翻訳会社と翻訳者の関係性:「人知集成」を感動の泉として●松尾彩子

2013/01/11

松尾 彩子 


翻訳サービス部マネジャー
1997年に入社。15年以上にわたり、産業機械、精密機器およびITによる制御等の翻訳を経験。10年前からチェッカーを兼任し、現在はコーディネーターとして活躍。人との出会いにワクワクしながら、高品質な翻訳や通訳サービスをお客様に届けたいと奮闘中。

 

■弊社のご紹介
弊社、株式会社コンテックスは1983 年に設立され、お陰様をもちまして今年で第30期を迎えます。機械メーカーの技術者であった創立者の故近藤藤一は、定年退職後に技術支援サービスを提供す る弊社を設立しました。現在は近藤千奈美社長のもと、約20名の社員が4つの部門で勤務しています。機械メーカーを主要顧客とする機械技術部門、技術者の 派遣に特化している派遣部門、そして私が所属する翻訳サービス部門です。
技術専業の弊社に、現社長が一般社員として1993年に入社しました。顧 客企業の技術者や研究者の中に、翻訳・通訳のニーズがあることに気づき、またお客様からの後押しもあって、前職で通訳・翻訳の経験があった社長がひとりで 翻訳・通訳サービスを提供し始めました。これが当部の始まりです。
 
■翻訳サービス部のご紹介
「Expand your global presence.-明日の技術をサポートする-」を掲げ、納品後すぐにご利用いただける、お客様のビジネスの発展に貢献する高品質の翻訳をお届けすることを第一義としています。
主 要顧客は機械メーカーや研究所で、技術文書を中心に技術系ビジネスに関わるさまざまな文書に対応します。対応言語は日→英(8割以上)に加えて、中、韓、 その他の言語となります。一見、弊社の企業内翻訳部に見えるかもしれませんが、当初からエンジニアリング部門とは別に独自の事業展開を行い、クライアント も独自に獲得しています。
現在、部内には私を含む5名が正社員として勤務しています。在宅勤務はありません。4名は全員が日⇔英の翻訳者として機 能します。翻訳の分野や言語の方向で担当を分けることはせず、すべての分野、すべての文書、いずれの言語方向も対応します。翻訳担当者以外がチェッカーとなり、翻訳のダブルチェック、編集、DTP、お客様の仕様に合っているかを確認します。営業、コーディネーター、チェッカー専門の人員は置かず、これらも 4名で担当します。英語以外の言語とネイティブチェックは社外に依頼します。社外翻訳者の登録制は採らずに、個別に直接翻訳をお願いする数少ない翻訳者に 協力いただいています。
通訳サービスも提供しています。逐次通訳をメインに、技術研修、各種会議、展示会などで、技術に関する知識と高い通訳スキルでお客様をサポートする通訳者の派遣を目指しています。
詳しくは2012年秋にリニューアルしました弊社のWebサイトをご覧ください(http://www.kontecs.com/)。
 
■社内翻訳者体制を選択した背景
弊社では、「社内翻訳者かつ正社員がすべての業務を担当する」体制をとっています。エンジニアリング部門の顧客のニーズにお応えするために翻訳・通訳サービ スを始めた当初から、「すぐにご利用いただける成果物を納品する」という考えが近藤にはありました。というのも、「せっかく翻訳会社に頼んだのに、質が悪 かったので、もう一度自分たちでやり直している」、「翻訳のやり直しで、結局倍以上の費用がかかった」という声が多く聞かれたからです。「翻訳の目的はお客様のコミュニケーションを手助けすること。成果物を納品して終わりではなく、その成果物を使っていただいたことでお客様のビジネスに発展がなければ、お 客様にご満足いただいたとはいえない」と考え、お客様に余計な手間とコストをかけさせない、つまり「すぐにご利用いただける成果物を納品する」ことを品質 方針と定めました。また、クライアント様とともに事業やプロジェクトの推移を見守るうち、「翻訳文書はお客様の「顔」そのものとみなされる。翻訳の品質が 悪ければ、それを発行したお客様への印象も悪くなり、ビジネスで最も大切な信用に関わる」ことを実感しました。こうして「高品質の翻訳をお届けする」ことは、弊社の第一義となりました。
これを実践するため、近藤はお客様に直接会いに行き、文書の内容や技術はもちろんのこと、用途、使用される状況、 お客様と最終読者の関係、さらにはお客様が製品や技術、文書にこめる思いまで聞きこみました。完成した翻訳にこれらの調査結果がすべて反映されることはあ りませんが、今後のお客様の文書作成や文書管理のお役に立てばと、作業の過程や納品の際にささやかなアドバイスやご提案を付け加えることを続けました。こ のような行動から、「細かいところまで気がついてくれる」、「小回りが利く」という評価をいただくようになりました。お客様に寄り添いきめ細かなサービス を行なうことも、弊部のサービス方針の一つです。
そして、「翻訳事業を通してお客様と社会に貢献する」という思いが近藤に常にありましたので、翻 訳能力は言うまでもなく、その翻訳に関わるお客様の状況を理解し、よりよい提案を行なうことのできる翻訳者・通訳者のあり方を求めるために、あえて翻訳者 を社員として採用し、翻訳者がすべての業務を担当する体制を構築しました。基本は翻訳者なので翻訳作業がメインではありますが、営業、見積、コーディネー ト、チェック、DTP、会計処理といった業務も、すべて自分たちで行ないました。さらに面白いことに、翻訳が含まれない仕事、たとえばDTP、文書製作、 テープ起こしと編集といった、たいていは専門の業者に外注する仕事も翻訳者が行ないました。
この体制は、フリーランス翻訳者・通訳者出身ではなく、エンジニアリング(製造)に関わる組織に属していた近藤が創部したことが背景にあると、私には思えます。各工程での品質管理など製造業の概念を翻訳の 業務フローに適用するとともに、翻訳を含むサービスを一事業として確立させるという考えは、一般の翻訳会社にはないユニークなものではないでしょうか。
 
■コンテックスの社内翻訳者
社内翻訳者といっても業務は翻訳だけではなく、部門運営も業務です。勤続年数、実績、適性、個性を考慮した社内の経営計画に基づいて、おおよそ分担が決まっています。
こ の体制の良さは、全員がすべての作業工程において自律的に機能できるので、情報と体験の共有化が早く、アメーバ的な動きが可能であること。正社員かつ事務 所に勤務しているため、情報が分散しないこと(機密保持が気になるお客様に特に気に入っていただいています)。お引き合いの段階から、翻訳者の目線で気づ いたことをお客様にご提案ができること。お客様が翻訳担当者と接触できること(お客様には顔が見えると安心していただいています)。翻訳単体の作業だけに とどまらず、正社員として様々な業務を体験できること。それらを通して得た経験を、翻訳を含む弊社のすべての成果物に反映できることなどがあります。
翻訳プロセスで最重要視しているのはチェック工程です。翻訳のダブルチェックと編集やDTPに加え、お客様の仕様に合った、あるいはさらにお客様に喜んでいただける仕掛けを埋め込みます。ここで「コンテックスブランド」としての成果物に仕上げます。現在、社員4名ともチェッカーとして機能しており、安定した 品質を保っています。
弊社には営業職がいません。創部以来、リピートのお客様からのご紹介と口コミでのご新規がほぼ100%です(最近はWebサ イト経由でのお問い合わせも増えています)。お客様に会いに行く。お客様のニーズを聞き取り、翻訳に反映させる。納期より余裕を持って納品する。納品後にフィードバックをいただき、次回に反映させる。気づいたことをご提案する。そして何よりお客様のニーズに合った高品質な翻訳を納品する。これらの行動を私 たち翻訳者自身が行なうことによって、成果物そのものを最強の営業ツールとしています。
これを読んで、翻訳会社の経営者やコーディネーター、フリーランス翻訳者、それぞれの立場でご感想があるでしょう。「よくやるなあ(儲かってるのか?)」、「面倒くさそう」、あるいは「面白そう」。私自身の話 になりますが、私は子供のころから翻訳者・通訳者を夢見てきて、いざプロの道へ!と思ったときに近藤に出会いました。翻訳といえば、複数の翻訳会社に登録し、在宅で翻訳作業をやるものだと思っていたのですが、近藤は私を容赦なくお客様のところに放り込みました。翻訳だけでも見積、コーディネート、翻訳、 チェック、納品からアフターサービスに至るまで、様々な業務があります。それらを通して、翻訳のみに従事していれば知ることがなかったと思う様々な体験が ありました。お客様のご要望に懸命にお応えしていくうち、翻訳を含む様々な形態と規模のプロジェクトのお引き合いをいただくようになりました。翻訳だけを やっていたのでは会えなかった人、入れなかった場所、知らなかった技術、できなかった事がありました。そして、心強く頼もしい弊部のメンバーたちが、コン テックスの社内翻訳者の体制をしっかり支えています。
 
■弊社と社外翻訳者-これまで
「社外翻訳者」はいわゆる在宅などで翻訳を 生業とするフリーランスの方と定義させていただくとすると、弊社はほぼ社内翻訳者で切り盛りしてきましたので、実は社外翻訳者との結びつきが薄いです。 「登録させてください」とご連絡をくださる方もいらっしゃるのですが、現在のところ登録制は採用していません。弊社から直接ご連絡し、直接お仕事を発注するのが現在のスタイルです。弊社を知らない方が多いので、突然の連絡にびっくりなさった方も多いと思います。また、電子メールと電話でのご連絡が主ですの で、コミュニケーションがうまく取れなかったこともあります。
一方で、継続してお仕事をお願いしている方が何人かいらっしゃいます。一緒にお仕事 をしてワクワクするような、お人柄もすてきな方ばかりです。皆さんに共通するのは、翻訳スキルの高さ、翻訳の対象物に対する理解の深さ、自己研鑽を欠かさ ず進化する姿、弊社のお客様に対する気遣い、厳しい納期管理、速やかで感じの良い対応、そして何よりこちらの指示にきちんと従ってくださるところです。いずれの方も高いプロ意識を感じ、気持ちが引き締まります。まだ社外の翻訳者さんとの出会いが少ない段階でそのような方々に巡り会えたのは、本当に幸運だと 思います。
 
■弊社と社外翻訳者-これから
そしてこれからは、お客様のご要望に量、質ともにお応えするため、戦力を強化していきます。そして何よりも、私たち自身がもっと多くの翻訳者の方とお仕事がしたいのです!感動的な出会いがしたいのです!翻訳者の皆さんの技とプロ意識を見せつけていただきたいのです!
弊社には、「私たちは「人知集成」を感動の泉とし 新たな価値を創造して 社会の発展に貢献します」という企業理念があります。「人知集成」は近藤社長が 作った言葉です。人々が集って工夫を重ね知恵を絞って生み出すことによって新しい価値を生み、それが社会を変え、歴史を作ることにつながるのだという、創業時からのスピリットが込められています。私自身、ご自分の事業や研究について目を輝かせて語るお客様の情熱に感動する機会がたくさんあります。人との出会いの感動を感じています。
翻訳者の方との出会いにも感動したい。翻訳者は一緒にものを作る大切なパートナーであり、欠かすことのできない存在な のですから、高いスキル、サービスの精神、ビジネス・マインドを持った、プロの翻訳者との出会いを期待します。そんな皆様とご一緒に仕事ができれば、様々な形態と規模とプロジェクトを展開できると思いませんか?時には翻訳にとどまらない、新しい仕事ができると思いませんか?まさに「人知集成」です。弊社のプロジェクトを通して、翻訳者の皆様とも感動を共有し、翻訳を必要とする方々に新しい価値を提供する、そんなワクワクを生み出したいです!
 
■最後に
このコラムで弊社に興味をお持ちくださった方は、当社Webサイトを通してご連絡いただければ大変うれしいです。お客様からのコメントや情報が届くよう、安心してお仕事をしていただけるよう、連絡を密にするように心がけています。今後は、翻訳の品質と作業効率向上のため、勉強会なども開催したいと考えていま す。
 

 

コラムオーナー

齊藤 貴昭
(Terry Saito)

 
電子機器メーカーにて開発/製造から市場までの品質管理に長年従事。5年間の米国赴任から帰国後、社内通訳・翻訳者を6年間経験。2007年から翻訳コーディネータ兼翻訳者として従事。「翻訳者SNSコーディネータ」として業界活動に精を出す。ポタリングが趣味。甘いもの好き。TwitterやBlog「翻訳横丁の裏路地」にて翻訳に関する情報発信をしています。

■Twitter: terrysaito
■Blog: http://terrysaito.com




 

MISSION STATEMENT

「翻訳横丁の表通り」には色々な人々が往来するようになりました。このコーナーでは、翻訳者さん達に「翻訳横丁の表通り」に出店して頂き、自身が持つ翻訳への「こだわり」を記事にして頂きます。「想い」であったり「ツール」であったり、「翻訳方法」であったり「将来の夢」であったり、何が飛び出るかは執筆者の翻訳への「こだわり」次第。ちょっと立ち寄って、覗いていきませんか?