世界に挑戦する!●クゼム・バタワラ

2012/05/11

世界に挑戦する!


 

クゼム・バタワラ


カ クタス・コミュニケーションズのグローバル・マーケット部門責任者。韓国法人の代表も兼任している。主に日本人、韓国人、アメリカ人、台湾人、中国人、ド イツ人、ブラジル人従業員と密に働いているため、多種多様な事業に関わる。主要市場である日本にも定期的に来日し、見識を深めている。将来の夢はカクタ ス・コミュニケーションズを世界一の英語サポートサービス会社にすることである。

カクタス・コミュニケーションズは現在インド本社を 中 心に、日本・アメリカ・韓国・中国に現地法人を持ち、エディテージといサービス名で世界中の3万人以上の顧客に英文校正を中心とした論文サポートを行って いる。最近では、研究者向けサポートも積極的に行っており「英語論文の書き方セミナー」を自社または各研究機関で開催し、若手研究者向けには研究助成金も 捻出している。
ウェブサイト www.editage.jp

 

日本人のあらゆる物事に対する正確さ、品質重視の姿勢、そして規律正しさは世界でも有名な話 です。まさにそれゆえ日本は長い間経済的な優位性を保っているのだと思います。しかしながらこの変わりゆく世界経済の流れを受けて世界中の国々は変化を求 められており、日本もその例外ではありません。
日本を第一市場として英語サポートサービスをグロバール展開している私達は、日本人を含めた世界中 の顧客、パートナーそして従業員と密接に働いてきました。私達の体験を基に、現在の世界事情に適応することが日本にいかに利益をもたらすか少しだけお話で きればと思っています。

千載一遇のコラボレーションチャンス
日本人と働き出して最初に直面し た問題は共同作業文化の違いでした。共同作業を行うとコンセンサスが重要になり、各自責任を持って業務に取り組みチームの結束力も高まります。しかし同時 にマイナス面もあります。日本人従業員はコンセンサスを求めるあまり、自分の本当の意見を述べる、または自分で決断することを躊躇しがちです。自分の意見 があっても他の従業員が同意しないことを進めようとはしません。言い換えるとリスクを冒そうとはしません。もちろん大変素晴らしい面もたくさんあり、顧客 目線、絶えず品質改善を追求していく姿は、私達の文化にはまだまだ浸透しておらずいつも感心させられます。
日本が千載一遇のビジネスチャンスを掴み取った過去の経験やノウハウに加え、各自が自分で考え相手を説得・決断し、リスクも負えるスキルを身につけたら一体どうなるでしょうか?可能性は無限大です!

隠れた能力を引き出す
創業当初の日本人従業員はほとんどが研修生でしたが、私達は彼らの意見にいつも耳を傾けていました。またアドバイスを求めることさえありました。これは通常の日本企業ではなかなか考えられない話かもしれませんが、欧米またインドでは決して珍しいことではありません。
創 業から1年足らずの時期に、日本から来た研修生がインドで2年間勤務しました。暫くして彼は研修生でも皆と違う意見を堂々と伝えることができる、また会社 がそれを後押ししてくれることを実感しました。そこで彼は今までとはまるで違うビジネスモデルの提案をしました。それは当時の私達には大変大きなリスクを 伴うもので簡単な決断ではありませんでしたが、彼を信じ実行しました。結果は、といいますと。それからわずか数年後に、インドの町工場一画から数名で働い ていた会社から世界5カ国に事務所を構える会社へ変身を遂げました。またその研修生は今では日本法人で中核となり活躍しています。
私達は日本人従業員に、枠に囚わられない発想をし、それを自由に表現する場を与えることがジェット機に燃料を注ぐ様なことだとわかりました。彼らの隠れた能力を引き出すだけでなく、彼ら自らが運転手となり猛スピードでかつ安全・快適な旅を提供してくれます。
 
 
失敗を恐れず行動する
私たちは失敗を恐れず、また社歴など気にせず最適なタイミングで最適な役割を日本人従業員へ与えることが、彼らの内にある企業家精神を引き出し、イニシアティブを持って行動に移せることを体感しました。
イ ンド本社で5年間勤務している加納も同様のことを感じています。「以前勤めていた名古屋にある企業では、新規事業の企画から立ち上げまでに1年間は要して いました。しかし似たような事業立ち上げが、カクタスではわずか1週間で終わってしまいます。なぜなら決断プロセスが非常に早く、皆がリスクを負うことを 恐れないからです。失敗しないことに重点を置くのではなく、成功することに焦点を当てている点が日本と大きな違いだと思います。」
もちろん企業経営に大きな影響を及ぼすことや、重大な過ちになりかねない問題もあるので、全ての決断を迅速に下せるわけではありません。しかし迅速な決断は、メリットをもたらすことの方が多く、事実私たちに失敗よりも多くの成功をもたらしてくれました。
加 納はまたこう加えています「私が日本で働いていたら1年かけて一つのプロジェクトを完成させると思います。カクタスでは同じ1年間で50プロジェクトを完 成させます。45件がうまくいかなくても、残りの5件は成功すると思います。日本で完成させた1プロジェクトは恐らく成功すると思います。なぜならそこに は多くの時間と労力をかけたからです。しかしもし仮にそれがうまくいかなかったらどうなるのでしょうか?」

いい所取り!
世 界中から来る従業員と一緒に働くことにより、東西のワークスタイルのメリット・デメリットを感じました。その経験からお互いに利点をうまく活かす方法を学 びました。結果、常に自分自身の限界に挑戦し失敗を恐れず成功に貪欲な、かつお客様目線で品質に妥協しないチームを築くことができました。
欧米人からは客観的かつ理論的であることを、日本人を中心としたアジア人からは顧客との人間関係構築の大切さを学びました。日本人以外の従業員には、顧客満足や品質重視の大切さを浸透させ、日本人には自分で理論的に考えリスクを恐れず決断・行動することを浸透させました。
欧 米人は年齢や経験が必ずしも重要ではないことを証明してくれました。事実会社にとって革新的なアイディアは入社後まもない従業員の一言だったりもしまし た。ヒエラルキーや規律は、会社運営では必要不可欠ですが、そのことが成長の障害になってはいけません。カクタスでは研修生であっても、アイディアや質問 があれば社長に直接話しに行くことを奨励していますし、定期的に誰でも参加できる会議を開き、そこで日頃から疑問に思っていることを社長に投げかけ、仮に 厳しい質問でもその場で社長が納得するまで皆の前で回答する場を設けています。この会議を通じて「会社は我々のアイディアを大切にしてくれていて、やる気 になれば自分たちが会社を変えられる」と実感できモチベーションアップにつながっています。
日本からは語りつくせないほど多くのことを学びまし た。(1)本日カクタスにある規律は日本から教わった賜物です。私たちは常にお客様目線に立ち、品質改善を怠ることなくまた納期遵守のポリシーを貫いてい ます。インドでは30分程度の遅れはたいしたことがないと思われていますが、日本人から1分でも遅れた場合は理由が何であれ遅れであるという強いプロ意識 を学びました。今ではこの日本人から教わったノウハウを全世界のマーケットに生かしています。競合との差別化が図れるのは容易なことです。

再度世界に挑戦する!
イ ンド本社に勤務しているもう一人の日本人従業員である安田は「カクタスが短期間で成長した理由は成長に貪欲で不可能はないと本気で信じていることです。そ の精神は今の日本企業に欠けているかもしれません」と自身の経験から伝えています。ここで少し考えてみたいのですが、戦後日本が急成長を遂げたのはまさに これらの精神であったのではないでしょうか?日本が世界に適応していくのではなく、昔のように失敗を恐れずどんどん前に進んでいくことなのかと思います。
今は誰もが「日本は国際化していく必要がある、変わらなくてはならない」と話しています。私たちはこのことに非常に驚いています。なぜなら私たちは日本から多くのことを学び、常にアジアのお手本であったからです。その日本にとって国際化が大きなハードルなのでしょうか?
恐 らくマインド設定を変える、または昔は必要であったが今は時代遅れの決まりごとを捨てるなどの変更は必要かもしれません。しかし本質的には戦後の日本人が 抱いていた「アメリカに追いつき追い越せ」などのチャレンジ精神を再び身につけることにつきると思います。規制概念、根回し、年功序列などの考えを捨て新 しいアイディア、若者の潜在能力を引き出す仕組み作りをすれば、すぐまた世界のリーダーに戻る国になると強く信じています。
終わりに、これから海 外進出を検討されている翻訳会社の皆様へ一言アドバイスがあります。マーケット対象国が決まったら先ずはその国から数名研修生を日本で雇い、市場調査、現 地の風習、文化などをその従業員とやりとりしながら学んでいき、充分に勝算があると判断した場合は現地法人を設立し、運営は現地スタッフに任せることをお 勧めします。もちろんスタートアップ時は日本人スタッフが必要ですが、ひと段落したら後は現地スタッフにお願いする方が当人たちもやる気になりますし、そ の国のことはその国の人たちが一番良くわかっています。これは私達の経験からお話していることで一番効果的だと思っています。
 
(1)2009年11月にインド本社から日本へ出張に行った者が帰国後社内イントラネットに書き込んだ日本での経験談です。
ビ ジネスの中心街である日本橋は夜中だったので通りに人影がほとんどありませんでした。日本事務所から滞在先のホテルへ戻る途中で工事中の道路に遭遇しまし た。片斜線が通行止めになっておりドライバーの注意を促す三角のライト付きコーンがあちこちにありました。私が驚いたのはこれだけではなく、数箇所で車や 通りを行きかう人々を誘導する警備員の姿でした。彼らは手にライトがついた棒を持ち、真夜中の寒空の下忠実に自分の任務をこなしていました。あの時間には ほとんど通行人がいなかったのですが、たまに通りがかる人が安全にそして事故に巻き込まれないよう、彼らはしっかり誘導をしていたのです。日本では当たり 前のことなのでしょうが、私には衝撃的な光景でした。日本の安全に対する意識の高さに驚愕しました。これを自分たちに置き換えると99%の依頼を時間通り に納品するだけでは十分でなない。残りの1%はどうなってしまうのでしょうか?もちろんミスは犯すものです。ただ100%を保障するために最善の努力をし ているでしょうか?残りの1%をなくす施策を必死で考え実行しているでしょうか?答えはこの経験(日本)にあると思います。
 
 
 

コラムオーナー

2012/05/11

上田 恵司(うえだ けいじ)

中学の時にフランス語を習って以来、語学オタクの道を歩み始めました。これまで手を付けた言語は約35言語(必ずしもマスターしたわけではありません)。これまでの職歴(PR会社、総合商社、製造業)では海外数か国(アメリカ、フランス、カメルーン)で勤務をするとともにほぼ常時社内通訳・社内翻訳の状態でした。毎日が多言語状態です。