多言語翻訳の現状と今後の動向●JAT東京月例セミナー

2013/03/08

昨年春から始まった「南船北馬」は、今回が最終回になります。

そこで、海外翻訳事情に目を向けてきたこのコーナーの締めくくりとして、英 語以外の言語、あるいは英語とその他の言語を武器に活躍している翻訳者さんたちの現状をご紹介したいと思います。そのために格好のパネルディスカッション が、日本翻訳者協会(JAT)で毎月開催されている「東京月例セミナー」の1月例会として開かれました。
Trilingual(以上)の3人の翻訳者をパネリストに迎え、モデレーターは、先月このコーナーにご登場いただいたばかりの丸岡英明さんが務めました。
このパネルディスカッションの様子をモデレーターである丸岡さんがまとめたレポートが、JATのサイトに掲載されています。JAT理事会ならびにWeb担当者様のご快諾をいただきましたので、以下に同レポートを転載します。(T)
 

グローバル化からグローカル化へ~多言語翻訳の現状と今後の動向



2013 年1月12日に、東京月例セミナーとして、「グローバル化からグローカル化へ~多言語翻訳の現状と今後の動向」と題した座談会が行われました。今回のパネ リストは、日本語、英語の他に、さらにもう1つの言語(スペイン語、ドイツ語、中国語)の間での翻訳を行なっている姫野幸司さん(スペイン語)、楠カトリ ンさん(ドイツ語)、孫璐さん(中国語)の3人です。この3人の翻訳者によって、多言語翻訳のおかれている現状について意見が交わされ、グローバル化が進 む翻訳業界の今後について、幅広いディスカッションが行われました。
会場には、日英、英日を含む様々な言語の翻訳者・通訳者が集まり、会場での参 加者数は68名でした。前半には、JATのウェブサイトで会員限定でライブ配信が行われ、海外の視聴者を含む18人の会員がリモートで参加しました。合計 で、86人の参加者となります。前半については、ビデオ録画が行われましたので、JAT会員はJATウェブサイトで前半の内容を見ることができます。後半 は、録画・配信なしで、会場の参加者も含めたディスカッションが行われました。
今回、英語以外の言語に焦点を当てたセッションが行われた背景とし て、JATには他言語の翻訳者が少なからずおり、東京月例セミナーにも他言語の翻訳者の参加が多くあるのにもかかわらず、日英・英日以外の言語の翻訳に関 するセミナーはほとんど行われていないという事情がありました。
前半は、姫野さんの「ベサメ・ムーチョ」で幕を開け、3人のパネリストによる、ス ペイン語、中国語、ドイツ語の翻訳の状況についての短いプレゼンテーションでスタートしました。どの言語も、リーマン・ショックや震災によって大きな影響 を受けており、マーケットの状況は日英・英日に類似しているようです。スペイン語は、以前は英語よりも高いレートで推移していたのが、2008年以降は、 特に入札案件において値段が大幅に下がっており、英語よりも安いようなケースが多くなってきているようです。中国語については、昨年9月以降、日→中の依 頼が激減するなど、カントリーリスクも存在するという見解が出されました。ドイツ語については、特に通訳において、クライアントの英語のレベルが、日本 人、ドイツ人ともに上がっており、以前は独日の通訳を必要とした会議でも、英語で直接行われることが増えているそうです。また、英語以外の言語において も、優秀な日本語学習者が増えている中、ターゲット言語となる母語の表現力を強化することの重要性が強調されました。
さらに英語での調査能力が他 言語翻訳者の付加価値となるという意見も出されました。英語以外の言語に共通する点として、リソースの少なさがあります。オンライン辞書はあっても、 CD-ROMの辞書のようなものは存在せず、専門分野の用語を網羅した辞書もほとんどなく、インターネットでリサーチするしかないという状況は、どの言語 でも同じであるようです。しかも、専門的な用語の場合には、英語を介さなければなかなか調べることができないため、英語の知識も必要となります。
英 語に関しては、どの言語でも、日本語でのカタカナ語(外来語)と同様に、訳さずに英語の単語をそのまま使うことが増えてきているそうです。とは言っても、 同じスペイン語でも、アメリカとの密接度によって英語の受け入れ度合いが異なり、国によって用語が全く違うこともあるそうで、同じ中国語でも、台湾と中国 で同様の現象があります。ドイツ語では、英語の動詞をそのままドイツ語の文法に合わせて活用させるようなことも起こっているそうです。
これらの内容を踏まえ、後半は、会場の参加者も含めた幅広いディスカッションが行われました。
まず第一に、こうした厳しい状況が続く中、他言語翻訳者の今後の活路について議論が交わされました。
さ らに、機械翻訳を翻訳の作業に活用できるのかについて議論が行われました。3人とも機械翻訳を下訳として使うということは行っていないそうですが、うち2 人はCATツールは活用しているそうです。機械翻訳は、英語ネイティブ以外が書いた意味不明な英語を解読する際に参考にしたり、重訳の繰り返しで内容が理 解できない文章になってしまった文章を理解するために、大元の言語の原文を探し出して英語に機械翻訳するなど、機械翻訳も使い方によって翻訳に役に立つ場 合があるという意見も出されました。例えば独英などでは、意味を理解することが目的なのであれば、機械翻訳はかなり使えるのではないかとのことです。
こ の他にも、通訳の仕事との両立、コンサルティングなどの業務も行い、翻訳プラス何かという形で、付加価値を高めていくべきかといったことについても、様々 な意見が交わされました。「通訳と翻訳の両立は可能か」との質問に対しては、全員が絶対に通訳もやったほうがいいとの意見でした。机上でじっくり調べて身 に着けた語彙も大切ですが、翻訳だけをやっていると生の言葉に触れる機会が限られてしまい、また現場で耳で覚えた言い回しのほうが自分の言葉として残ると の意見が出ました。さらに、特定の国に関する深い知識を有していれば、コンサルティング業務も可能ではないかとの意見が出されました。3人に共通していた のは、日英・英日翻訳と、他言語の翻訳・通訳の業務を組み合わせることにより、リスクをヘッジすることが可能であるという点です。
最後に、今後もネットワーク作りを強化していくことへの提言が行われ、会場の参加者からも、これからもこうしたイベントを続けてほしいという意見が多く出されました。
この会合をきっかけに、さらに内容を掘り下げた議論を行い、言語別のセミナーや勉強会などを開催し、ネットワーキングの機会を創造していくことの必要性を強く感じました。
(元記事:http://jat.org/ja/news/show/tac_participants_report_from_globalization_to_glocalization
謝辞:この原稿はJAT(日本翻訳者協会)理事会ならびにWeb担当者様のご許可を得たうえでJATウェブサイトより転載したものです。JAT関係者の方のご厚意に感謝いたします。
 

コラムオーナー

2012/05/11

上田 恵司(うえだ けいじ)

中学の時にフランス語を習って以来、語学オタクの道を歩み始めました。これまで手を付けた言語は約35言語(必ずしもマスターしたわけではありません)。これまでの職歴(PR会社、総合商社、製造業)では海外数か国(アメリカ、フランス、カメルーン)で勤務をするとともにほぼ常時社内通訳・社内翻訳の状態でした。毎日が多言語状態です。