イベント報告

2014/01/10

2013年度第4回JTF翻訳セミナー報告
翻訳の布石と定石 - 刊行に寄せて -

 

岡田 信弘
サン・フレア アカデミー 学院長


 



2013年度第4回JTF翻訳セミナー
2013年10月10日(木)14:00~16:40
開催場所●剛堂会館
テーマ●「翻訳の布石と定石 - 刊行に寄せて -」
講師●岡田 信弘 サン・フレア アカデミー 学院長
報告者●津田 美貴 個人翻訳者

 



今回の講師、岡田信弘氏は40年のキャリアをお持ちの翻訳者で、翻訳者の養成にも熱心である。今回は先日出版した著書「翻訳の布石と定石」を元に英日翻訳における表現の類型化についてお話しくださった。
(注:報告書を読みやすくするため、セミナー当日にお話いただいた順序と一部内容が前後する。)

翻訳の布石と定石とは

翻訳は、内容の理解と表現に全力を集中できる体制ができてはじめて可能となる。言語を理解できる読解力、話が理解できる程度の背景知識、読みやすくする表現力、これらは前提条件であり、ここでつまずいていては仕事にならない。仕事になるようにするためにはどうすればよいか?覚えられることは覚えてしまうことだ。たとえば、囲碁や将棋は定石を覚えると早く強くなれる。これと同じことが翻訳にも、専門知識にも言える。定石として覚えた方が早いものは覚えてしまった方がよい。そうすることで、時間も労力も節約できる。

もちろん、専門知識がなくても、語学力があれば内容が取れれば上手に訳せる。しかし、論理がわからなければ訳せない。英語力があっても論理が取れなければ訳すことはできないのだ。

表現力を身につけるにはどうすればよいか?これもパターンとして覚えてしまう。つまり、定石をたくさん身につけることだ。もちろん、同じことを書いてある英語でも、どこに重点を置くかで訳は変わる。だから紋きり型はダメだ。1つの単語に1つの訳し方では解決できない場合が必ずある。ではどうすればよいか?選択肢を複数用意し、その中でデフォルト(基本となる訳)を定めておく。それも、構文や単語などいろいろなレベルで。複数選択肢を用意しておけば、デフォルトから順次適用していき当てはまらなければ次の候補をどんどん試していける。もちろん、選択肢を判断する力が必要だが、何も用意していないまっさらな状態よりは時間が短縮できる。

用意した選択肢を適用する際、どちらを選択するか迷うことがあるはずだ。選択のorか言換えのorかなど。自信があるならぴったりの鋭い訳を、ないなら安全パイとしてぎこちなくても広い意味の訳を採用したほうがよい。

選択肢を選ぶ際にもう1つ大切なことは、自分の感覚(語感)である。理屈(英文法)ではなく語感に頼ると上手くいくことが多い。そういった場合、その時には理由を説明できなくても、後で理屈を説明できる場合が多い。だから、自分の感覚を大切にしてほしい。ただし、勉強するときは理解することが大事なので、理論も重視してほしい。

逆に、どちらで訳してもよい場合もある。いわゆる、どちらにも取れるグレー部分と呼ばれるもので、原文でもわざと曖昧にしている場合もあるし、原文それ自体が読みにくい(わかりにくい)場合もある。だから、迷ったらグレー部分と考え、長時間迷い続けずに次へ進もう。

基本的に訳文の操作は必要最小限にし、結果が同程度ならより原文に近い方を取るようにしたい。その方が翻訳する側も、チェックや訂正を行う際に手間が少なくてすむ。もちろん、直訳でおかしい時は操作を加えるべきだ。原文にない補足は最小限にし、既出、自明のものも少ない言葉で簡潔に済ませる工夫をする。

とは言うものの、私はときどき原文からはみ出すことがある。たとえば、eitherを訳出しない。なるべく原文通りに訳すが、eitherは選択肢の先触れであることが明白なのでわざと訳出しない、その方が読みやすいからだ。訳抜けと指摘されてもそう説明すればよい。

読解の誤りや表現の不適は訳文で検証する。このときに、直訳ではおかしいと手を加えた訳を原文に近い訳に戻す場合もある。途中まで訳して別案がよいと気がつくことも多々ある。これは大切で、訳文が変だと気がつかなければ、翻訳力は伸びない。

自然な訳文にするための3大重要技法

自然な訳文を作成するには、3つの重要な技法があると考えている。①畳込み文(畳込みと展開)、②態(受身文の訳し方)、③訳し下げか訳し上げか(to不定詞やso that構文の訳)である。

畳込み文とは、動詞派生名詞などによる畳込み構文(名詞構文、動名詞構文、形容詞構文)を主語とし、他動詞を述語とする文のことをこう名づけた。畳込み文は、文章をコンパクトにするために英文で多用されているが、これらは翻訳に工夫を要する場合が多い。文の単位としては大きいものから順に節、句、単語となるが、これらの構文は節に書き換えることが可能なので、節を簡略化したもの(畳み込んだもの)とみなすことができる。これを節の形に展開して訳すのが、読みやすい訳文を作るコツ。もちろん、名詞構文で修飾構造が簡単な場合は、変換を加えずに名詞のままで訳してもたいていは差し支えない。動名詞構文や形容詞構文も、名詞構文の形に畳み込んで訳した方がよい場合もある。

態は、受身形の文章をそのまま訳すと日本語として不自然になることが多いので、態を変えて能動態で訳出したり自動詞として訳出したりすることで、自然な日本語訳が得られる。

to不定詞やso that構文は、訳し下げた方がよい場合と訳し上げた方がよい場合があるので、前後の文脈を考え、必要に応じて訳し下げる、訳し上げる、を使い分けられるようにしたい。

これら3つの技法を用いれば、構文の複雑な特許明細書でも95%は訳文を完成させることができる。また、これらの技法を使って翻訳脳を作ることで直訳のくびきから脱却することが可能となる。

この技法のほかにも、知らないと間違える3大重要構文(①主語つきの動名詞構文(現在分詞と間違えて誤訳)、②結果・追加説明の分詞構文、③withの付帯状況構文)がある。他にも注意したい単語としてandとorをあげておく。andとorは考慮すべき点がいろいろありすぎて、機械翻訳ではもっとも難しいことでも有名である。つまり、それだけ注意が必要ということだ。

学習のヒント

無理の無い程度のやさしい英文をたくさん訳すとよい。一般的に、既知事項8割、新規事項2割くらいの教材を使うと学習が進む。未知単語が1ページに数個(1%以下)の文だと、未知単語の意味をほぼ正確に推測できる。同じ教材を反復使用すると効果的で、時間を短縮でき記憶が強化される。また、類似の教材を数種併用するのも有効であり、記憶のネットワークを補強する。
 


感想

私事に追われ著書を読まずに参加してしまったのだが、「事前に著書を読んでから参加するべきだった」と反省。セミナー後、著書を読んで「あぁ、なるほど!」と消化できたことが多かった。ご興味を持たれて翻訳セミナーDVDを購入される方は、ぜひ該当の著書「翻訳の布石と定石」を一通りざっと読んでから、DVDを見ていただきたいと思う。