対応可能だが多くは国内の通訳業務に不要な機能も持つ海外製品で運用が行われることになる。

ディスカッション「通訳関連企画が業界にもたらす影響と日本通訳業界側の影響」

翻訳と通訳は規格が似ており連動している部分もあるが、欧州と日本の事情の違いから規格政策において問題になることも多くある。大きな変更点として元々存在していた要求数値がなくなり、A/B Languageという区分になったことがある。また、今後、全般の通訳と専門の通訳(特に法務と医療)の2つの要求が出てくる可能性が高い。これらの要求を満たさないと企業は入札に参加できないといったことが起きる。検定には通訳者だけでなく通訳事業者も要求事項を満たす必要があるものもあるが、そのために必要文章を全部翻訳する必要がでるなど国内事業者にはハードルが高い面もある。また、利益があがらないと検定を受けないのではないかといった指摘もある。通訳を主な事業としている会社の数は多くないが1社あたりの利益は高く、これらの会社からも意見を聞いて規格作成に役立てていく。ただし、翻訳を中心としているが少量でも通訳も行っている会社は多くあるため、その点も考えていきたい。

質疑応答(抜粋)

Q:東京オリンピックなどで規格の対象となるのはどういったところになるのか?
A:主に東京都内での花形となるイベントでの通訳になると思われる。地方などでは予算の関係からボランティアを要求する事も多く、今後の流れ次第ではあるが、規格によって守られる部分とそうでないところで二極化が起こる可能性はある。オリンピックのような世界的なイベントでは欧州的なある程度高い規格が要求される。

Q:国内の大学等で欧州のような通訳教育を行うような機関はあるのか?
A:実際に行っているところはまだ少ないが、近年増えている。また、大阪大学で医療通訳等の認証の動きがある。現状、通訳の学会では、通訳教育についての議論が行われているが、実際に学会として通訳教育を行うような動きはないが、通訳教育のモデルのようなものが今後作られるかもしれない。日本の大学機関ではアカデミックではないという認識のため通訳を勉強しても学位が必ずしも「通訳」とはならないので、欧州のような通訳の学位を得ることがないため、規格の要件を満たすのが難しい。

Q:日本の国内では通訳の資格がないといった事情に合わせて当初の要求事項に反対した結果、内容が薄く差別化ができなくなったのではないか?
A:指摘はもっともであるが、大枠の部分に関しては決まっており内容が薄いということはない。

総論:既に動きがある部分はあるが、先行きはまだ不透明な部分も多い。ただし、個々の規格会議は連動しているので時期に関しては大まかな目途がつく。日本はアジアの中でも特に積極的に活動しており、発言権は弱くない。今後も活動を続け、業界にとって有用な国際規格となるように努力を続けて行きたい。