走る翻訳者●園木美緒

2012/05/11

園木美緒



証券会社、新聞社、通信社等を経てフリー(現在はオンサイトで、日英翻訳で稼働中です)。やりたいことが多すぎて、人生の残り時間と相談中。「生かしていた だいてありがとうございます」の精神で生きようと心がけていますが、根があつかましいので、すぐに忘れて根拠なく上から目線になるのが悩み。オバチャン図 鑑があったら載っていそうな、基本マイペースなB型。大きくなったら、かわいいおばあちゃんになるのが夢。
 

この写真はお気に入りのランニング・シューズです。
トレイル・ラン用で、靴底が山道を走るときに滑りにくいようにデザインされています。
初心者ですが、自然の中を駆け抜ける爽快感は最高です。
 

 
運動不足に悩む翻訳者の方も多いかと思いますが、私が最近夢中になっているのはランニング。きっかけは3年前、駅まで歩いて15分の道を走ったとき、途中で 息切れして走れなくなったことでした。これではいけないと思い、それから毎朝小走りで駅まで行くようになりました。ある日、横断歩道で交通整理をしている 自治会のおじさんに「川越マラソンでるの?」と聞かれ、面倒だったので思わず「はい」と答えたところ、それから毎日「がんばれ~」と声をかけてくれるよう になりました。引くに引けなくなった私は、その年の秋、地元川越の第1回小江戸マラソン10 kmの部にエントリーすることになりました。結局、練習らしい練習は駅までの1 kmを毎日走っただけで、大会当日を迎えました。全く自信がなかったのですが、おじさんの顔を思い浮かべながら、なんとか完走することができました。さら に昨年は21 kmのハーフ・マラソンを走り、つい先日は、フルの42.195 kmを完走することができました。
 
小中高と、かけっこ はいつもビリという悲しい宿命(?)を背負ってきた私が3日坊主で終らず走り続けてこられたのは、励ましてくれる人々のおかげです。なかでも、ソーシャ ル・ネットワーク・サービス (SNS)の存在はとりわけ大きなものでした。目下空前のマラソン・ブームといわれ、写真のようなお洒落なグッズも花盛り。周りでも俄かランナーが増殖中 ですが、SNSがある現代では、昔読んだ小説「長距離走者の孤独」(アラン・シリトー)のタイトルにある「孤独」のなかで走る人は少ないかもしれません。 例えば、スマホ用のRunkeeperというアプリは、走っている距離やスピード、地図をリアルタイムで更新してくれて、データをネット上にアップするこ とができます。SNS仲間とランニング情報をシェアすることができるので、コメントで励ましあったり、「いいね!」と応援したり、焦らされたり。怠けてい ると、ゲキがとびますし、次々と大会や講習会の情報もシェアされ、それらに参加することで新しいつながりもできていきます。
 
有名アス リートがシェアしてくれる日常もSNSの醍醐味です。たとえば、ロンドン・オリンピックのマラソン男子代表に選ばれた藤原新さん。彼がフェース・ブック (FB)のファン・ページで発信するアクティビティには、わたしもほぼ毎回「いいね!」を押させて頂いていますし、藤原さんご自身も、たくさんのお友達と FBでつながっておられます。実業団を離れ、4年間独りこつこつトレーニング積んできた彼にとっても、こうした仲間との日常的なやりとりの意義は大きかっ たのではないかと密かに想像しています。
 
マラソンのような、ともすれば孤独な営みが、つながることによって立体的に成長していくという 現象は、翻訳の世界でも間近にみられました。実際、ここ数年の間に、twitterやFBなどで会話するようになった多くの翻訳者が、PCの前から離れ外 に出て、2次元から3次元へその交流を進化させつつ自らの活動の場を広げていったのと、とてもよく似ています。やりとりする内容はぼやきだったり、お料理 だったり、子どもの悩みだったり。他愛ないことも多いのですが、翻訳者としての日常を共有することで、それまで二の足を踏んでいたオフ会やセミナーに参加 する機会は格段に増え、つながりは途切れることなく、太く確かなものになっていきました。Ustreamやブログを通じて、精力的に翻訳業界の情報を発信 している方や、コミュニティを立ち上げている方もたくさんいらっしゃいます。ほんとうにありがたいことです。
 
綿々と続く毎日の営みのな かで、こうした「仲間」とのやりとりは、私にとっての大切なスパイスであり、タカラモノです。自治会のおじさんとはいつの間にか会わなくなりました。しか し今日もこの可愛いいランニング・シューズや、SNS仲間の「いいね!」が足元からしっかりと私を支えてくれています。
 
<Interview>
 
店主:マラソンも翻訳も「ともすれば孤独な営み」とおっしゃっています。仲間とつながるSNSが、仕事にもたらした変化の例を教えてください。
園木:「至急」案件を抱えて苦しむのは自分だけじゃなかったとか〈笑〉、仲間と共感しあうことによって、自分を立て直したり、より高い目標をもったり。自分の関心事から広がっていくSNSは、同じ趣味をもつ翻訳者との出会いも提供してくれました。
 
店主:体調管理のため、食事や睡眠など気を付けていることはありますか?
園木:無理しないペースを守ることでしょうか。もういい年なので。〈笑〉バランスに気をつけて食べたいものを食べる(マラソンのごほうび?)。早寝早起きは理想ですが、やることが多すぎて、ほど遠い状況です。(笑)
 
店主:マラソンと翻訳に打ち込む傍ら、ご家族をとても大切になさっていますね。ワーク・ライフ・バランスをうまく保つコツは何ですか?
園木:それは幻かと・・〈笑〉人生を楽しむ気持ち?FBで四季の行事が自然と目に留まり、あ、これはウチでもやってあげようとか。子どもの成長も速いので、「今」を大切にしたい、会いたい人には会っておこう、やりたいことはやっておこう、という気持ちは強いですね。



 

コラムオーナー

遠田 和子
(えんだ かずこ)

 
日英翻訳の傍ら翻訳学校での講師、またプレゼン研修の講師をしています。著書に、「英語なるほどライティング」、「Google英文ライティング」、「eリーディング英語学習法」、「あいさつ・あいづち・あいきょうで3倍話せる英会話」(講談社)があります。趣味は読書・映画・旅行です。また英語スピーチの練習、バレエのレッスンを続けています。それぞれ少しでも上手くなるため、地道に努力しています。

■Website: WordSmyth英語ラボ
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MISSION STATEMENT

WordSmyth Caféは、翻訳に関わるさまざまの人々が集う「誌上カフェ」です。当コーナーでは、毎号異なる執筆者にご登場願い、翻訳を含む言語に関わるさまざまなテーマを取り上げます。名前のWordSmyth (ワードスミス)は、wordsmith (言葉の職人)とmyth(神話=お話)を組み合わせた造語です。「言葉の職人として、さまざまな物語を紡ぎたい」という店主の願いを表しています。