しなやかな翻訳スタイルを目指して進化中●倉田 真木

2015/03/13

倉田 真木


 出版翻訳者。幼い頃から歩きながら読むほどの本好き。夢中になった作家はアガサ・クリスティーやアストリッド・リンドグレーンやトーベ・ヤンソン。人生初映画は『長靴下のピッピ』。ピッピに憧れ、小中学生時代、押し入れ上段にふとんを敷いて寝起きし、ささやかながら“気分”に浸っていた。東京育ち。上智大学外国語学部卒業。現在、翻訳学校フェローアカデミー講師、自由が丘翻訳勉強会主宰(問い合わせはUGJ31029@nifty.comへ)、神楽坂「洋書の森」ボランティア。趣味はチェロとヨガ。
 
倉田真木 翻訳作品一覧(Amazonより):
http://astore.amazon.co.jp/tamausagiemu-22
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翻訳との出会い
 翻訳の仕事との最初の出会いは“お茶事”でした。茶道は大学時代、外国人に説明できる程度に日本の文化を学んでおかなくちゃと思って始めたのですが、その奥深さに引かれ、社会人になっても続けていました。ある日、青森の友人宅での“茶事”に招待されたのですが、その会には某大手出版社の敏腕女性エディターの姿が。後日、彼女の部下とおぼしき女性から連絡があり、「ある美術展に先立ち、美術論文の抄訳をしてもらえないか」と依頼されました。どうやら青森市内の「善知鳥神社」を私が“うとうじんじゃ”と正しく読めたことが女性エディターの印象に残っていたようなのです。でもじつを言うと、茶事の少し前に能楽のパンフレットに並んでいた「善知鳥」という演目をたまたま目にしていたんですけどね。
 
仕事としての翻訳への目覚め
 その幸運な巡り合わせを機に翻訳の世界へと歩みを進めて……いければよかったのですが、なにせ当時は翻訳を仕事にしようという考えがありませんでした。おまけに、相手になめられてはいけない、となぜか思った私はすでに翻訳の仕事をしている知人に連絡してアドバイスを求めました。
 知人は「個人ベースで請け負うときは、報酬額をきちんと取り決めておくように」と助言してくれました。それに従って「どれくらい頂けるのですか?」と問い合わせたところ、しばらくして「今回はご縁がなかったようで……」との返答。最初の翻訳仕事になるはずだったその話は流れてしまいました。
 今なら想像がつくのですが、出版業界ではこういった場合、事前に報酬額を取り決めたくても決められないことがままあります。画集や解説本など一連の出版物の刷り部数や単価が確定しないと、関連経費を捻出しにくいという事情があるからです。でもこのときは、先方にしたら「せっかくトライアルのつもりで声をかけてあげたのに。仕事をほしがっている翻訳者は他にいくらでもいるのよ」と言いたかったにちがいありません。今だったら迷わず「喜んでやらせて頂きます」と答えるところですが、当時は先方の配慮にこちらの思いが至りませんでした。ちなみに、アドバイスをくれた知人は実務翻訳者。当然のことながら、実務翻訳の現場での助言をくれたのでした。
 大学卒業後は政府系シンクタンクに勤め、研究助手として国際会議のオーガナイズをしたり専門家の政策提言書をまとめたりしていました。ですが、キャリアアップするには修士号や博士号が必要でした。とはいえ、いまさら大学に戻るのも……と悩んでいるうちに、「子どもの頃から大好きだった本を翻訳したい」という気持ちが募ってきました。抄訳の話から月日は経っていましたが、あらためて「翻訳」と向き合うことにしたのです。が、前回のように仕事まで降ってくるわけではないので、ネットや雑誌で情報を探し、まずはフェローアカデミーの通信基礎講座を、続いて週一回、平日夜の通学講座を受講しました。
 
充実した翻訳学校通学時代
 通学講座の受講生は仕事をしながら翻訳者を目指す人ばかりで、授業は毎回白熱していました。やがて、受講生の自主勉強会に参加するようになります。カフェに集まり、トライアルなどを課題にしてお互いの訳文を検討しあいました。自分の訳文を指摘してもらうことで、気づいていなかった癖が発見できました。また、メンバーそれぞれに得意な分野があるので、「IT情報については○○のサイトが信頼できるよ」とか「こういうときに使う重機は○○って言うのよ」、「男女のこういう絡みには○○という表現を使うのが一般的よ」といった情報交換ができました。今振り返ってみても、知的刺激にあふれた通学時代だったと思います。
 ノンフィクション講座修了後は、日本語の表現力によりいっそう磨きをかけたくて、亀井よし子先生の特別ゼミで学習を続けることに。そして、先生のはからいでチャールズ&スージー・ハーヴェイ著『月と太陽でわかる性格事典』(ソニーマガジンズ、新版ウイーヴ)を鏡リュウジ氏の下訳としてゼミ生4人で分担するチャンスをいただきました。その結果、同じ出版社から『男は火星人 女は金星人』(ソニーマガジンズ)で共訳者として翻訳者デビューすることができたのです。
 
念願の翻訳者生活へ
 やがて、年に2~3点ペースで出版翻訳のお仕事をいただけるようになります。ジャンルは、映画のノベライズ、ディズニーアニメの小説、評伝、自己啓発、スピリチュアル、恋愛小説、ビジネス寓話、ビジュアル事典、国際関係、恋愛心理、子育て、等々。一見ばらばらに思えるかもしれませんが、いずれも私の好きな分野です。数年前から、これまでに頂いた“ご恩”を“恩送り”したいという思いに背中を押され、翻訳学校で講座を持たせていただいています。その他、月1回開催の自主勉強会では、ノンフィクション・フィクション作品の翻訳の研究のみならず、ときおり仕事のシェアもしております。最後になりましたが、JTFさんとご縁がつながりこの場をいただけたことに、心から感謝します。ありがとうございました。
 
最近の訳書・翻訳協力書:
『メディカルハーブ事典』http://goo.gl/Db3OdK
『リー・クアンユー、世界を語る』http://goo.gl/kc6wms

『ビジュアル 教養大事典』http://goo.gl/T9JCWF


『恋に落ちる方法』http://goo.gl/IVvvq0


 

コラムオーナー

矢能 千秋
(やのう ちあき)

 
レッドランズ大学社会人類学部卒業。サイマル・アカデミー翻訳者養成コース本科(日英)修了。日本翻訳者協会会員、日本翻訳ジャーナル編集委員。スピーチ、ウェブコンテンツ、印刷物、鉄道分野における日英・英日翻訳に従事。サン・フレアアカデミー主催「オープンスクール」講師。
共訳『世界のミツバチ・ハナバチ百科図鑑』河出書房新社
特集:翻訳の未来を語ろう 
人間翻訳者●矢能 千秋

 

MISSION STATEMENT

フリーランス翻訳者になり16年目に入りました。最初の10年はがむしゃらに走ってきました。10年後、20年後の翻訳者としてのキャリアを模索し、いろいろな方のお話を伺ってきました。向こう10年、20年、30年の翻訳者としてのキャリアプラン、ライフプランを立てる上で、業界で活躍されている翻訳者の方々のお仕事ぶりを拝見したい、と思い、このコラムでは、2000字、翻訳、というお題に対して映し出される「人間翻訳者」の方々の「仕事部屋」を拝見したいと思います。皆さん方の「機械翻訳」に負けない「人間翻訳者」としてのキャリアの一助となれば幸いです。