走る翻訳者●曽我邦裕

2012/05/11

曽我邦裕



 実務翻訳者。サッカーに関する記事の和訳から、マニュアル、ゲームのスクリプト、観光案内、ファンドレポートなど、雑多な仕事を受けつつ今に至ります。私の サイト”On the Backstage”(http://home.att.ne.jp/blue/onback/index.html)では、書籍、ソフトウェア、青色申 告の方法など、翻訳者に役立つと思われる情報を提供しています。趣味は映画鑑賞、料理、そしてランニングです。食事は、ランナーに適した料理を食べるよう 心がけています(例えば鉄分の多いレバーやひじきを摂るなど)。作った料理はブログ”Cooking Backstage”(http://onback.jugem.jp/)で公開しています。
 



昔から趣味で走ってい たのですが、2009年4月、セカンドウィンドAC(SWAC、http://www.sw-ac.com/)というランニングクラブに入り、本格的に練習を始めました。それまでは近所をジョギングしていただけで、運動部に所属したことなし、学校の授業以外でタイムを測ったことなし、レースに出たことな し、というないない尽くしでした。SWACで一番始めにした質問が「トラックって1周何メートルですか(正解は400m)」という有様で、ただのド素人で した。そのような状態ですから、トレーニングを始めたころは驚くことがたくさんありました。一番衝撃だったのは、ペースメーカーを務めるスタッフ(陸上経験者)が、5秒単位で走るペースを自在に変えられることでした。
 
そうしたペースメーカーについて走っているうちに、陸上の練習の目的は速く走ることでも長く走ることでもなく、一定のペースで走ることだということに気づきました。自分にとってやや苦しいペースを守って走っているうちにペー ス感覚が養われ、走る能力が向上します。スピードや距離はその結果でしかありません。ペースとは言ってみれば走りの品質です。マラソンでは通常、イーブンペースで走り続け、余力があればペースを上げるのが鉄則です。レースの開始直前で猛ダッシュしても、ゴールまでに失速して走れなくなったらなんにもなりません。そしてこれは、翻訳にも通じることのように思えます。翻訳者にとっての目的は品質を安定させることであり、スピードや量はその結果にすぎないのではないでしょうか。

 

ランナー用時計
 
しかし練習でペースメーカーが常にいるとは限りません。そのようなとき、役立つのがランニング用の時計です。区間ごとにかかった時間(ラップと言います)を 測れるため、自分のペースが安定しているか、予定通りかを知ることができます。レースコースでは通常、1㎞ごとに表示が出ているため、1㎞ごとのラップを測り、適切なペースで走れているか判断できます。ペースメーカーもこうした時計を使用しています。ジョガーからランナーになるための必須アイテムと言える でしょう。
 
<Interview>
 
店主:ランナー用の時計は、普段でも使っているのですか?
曽我:普段は携帯電話の方が多いです。壊したくないので。
 
店主:ランニングと翻訳の仕事のバランスは、どのようにとっていますか?例えば、納期が迫り夜なべし睡眠不足になると、うまく走れないと思います。
曽我:睡眠も広い意味で練習の一部なので、十分とるようにしています。ずっと家の中にいるより、適度に運動することで仕事が捗る面があります。
 
店主:「翻訳者にとっての目的は品質を安定させることであり、スピードや量はその結果にすぎない」とおっしゃっています。どうやって品質を安定させていますか?
曽我:一言で言えば不明点をなくす。具体的には、文の構造を完全に把握する、分からない単語や熟語を調べる、何を言いたいのかを考える、見直しをする。マジックはないです。
 
店主:ランニングを始める前と今では、翻訳の仕事に何か変化はありますか?
曽我:体力がついたのと走る時間を確保したいのとで、集中力が増したかもしれません。
 
店主:ジョガーからランナーになる必須アイテムとして、時計を挙げられました。ただの英語好きからプロの翻訳者になるのに必須の心構えと道具は何だと思いますか?
曽我:言ったことは守り、できないことは言わない。そのためにも、自分に何ができて何ができないかを把握する。調査するための道具(辞書、文法書、インターネット、書籍、そして人脈)を持つ。
 
店主:曽我さんの屋号は「裏方翻訳工房」ですが、この名前に秘めた想いは?
曽我:翻訳者は舞台裏の存在だという想いを込めて。同じことを表した私の言葉を最後に引用します。
「翻訳者は言語と言語の架け橋である。そして橋の役割は踏みつけられ通り過ぎられることであり、橋そのものが注目されるのは崩れ落ちる時くらいしかない。」


 

コラムオーナー

遠田 和子
(えんだ かずこ)

 
日英翻訳の傍ら翻訳学校での講師、またプレゼン研修の講師をしています。著書に、「英語なるほどライティング」、「Google英文ライティング」、「eリーディング英語学習法」、「あいさつ・あいづち・あいきょうで3倍話せる英会話」(講談社)があります。趣味は読書・映画・旅行です。また英語スピーチの練習、バレエのレッスンを続けています。それぞれ少しでも上手くなるため、地道に努力しています。

■Website: WordSmyth英語ラボ
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MISSION STATEMENT

WordSmyth Caféは、翻訳に関わるさまざまの人々が集う「誌上カフェ」です。当コーナーでは、毎号異なる執筆者にご登場願い、翻訳を含む言語に関わるさまざまなテーマを取り上げます。名前のWordSmyth (ワードスミス)は、wordsmith (言葉の職人)とmyth(神話=お話)を組み合わせた造語です。「言葉の職人として、さまざまな物語を紡ぎたい」という店主の願いを表しています。