朝型フリーランスの優雅な(?)1日●鈴木立哉

2012/05/11

朝型フリーランスの優雅な(?)1日

 

鈴木立哉(すずき たつや)


実務翻訳者。一橋大学社会学部卒業。コロンビア大学ビジネススクール修了(MBA)。野村證券勤務などを経て現職。専門は、マクロ経済や金融分野の英分レ ポートと契約書等の翻訳。訳書に『マーケットのブラック・スワン』(実務教育出版)、『下げ相場はこうして儲けなさい』(東洋経済新報社)、『成長への賭 け』(ファーストプレス)、『マッキンゼーITの本質』(ダイヤモンド社)などがある。連絡先 touch- sz@flamenco.plala.or.jp
 


鈴木立哉です。金融翻訳者として独立してこの9月でちょうど10年になります。主に翻訳者になり立ての皆さんがお読みになることを念頭に、編集部の方からお尋ねいただいた項目を中心に書かせていただこうと思います。
 
1. 全般的な生活スタイル、時間帯
平日は、午前4時~4時半頃に起きます(独立してから数年間は3時台に起きていましたがここ2~3年は1時間ほど遅れるようになりました)。
 
起床後最初の仕事はお湯を沸かすこと(大震災以降我が家は電気ポットを使っておりません)。お茶が沸くまでの10~15分ほどを利用して朝刊にざっと目を通します。一番茶を亡き父に供え自分の湯飲み茶碗に注いで着席するのが5時ぐらいでしょうか。
 
メー ルチェックとスケジュール確認、仕事前の基礎勉強(「翻訳筋トレ」と称しています。後述)などに1時間ほどかけて午前6時。そこから1時間仕事をして朝 食、4時間仕事をして昼食、朝ドラを見て昼寝を20分ほど。午後1時半頃から7時頃まで仕事をします。特に急ぎの仕事がなければ夕食までで仕事を切り上げ ます(そうでない場合もあります)。
 
午後7時頃から夕食。8時頃からのんびりして9時になると「そろそろ寝ようかな・・・」という感じ。実際には寝床で読書。10時を過ぎると電気スタンドを切るという生活です。
 
平 日は翻訳をしている時間がおよそ9時間~10時間です(今日は相当仕事したなーと思う時で12時間をちょっと切るぐらいです)。土日は起床時間が平日より 1時間ほど遅れ、翻訳作業時間が5~7時間へと短くなります。おおむね1週間の翻訳時間が60時間程度になるように仕事時間を調節しています。
 
1 カ月のリズムとしては、月次の運用レポートの翻訳が多いので毎月第1週の後半ぐらいから前月の運用レポートの原稿が届き始め2、3週目は締め切りが重なっ てほとんど外出ができなくなるほど忙しくなり(したがってふと気がつくと1週間ぐらい家族以外と会わなくなる)、月次の原稿を納品し終わって最終週がホッ と一息つける、という感じです。ですから人とお会いしたり、飲み会に行ったりというのもなるべく月末月初になるよう日程調節しています。またご縁があって 5年目ぐらいから年に1冊ほど書籍の翻訳を手がけており、その関係で実務翻訳が忙しくない時は書籍翻訳に取り組んでいますので、結局ずっと忙しいことにな ります。
 
年間のリズムは感じたことはありません。この10年間「完全オフ」の日はあまりなくて、平均すると年に10日~20日ぐらいだ と思います。今年は今のところ元旦と1月2日のみ完全オフで1月3日以降は毎日何かしら仕事をしています(2、3時間しか仕事をしない日もありますが)。 もっとも月に何度か「今日は半日休もう!」と(自分に)宣言して趣味の卓球をしたり映画を見に行ったりします。できれば毎週1度ぐらいはそういう日を作り たいのですが締め切りに追われてなかなか思惑通り行かないのが悩みの種。とはいえ勤め人の皆さんとは異なり元々この仕事「趣味が高じた結果」のようなもの ですので「365日中350日は働いています!!!」と胸を張るつもりはありません。好きなことをやってお金をいただけるという大変幸運な生活を送ってい ると感謝する日々でございます(そうしないと食えないという面もありますが・・・)。
 
2. ストレスの発散方法
好きなことを仕事にしているせいかストレスを感じることはあまりないのですが、そうは言っても1週間~10日ぐらいは家族以外と会わず、久しぶりに他人と会うと新鮮な気分にもなりますので、自然とストレスがたまっているのかも。
 
ス トレス発散というよりも余暇の過ごし方として、以前はジョギングが好きで年に1、2回フルマラソンの大会にも出て、今も翻訳フォーラムの皇居マラソン/ ジョギング会の運営(と言っても日付を決めるのと会に出席して同業者の皆さんと飲んだくれているだけですけど)をしていますが(ご興味のある方は「翻訳 フォーラム」掲示板(http://www.maruo.co.jp/honyaku/) を覗いてみてください。毎年5月と11月に実施しています。たいてい木曜日の午後3時からです)、次男が中学2年生から地元の卓球教室に通うようになり、 送り迎えをしているうちに「お父さんもいかが?」となって教室に通ううちに本格的に卓球にシフトしました。今はかなり入れ込んでいます。卓球界で一番有名 な人はプレイヤーではなくアナウンサー(「ジャストミート!」の方です)というマイナースポーツですが、とても奥の深い面白いスポーツだと思います。夢 は、できれば60代で全国大会に出たい(もちろん60歳代の部でございます)という野望を抱いており、最近は仕事でストレスがたまるというよりも、仕事が 忙しくなって卓球がしばらくできないとストレスがたまるようになった次第。本末転倒にならないよう気をつけなければと思っています。
 
3. 「翻訳筋トレ」
「実力をつけるには仕事をたくさんこなすのが一番」という主張はかなり説得力があり、それはとりわけ「勉強のための勉強」に対するアンチテーゼとして語られることが多いと思います。
 
私自身は独立直後に数カ月実務翻訳の通信講座を2つ受講しましたが、それ以外に翻訳を勉強した経験はなく独立後丸1年たった頃から仕事が途切れなくなったので、3~4年はひたすら仕事に没頭しそれが自分の実力をある程度高めたかもしれないという自覚はあります。
 
一 方、請け負う分野が絞られてくるにつれ自分がある一つの型にはまってしまったかのような感覚、あるいは翻訳に自分の変な癖がついてしまったのではないかと の不安を抱くようになりました。また翻訳は原文をインプットして日本語をアウトプットするという意味で単なるアウトプットではないと思いますが、やはり普 段の仕事とは違う観点からのインプットもしておかないと「知識や物の見方がやせ細っていくのではないか」と思い始めました。
 
そこで、独 立後3年ほどたった頃から「勉強時間」を意識的に作り始めました。とは言えいざ始めようと思うと、取り組まなければならない課題、読まなければならない本 はたくさんあってどれをどの順番で取り組むのかについても悩みましたし、仕事前にあまり「さあ勉強するぞ!」と身構えるとかえって心理的な負担となり続か ないなど、教材の選択や勉強の仕方には様々に試行錯誤を重ねましたが、2~3年ほど前からほぼ次のようなパタンに固まってきました。
 
  1. 優れた原書と訳本の音読(5分程度):私が音読して美しいと思う小説を1段落ぐらいずつゆっくり原文で、次に同じ箇所を訳書で読み、その後また原文に戻るという形で毎日1段落程度を3 、4回交互に繰り返して音読します。
  2. 優 れた原書を書き写し、それを訳し、その後に訳書の該当箇所を書き写す(7分程度)-金融分野から訳文の優れたテキストを選んでいます。最初は訳書を見なが ら自分の訳を添削していましたが、添削作業そのものに心理的、時間的負荷がかかるので、今は原文/自分の訳/訳書の訳/コメント(両方を見比べた上で自分 が思ったこと)を単に書き並べる作業をします。7分ですから、毎回取り組めるのは1文かせいぜい2、3文です。またコメント欄では、自分の訳と訳書の訳は なぜ違うのかを考え感想を書き入れます。考えるだけで、あるいは原文を書き写すだけで時間が来ることもありますがそれでよしとしています。
  3. 2 の作業で作ったファイルから重要表現(自分が間違えた、あるいは訳文が優れていると思った部分)をまとめたファイルを作り、原文/訳書の訳文/自分の訳文 /コメントのセットになったものを音読します(5分程度)。特に難解な部分や役者の翻訳が優れていると思った部分は何度も繰り返さないと定着しないと考 え、2を始めてしばらくたってからこの作業を追加することにしました。
  4. 優れた英語の書籍を音読(5分程度):翻訳と言うとどうしても原文/日本語/原文/日本語・・・という頭の働き方をする癖がついてしまうので、やはり美しい英文だけをきちんと音読する必要があると思いテキスト(エッセイ)を選んで読んでいます。
  5. 優れた日本語の書籍を音読(5分程度):優れた日本語を音読することの効用は今更述べる必要はないでしょう。
  6. 上 の1~5は毎日ですが、それ以外に金融の翻訳書から大学入試向けの英文解釈本など15冊ぐらいのテキストから毎日1~2冊を順番に各5分程度音読やら暗記 作業に取り組んでいます(したがってこちらは1つのテキストに触れるのが1カ月に1,2度となります)。テキストも面白いものがあれば加え、つまらないと 思ったら外すなど随時入れ替えています。
 
以上に全部取り組むと30分ぐらいになるでしょうか。スポーツ選手は軽いジョギン グやストレッチ、身体のバランスを作るための筋トレをしますが、翻訳でも同じことが言えるだろうと考え、この仕事前の勉強を自分で「(翻訳)筋トレ」と名 付けました。本格的なお勉強と考えると肩が張りますが、あくまでも「ウォーミングアップ」ですからお気軽に、本業の仕事のスケジュールがタイトになってき たら上記の1だけあるいは2まででやめることもあります。ただ同じパタンをしばらく続けてきて今は仕事前にせめて1をしないと気分が悪いと感じる程度まで には習慣化しました。
 
毎朝優れた文章を読みますので、感覚的には仕事前に自分に身についている「ゆがみ」が矯正される感じはあります。業務から半歩離れたところでこうした作業を毎日こつこつと積み重ねることでカラダ(翻訳力)にジワジワと効いてくるのではないかと期待しています。
 
4.  業務日誌としてのTwitter
独 立以来「営業日誌」をつけており、現在は35冊目になります。日誌と言ってもその日の最後にまとめて書くのではなく、仕事をしながら「10時~12時:A 社のレポート」といった感じの同時進行型の記録ですが、2年ほど前からTwitter上でも書き始めました。毎朝起床時間と前日の感想やその日の気分を、 そしてその日に抱えている仕事の一覧を書き込みます。もっとも守秘義務がありますので内容はかなりぼかします(例:「(1)マクロ経済レポート、5Kワー ド、納期25日、(2)ヘッジファンドレポート、2K、26日」など)。ただこれを書くことで「今抱えている仕事」を朝の時点で整理できます。そして仕事 が始まり、「○時○分:(1)のレポート納品。(2)のヘッジファンドに着手」とか、「あ、A社から翻訳の打診。条件交渉。」といった内容をその場で書き 込んでいきます。この目的はあくまでも自分自身の時間管理ですが、Twitterですから当然「他人から読まれていること」は意識しています。時々翻訳に 関する感想や気持ち(や翻訳会社に対する文句?)を書き込みます。フォロワーの方からちょっとしたアドバイスをいただくこともあります。「翻訳筋トレ」の 具体的な書籍名や学んだことも随時書き込んでいます。このように私にとってのTwitterとは、他の人とのコミュニケーション手段というよりは、「他人 に見られることを意識した業務日誌」です。したがって私は自分が関心の高い人や情報のみにフォロー先を絞っています(現在は27件)。絞らないと限られた 時間で情報収集ができないからです。また仕事先の方には原則IDを明かしておりませんが、前の書籍を訳した時には編集の方にはお教えすることにしました。 毎日の仕事の中に「今から本。現在第3章」とか書いておけば編集者がわざわざ私に連絡しなくても翻訳の進捗状況や遅れている場合その理由(どんな仕事をど の程度ほかに抱えているか)を分かってもらえるからです。今取り組んでいる書籍もそうしています。ご関心のある方はプロフィールのメールアドレスにご連絡 ください。IDをお知らせします。ただしせっかくフォローしていただいてもこちらからはフォローすることはまずありませんのであしからずご了承くださいま せ。
 
5.  最後に
今 から4年前に「JTF翻訳セミナー」で(「いつまでもアマと思うなよ」~金融翻訳者が語る自立するための心がけと具体的な方法~)、またその半年後に JAT(日本翻訳者協会)で(「金融翻訳者としての自立と持続~自己啓発を中心に~」)講師をさせていただきました。当時のレジュメを眺めながら、私自身 の仕事や自己啓発に対する考え方はあまり変わっていないと改めて思いました。それはつまり私にとっての「フリーランス翻訳」とは自分の生活と密接不可分 な、言い換えれば「生きること」に他ならない存在、死ぬ時が引退と思えるような天職だ、ということ。2つ目に、好きなことをやらせてもらっているのだから 家族には少なくとも経済的な迷惑をかけてはならない、ということ、3つ目に「自分を太らせる努力を続けないと痩せていく」ということ、そして最後に、1つ 目のことを思い、2つ目の責務を果たし、3つ目の努力をすることが楽しくてしようがない、ということです。これからも試行錯誤を繰り返しながらも自らを高 める努力を続けたいと思います。皆様、一緒に学んでいきましょう。よろしくお願いします。

 

コラムオーナー

高橋 聡
(たかはし あきら)

 
CG 以前の特撮と帽子をこよなく愛する実務翻訳者。翻訳学校講師。学習塾講師と雑多翻訳の二足のわらじ生活を約10年、ローカライズ系翻訳会社の社内翻訳者生 活を約 8年経たのち、2007年にフリーランスに。現在はIT・テクニカル文書全般の翻訳を手がけつつ、翻訳学校や各種SNSの翻訳者コミュニティに出没。

■ブログ「禿頭帽子屋の独語妄言」
http://baldhatter.txt-nifty.com/trados/


 

MISSION STATEMENT

「意外と知られていないフリーランス翻訳者の素顔をさぐる」ために始まったこのシリーズ。そもそもは、私自身がいろいろな翻訳者さんの様子を伺ってみたいと思ったことがきっかけでした。思ったとおり、今に至るまでの人生も、生活スタイルも仕事のしかたも千差万別です。これからも、登場していただきたい方はたくさんいますが、執筆してみたい方がいらっしゃれば、ぜひ帽子屋までご連絡ください!