異業種による学びの場「西日本医学英語勉強会」●畝川 晶子

2015/11/06

畝川 晶子

医薬翻訳者。大学では国文学を専攻。英語業界では講師・通訳の仕事が先行したが、アジア競技大会組織委員会で43のオリンピック委員会や大使館との渉外、プレス・マスコミ対応、国際会議開催、国際オリンピック委員会(IOC)への公式報告書の作成等、開催前から精算業務まで6年間にわたって公式文書の翻訳業務に従事。以降、IT・工業分野の翻訳者としてフリーランス活動を開始して19年。工業分野で経験した医療機器・関連論文を武器に医薬翻訳に参入。現在では治験関連から医学論文・抄録まで経験値を上げて裾野を拡大中。日本メディカルライター協会(JMCA)・日本翻訳者協会(JAT)会員。プロジェクト京都2015広報担当委員。
 


「西日本医学英語勉強会」の世話人をしている畝川晶子です。今回は、2014年8月21日に正式発足した本会のこれまでを振り返りたいと思います。
 
1) 設立経緯
きっかけは2014年6月21日、22日に東京で開催された第25回英日・日英翻訳国際会議(IJET-25)への参加でした。まずは、プレイベントとして開催された製薬翻訳分科会(JatPharma)において、東京で開催されている「医学英語勉強会」の発表を拝聴する機会を得、異業種で切磋琢磨し合う勉強会に大変魅力を感じると同時に発表者の確かな実力も感じ取ることができました。私も同時通訳課に通っていた頃は授業開始直前まで予習・復習に明け暮れて予備校並の緊張感の中で勉強していた時代もあったのですが、いつの間にか仕事に振り回され、勉強に対する真摯な姿勢を失っていた自分に気づきました。
そして私自身が本会議で「医薬翻訳者のキャリア形成」というセッションに登壇させていただいた後、同県出身のKさんから「いっしょに勉強したい」とお声掛けくださったのが始まりでした。
 
2) 事前準備
結局Kさんは新しい職を得て東京に戻ることとなり、一人になってしまった上に地元で医薬翻訳者の層は薄いから無理という声もありました。が、諦めずにちょっとした事前調査を実施しました。まずは近県在住の医薬翻訳者に参加の意向・可能性を打診。それまでのSNSでの友人の輪を中心に、まずはFacebook(以下「FB」)でグループを立ち上げてみました。
また、広島は今年被爆70周年を迎えましたが、当地広島には放射線が人体や環境に与える影響を調査・研究する研究所があります。オープンデーを利用して研究所を訪問し、研究所の通訳・翻訳者さんに会をアピールしました。
2015年8月3日にFBで発足した勉強会グループでは、Googleドライブを使用してアンケートを実施。「会のネーミング」「開催周期」「会員の一般英語レベル(自己申告)」「専門分野」「通訳学習歴・経験」「勉強会の演習形式」「興味のあるトピック」「学習したい疾患」等の質問事項に対する回答を集計・グラフ化し、「医学に関する語学力の向上」「医学の基礎知識の構築」という方向性は同一としながらも東京五輪開催に向けて医療通訳色の濃い東京での勉強会とのニーズの差別化を図りました。
そしてアンケート結果を基に8月17日に意見交換会を実施。当日は関西・九州からの翻訳者・医療従事者の他に前述の研究所から研究者等にもご参加いただき、最初の交流の場ともなりました。
 
3) ワークショップの開催
FB内でも役に立つ書籍やWebサイト等、医学や医学英語に関する情報交換を行っていますが、実際にメンバーが集っての会は7回を開催。記念すべき第1回勉強会は9月21日に開催し、JATの副理事長でもあるBen Tompkinsさんが「Removing Japanese artifacts from your J>E translations and English writing」の題目で日本人が陥りやすい英文ライティングについて、そして同郷の出身であり東京医学英語勉強会の中心メンバーでもあるYokoさんが「自己免疫疾患の英語を学びましょう」を発表してくださいました。
 
以降、第2回は情報論理論の提唱者として知られる辻谷真一郎さんによる「情報量で読み解く冠詞のナゾ」、第3回は『まずはこれから!医薬翻訳者のための英語』の著書でお馴染みの森口理恵さんによる「医学論文」、第4回は東京医科大学のR. ブルーヘルマンス先生による「生物医学論文雑誌への投稿~アクセプトされる論文を執筆するには」と続きました。
 

 
第5回で初めての在広島ご登壇者として、病院副院長である徳毛先生が登場。「NASH(非アルコール性脂肪性肝炎)について」を打ち合わせとは違って英語で発表くださり、大好評でした。また同回では、医療機器を扱うということでFBグループにもご参加いただいている特許翻訳者であり翻訳学校講師でもある松田浩一さんが関東から駆けつけてくださり、「桃栗三年恥柿十年」という題目で技術翻訳のミニ講座に辞書の最新動向、誤訳のパターン等紹介の白熱ライブとなりました。この回はセッションによって別分野の翻訳者さんも参加できるように便宜を図りました。
そして7月開催の第6回勉強会では日本大学医学部の押味貴之先生による「医学英語論文抄読会を魅力的にする10のステップ:初心者からでもできる医学英語論文の効果的な読み方」には関東、関西、九州からもお集まりいただき、目から鱗の効果的な医学論文の読み方に各自の成果を実感できるセミナーとなりました。
 
そして9月に急遽開催した第7回では、放射線影響研究所の統計部古川恭治研究員による「だから統計学はおもしろい~放射線リスクからカープの優勝確率まで~」に引き続き、勉強会の今後について話し合う時間を持ちました。
 
4) 今後の課題
これまで素晴らしい先生方にご協力いただけたのは、先生方の医学英語勉強会に対する深いご理解のおかげです。また、当会では、東京に出てからも協力してくださっているKさんをはじめとする4名のアドバイザーを設けています。
懸案事項はアドバイザーの方々と協議の上で決定し、また勉強会の反応や感想等も特に複数回ご参加の中心メンバーの方々と密に連絡を取ることにより、主催者の独断を避けるように努めています。また、参加者レベルでのメンバー発表という課題も、見通しが少し立ってきました。アウトプットの重要性を示すべく、私自身も壇上に立って発表者のハードルを下げる予定です(笑)。FBグループは現在120名超。勉強会の専用サイトでは各回の報告書と共にメンバーのリレーエッセイも掲載しています。医薬翻訳者だけでなく、医学生、研究者、薬剤師、歯科衛生士、他分野翻訳者に翻訳勉強中の方々等で構成される本会では、ツール等の翻訳周辺情報を扱ったり他の勉強会からの登壇者を迎えたりと柔軟に運営していく予定です。また、異業種ならではのシナジー効果が生まれ、翻訳業界だけでなく医療業界全体に少しでも貢献できるならば幸いです。
 
西日本医学英語勉強会   http://west-japan.wix.com/medical-english
 


 

コラムオーナー

高橋 聡
(たかはし あきら)

 
CG 以前の特撮と帽子をこよなく愛する実務翻訳者。翻訳学校講師。学習塾講師と雑多翻訳の二足のわらじ生活を約10年、ローカライズ系翻訳会社の社内翻訳者生 活を約 8年経たのち、2007年にフリーランスに。現在はIT・テクニカル文書全般の翻訳を手がけつつ、翻訳学校や各種SNSの翻訳者コミュニティに出没。

■ブログ「禿頭帽子屋の独語妄言」
http://baldhatter.txt-nifty.com/trados/


 

MISSION STATEMENT

「意外と知られていないフリーランス翻訳者の素顔をさぐる」ために始まったこのシリーズ。そもそもは、私自身がいろいろな翻訳者さんの様子を伺ってみたいと思ったことがきっかけでした。思ったとおり、今に至るまでの人生も、生活スタイルも仕事のしかたも千差万別です。これからも、登場していただきたい方はたくさんいますが、執筆してみたい方がいらっしゃれば、ぜひ帽子屋までご連絡ください!