イベント報告

2015/11/06

2015年度第2回JTF翻訳セミナー報告
医薬翻訳の品質を支える一流の仕事術


石岡 映子


兵庫県出身。大学卒業後、コンベンション・通訳・翻訳を手掛ける会社に入社し、会議運営など様々な業務に従事。1995年にアスカコーポレーションを設立し、医薬翻訳を中心に、企画、編集、ライティングなど多様なサービスを展開している。
 

渡辺 典子


広島県出身。薬学部卒業後、大阪にある外資系製薬会社に勤務し、翻訳業務に携わる。翻訳学校で学んだ後、1996年よりアスカコーポレーションにて翻訳を本格的にスタート。モットーはクライアント本位。どんな仕事にも誠心誠意取り組む、リピート率No.1のスター翻訳者である。

 



2015年度JTF第2回翻訳セミナー報告
日時●2015年9月10日(木)14:00 ~ 16:40
開催場所●剛堂会館
テーマ●「医薬翻訳の品質を支える一流の仕事術」
登壇者●石岡 映子 Ishioka Eiko 株式会社アスカコーポレーション 代表取締役、JTF理事
●渡辺 典子 Watanabe Noriko 同社 シニアトランスレータ
報告者●仲山 裕子(株式会社 川村インターナショナル)

 



北関東で鬼怒川決壊という被害をもたらすことになった大雨の翌日、悪天候が心配されたが、医薬分野翻訳への関心の高さを反映し多くの参加者が集まった。
医薬翻訳は、「不況に強い」とか「翻訳料金が高い」など魅力的な言葉で語られることが多い分野であるが、実情はどうなのか。また、医薬翻訳の分野において、品質の高い翻訳とはどのようなものなのか。高品質の翻訳サービスを提供することで顧客から評価の高い、医薬分野専門の翻訳会社、株式会社アスカコーポレーションの石岡社長と同社のシニアトランスレータ渡辺氏にお話しいただいた。

石岡社長

これから医薬分野の翻訳に飛びこもうとする参加者へのエールともなる「医薬翻訳は特別なものではなく、産業翻訳の一分野である」という言葉から石岡社長のお話が始まった。
医薬翻訳関係者以外の参加者にもわかりやすいよう、医薬業界や医薬翻訳についての概要を説明いただいた。

1.  数字でみる医薬翻訳<出典:翻訳白書>  

   ★市場(需要)
・医薬バイオ分野は 9.2 %(2008年) → 12.2%(2013年)の伸び
・翻訳市場全体規模を2,220億円と想定すると、270.8億円(12.2%)が医薬バイオ分野
  ★翻訳者数(供給)
 9.2 %(2009年) → 21.7%(2013年)
 医薬バイオ分野の翻訳者は、市場の伸びポイント以上の割合で増えている
  ★対クライアント価格
 白書ではITの1.5倍となっているが、実際は価格が高いわけではない

2.  医薬翻訳とは

新薬申請に関する文書(臨床/非臨床)、論文等の翻訳が他分野とは異なる特殊性のあるものだが、そのほかは他分野の翻訳と変わらない。

3.   製薬業界  顧客を取り巻く環境も厳しさを増している

・海外製薬市場 100兆円 (国内製薬市場 は横ばいで10兆円)
  (日本/米国:変わらない、欧州:陰り、中国/新興国:増える) 
    内資製薬企業も海外に目を向けていかなければならない
・新薬開発にかかる莫大な費用と時間
・ジェネリック医薬品の増加

4.   医薬翻訳業界

・製薬業界のアウトソーシングの加速
・コスト圧縮に対するクライアントからのプレッシャー
・ツールの使用
・海外翻訳会社との競合

渡辺氏

 アスカコーポレーションで顧客からのリピートNO.1である、渡辺氏から治験関連文書の翻訳のコツ、ヒントなどについて講演があった。

1.   まず翻訳者が理解すべきこと

・治験全体の把握。その治験で想定されている結論(治験文書はある結論に向けて準備されている文書である)
・対象の薬剤が使用される疾患の特性、病態など

2.   翻訳作業の基本

・(和訳の場合)自然な日本語に仕上げる。
  →「自然な日本語」とは?:読み返さなければ意味がわからないものはNG
・声に出してみる、人間が理解しやすい情報提供の順序を念頭において文章を書く、内容を正確に理解するために図式化する

3.具体的な翻訳演習

上記で説明した基本ポイントについて、良い例悪い例を具体的に示しながら解説。
 ①自然で正確に意味の伝わる翻訳(和訳)の例
 ②自分が関わる翻訳の治験がどのようなもので、対象となる疾患を理解しないと良い翻訳ができない例 (英訳)
病気を理解して、その薬剤がどのようにどこに作用するのか(薬理作用)を理解していれば、原文にない主語をきちんと訳出することができる。

質疑応答

Q   翻訳会社やクライアントに翻訳を納品する際のコメント(翻訳に関する申し送り事項)の適切な付け方は?
A   複数の解釈が可能な箇所などには、その旨の説明を記載する。翻訳コメントは、翻訳者の力量がわかるポイント。だらだらと書きすぎてもダメ、コメントすべきところを省略するのももちろんダメ。クライアントが、クライアントにしかできないレビューに集中できるようなコメントの付け方が理想。
 
Q   今後、日→英の翻訳においては、ターゲット言語のネイティブが翻訳することがスタンダードになるのでは?現状はどうなのか。
A    原文(日本語)が非常にわかりにくく英語ネイティブには読解が難しい文書もあり、日本語話者の英訳需要も多い。和訳(英→日)の力を高めることにもつながるので、英訳の勉強もしておいたほうがよい
 
Q   駆け出し翻訳者とベテランの報酬の差は?
A   周りがどうかということではなく、まずは、自分自身の力を高め、評価をしてもらえる翻訳者になるということが大事なのではないか。次もぜひ、と指名されるようになれば要求や要望も言い出しやすいはず(笑)

顧客が短納期、高品質、低コストを求めるのは当然のことであり、それは医薬翻訳の分野でも変わらない。石岡社長が冒頭で宣言(!)したように、医薬翻訳は決して特別なものではなく産業翻訳の一つの分野であって、顧客に信頼される翻訳会社や翻訳者になるためにしなければいけないことはどんな分野の翻訳であっても同じであると改めて感じた。すなわち、顧客が何を求めているのかに常に耳を研ぎ澄まし、変化に対応しながら、要望に応えていくための努力を怠らない――当たり前のことではあるが、これができてはじめて、翻訳に何らかの形で携わる我々は顧客業界とその先にある社会に貢献できるといえる。渡辺氏の翻訳の質を高める作業上のコツの話を含めて、たくさんの翻訳業界関係者に聴いてほしい内容であった。
 
顧客が短納期、高品質、低コストを求めるのは当然のことであり、それは医薬翻訳の分野でも変わらない。石岡社長が冒頭で宣言(!)したように、医薬翻訳は決して特別なものではなく産業翻訳の一つの分野であって、顧客に信頼される翻訳会社や翻訳者になるためにしなければいけないことは、どんな分野の翻訳であっても同じであると改めて感じた。すなわち、顧客が何を求めているのかに常に耳を研ぎ澄まし、変化に対応しながら、要望に応えていくための努力を怠らない――当たり前のことではあるが、これができてはじめて、翻訳に何らかの形で携わる我々は、顧客業界とその先にある社会に貢献できるといえる。渡辺氏の翻訳の質を高める作業上のコツの話を含めて、たくさんの翻訳業界関係者に聴いてほしい内容であった。