Live to Ride, Ride to Live●井口耕二

2013/01/11

井口耕二(いのくち・こうじ)



技術・実務翻訳者、翻訳フォーラム共同主宰、JTF常務理事。エネルギー・環境、電気・電子、機械など工学系を幅広くカバーする。近年は、ノンフィクション系書籍の翻訳もしている。大学の専門は化学工学で、会社員時代はエネルギー利用技術の研究などをしていた。
 
趣味はアウトドアにバイクにDIY(木工、金工、エレクトロニクス、プログラミング)。いろいろなモノを自由な発想で本来と異なる用途に使うハッキングが大好き。運動不足解消にと最近ロードバイク(自転車)も買ったのだが、乗る時間が足りない。もう少し仕事を減らさないと……。
 
ブログ:Buckeye the Translator
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 在宅で翻訳をしていると、引きこもることが多い。忙しくなると、1週間、一度も自宅の敷地から出ないなんていうのも珍しくない。そういう生活でたまったストレスを解消するには、自然の中、風を感じながらバイクで走るのが一番だと思う。
 愛車は、2008年式のハーレーダビッドソン。お気に入りの定番コースは富士山1周だ。写真はその富士山をバックに山中湖畔で撮ったものだ。道志道を山中湖へ抜けたところで、ここからは、富士山を横目に眺めつつ、ぐるっと1周するわけだ。

 
●富士山をバックに


こちらはもうひとつのお気に入りコース、八ヶ岳一周で撮ったもの。
●八ヶ岳をバックに


■バイク遍歴
バイクは学生時代からで、250ccのオフロード車と750ccのオンロード車(ツーリング系)に乗っていた。
 
●250ccのオフロード車

●750ccのオンロード車
 
学生時代はどこに行くのもバイクという生活をしていたが、就職後は乗る時間がなく、バイクを降りてしまった。1998年に翻訳専業となったあと、時間のやり くりがつくならまた乗りたいと思うようになったのだが、「バイクに乗りたい」と言っても、心配性の妻は首を縦に振ってくれない。陳情に5年をかけ、ようや く、22年ぶりでバイク復活が決まった。
 
■復活時のバイク選定
 バイク選定の基準は、「のんびり走って楽しいバイク」とした。 いい年になっているわけで、「飛ばして楽しいバイク」なんぞ買ってついつい飛ばしてしまうと反射神経がついていかなくて事故る可能性が高いからだ。のんび り走って楽しいとなれば、味のあるアメリカンが一番の候補になる。そう考えて選んだのが、ハーレーはダイナシリーズのローライダーだ。
 特徴は、 なんといっても揺れること。ハーレーもダイナ以外のシリーズはバランサーがついていてほとんど振動を感じないが、ダイナシリーズだけはバランサーがない。 排気量1600ccとちょっとした車並みの大型エンジンで、しかも、狭角Vツインという振動が出やすいデザイン。これでバランサーがないとかなり揺れる。 エンジン回転があがるとだんだんスムーズになるが、1500回転前後まではかなりの振動を感じる。
 これがいいのだ。
 5速1500回 転、時速60kmで、体全体に振動と風を感じつつ、風景を眺めてのんびりと走る。スポーツ系バイクだと単なる移動になるような道がたのしく走れる。コー ナーが連続する場所に入るとエンジン回転を高めに保つので振動は少なくなるが、今度はバイクと一体になって右に左にと傾いて走る楽しさが味わえる。もちろ ん、そういう場所なら、スポーツバイクのほうが速いしもっと楽しいわけだけど、1気筒あたり800ccという排気量が生み出す大トルクによる加速は多気筒 高回転のスポーツバイクでは得られない感覚であり、これはこれで悪くない。なお、スポーツバイクが後ろから来たら、抜きやすいように脇へ寄り、抜かせてし まう。後ろにつかれると、のんびり走るのが悪いような気がして、つい、スピードアップしてしまうからだ。さっさと抜いてもらったほうが、お互いに自分の走 りを楽しめるというものだろう。
 
■走る楽しさ
 仕事があまり立て込んでいなければ、天気予報とにらめっこで、走りに行く日を決める。その前2~3日、気合いを入れて仕事を片付けておかなければならないので、早めに決める必要がある。朝、子どもたちを送り出したら出発だ。走っているのが楽しいのだから、目的地は、渋滞や信号があまりないところを選ぶ。1日の走行距離は、高速道路なしで300~350km前後。ガソリンを満タンにしておくと、ちょうど使い切るくらいの距離だ。前述のように、一番のお気に入りコースは富士山1周なのだが、このコースは、行き帰りも信号が少な目で距離も 300km強といろいろぴったりなのだ。もちろん、風景もいい。
 走り始めたら、ただただ走る。家を出てから帰るまで、バイクから降りる回数は両手の指にはとても達しない。写真を撮らなければ、片手の指でも余るくらい。どこかに行くことが目的ではなく、ただ、走ることが目的だからだ。
 春先から初夏の新緑、盛夏の木漏れ日、秋の紅葉、晩秋から初冬の冬枯れと風景も変化すれば風も変化する。だから、同じコースを走っても楽しい。
  走っているあいだは、なにも考えていないことが多い。注意力を周囲に拡散させ、振動と風を感じ、風景と一体化する。仕事時は目の前の1文や、それをどう感 じているのかといった自分の内面に集中する。内側へ、内側へと注意力を絞り込んでいく感じがするのだが、バイクに乗っているあいだは、その逆というわけだ。
 バイクに乗っているとき、仕事は……基本的に忘れている。一応、午前中とお昼、午後の3回くらいは携帯電話でメールチェックするつもりでいるのだが、お昼の1回だけになることも珍しくない。走っている最中に電話がなっても、気づくはずなどない。JTF理事会や各種の打ち合わせがあれば半日く らい連絡がつかないことも珍しくないので、まあ、それでもいいかと思っている。
 
■カスタム
 ハーレーはカスタムパーツがいろいろと揃っているので、カスタムを楽しむ人が多い。なかには前輪を大きく伸ばすなど、大幅な改造をする人もいる(きちんと申請すれば車検も通る)。
 私の場合、走行系は基本的にいじっておらず、お飾り的な部分のみをカスタムしている。ハーレーでは、スカルかフレイム(炎)で統一する人が多いが、私は“Live to Ride, Ride to Live”だ。
 もちろん、そういう風に生きられたらいいなと思うからだ。

 
  • Live to Rid, Ride to Liveダービーカバー

 
  • Ride to Live, Live to Rideホーンカバー
 
 
インタビュー
 
  • バイクに無知な私は「ハーレー」と聞くと、Easy Riderのイメージが目に浮かび、Born to Be Wildの歌が聞こえてきます(古すぎ?)。井口さんにとりハーレーが「味がある」のはどういう点ですか?
 
井口:Easy Riderが浮かぶ人、多いでしょうね。っていうか、私も浮かびます。
 
「味 がある」ところといえば、扱いやすさを追求していないところ、かなぁ。いや、ハーレーも最新技術で作られているので扱いやすいと言えば扱いやすいのです が、でも、最新技術で扱いやすさを追求すれば、あんなバイクにはならないはずで。そのあたりの割り切りというか、非効率なところというかに「味」を感じま す。そう思う私にとっては、バランサーで振動を消したハーレーなんて……となるわけです。

 
  • 大勢の仲間でツーリングしているバイク集団をよく見かけますが、いつも一人でバイクに乗るのですか?
 
井口: 私は、昔っからソロが多いですね~。
 
販 売店が企画するグループツーリングにも参加することがありますが、大勢で走るとペースの違いが気になったりします。ぶつかってもまずいので周りの仲間にも 気を配ってないといけませんし。どうしても、景色や風より運転に意識が向きがちです。また、バイクだと、誰かとおしゃべりしながらってわけには基本的にい かず、走ってるあいだは、グループツーリングでも自分ひとりみたいなものですし。道順を気にしなくていいとか、お昼や休憩で話し相手がいるってことはメ リットですが。
 
バイクに乗ってるときというのは、ある意味、自由を満喫している時間なわけで、そういう意味では、ひとり気ままにっていうのが一番なんじゃないでしょうか。

 
  • バイクで五感を開放する反面、仕事では「内面へ、内面へと集中」されるとのこと。「やる気がでない」「ついネットを見てしまう」など、気が散って集中できないのは翻訳者の悩みです。なにか集中のコツはありますか?
 
井口:それはもちろん、遊びに行く予定を立てることでしょう(笑)。いまがんばらないと遊びに行けないとなれば集中できますよ~。

 
  • 井口さんはSteve Jobs関連本の翻訳で有名ですが、書籍翻訳と実務翻訳とどちらが楽しいですか?
 
井口:甲乙つけがたいですね。実務翻訳は時代の最先端に触れられるおもしろさがあります。ネットで調べてもまだなにも出てこない状態で訳したりとか。それに対して書籍はあれだけの言葉を尽くして語りたい内容が著者にあるわけで、それをまとめて訳せるおもしろさがあります。

 
  • ノンフィクション系で「これは是非訳してみたい」と思う本はありますか?
 
井口: スティーブ・ジョブズの公認伝記(笑)。2008年くらいから、いつかそういう本が出るはず、出たら訳したいと思っていました。この夢がかなってしまった いま、そこまで思うモノはなくなっています。ああでも、エネルギーとか環境とかの本が訳せたらいいかも。大学から会社員の時代に専門としていたのはそっち 系なので。あとはDIYにつながるものつくり系とかアウトドア系とか、趣味に連なるような仕事ができたら楽しそうです。

 
  • ありがとうございました。お話を聞いているうちに、バイクに乗って風を感じてみたくなりました。



     

コラムオーナー

遠田 和子
(えんだ かずこ)

 
日英翻訳の傍ら翻訳学校での講師、またプレゼン研修の講師をしています。著書に、「英語なるほどライティング」、「Google英文ライティング」、「eリーディング英語学習法」、「あいさつ・あいづち・あいきょうで3倍話せる英会話」(講談社)があります。趣味は読書・映画・旅行です。また英語スピーチの練習、バレエのレッスンを続けています。それぞれ少しでも上手くなるため、地道に努力しています。

■Website: WordSmyth英語ラボ
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MISSION STATEMENT

WordSmyth Caféは、翻訳に関わるさまざまの人々が集う「誌上カフェ」です。当コーナーでは、毎号異なる執筆者にご登場願い、翻訳を含む言語に関わるさまざまなテーマを取り上げます。名前のWordSmyth (ワードスミス)は、wordsmith (言葉の職人)とmyth(神話=お話)を組み合わせた造語です。「言葉の職人として、さまざまな物語を紡ぎたい」という店主の願いを表しています。