イベント報告

2018/01/19

Women in Localization Japan 第12回イベント報告
なぜ私たちはこんなに忙しく大変なのか?
- Why Japanese people? II -


高橋 聡

CG以前の特撮と帽子をこよなく愛する実務翻訳者。翻訳学校講師。学習塾講師と雑多翻訳の二足のわらじ生活を約10年、ローカライズ系翻訳会社の社内翻訳者生活を約8年経たのち、2007年にフリーランスに。現在はIT・テクニカル文書全般の翻訳を手がけつつ、翻訳学校や各種SNSの翻訳者コミュニティに出没。最近は、翻訳者が使う辞書環境の研究が個人的なテーマになっている。共著『翻訳のレッスン』(講談社)。

矢野 和美

1993年JTF入局、現在事務局長。
 



Women in Localization Japan 第12回イベント報告
日時●2017年10月20日(金)19:00 ~ 21:30
開催場所●ネットアップ株式会社 会議室
テーマ●なぜ私たちはこんなに忙しく大変なのか? - Why Japanese people? II - 
登壇者●高橋 聡 Akira Takahashi 個人翻訳者 JTF理事
矢野 和美 Kazumi Yano 一般社団法人日本翻訳連盟 事務局長
WLチャプターマネージャー(森 みゆき・上田 有佳子・千葉 容子・澤村 雅以)
報告者●目次 由美子(XTM International Ltd.)

 


 

ローカリゼーションに携わる女性のための非営利団体として2008年に米国加州で設立された「Women in Localization」(以下、WL)の日本支部は2015年に発足し、3ヶ月ごとに勉強会兼ネットワーキングのイベントを開催している。クライアント企業のみでなく、翻訳会社や個人翻訳者、翻訳ツールベンダーを含むおよそ100名の会員を擁し、ローカリゼーション関連の新しい技術や共通の問題をトピックとしたセッションを行っている。各イベントは飲食しながらの自由な雰囲気で行われ、お子様連れや男性の参加者も見受けられる。会員向けにトピックを厳選してスペシャリストを講演者に迎えるセミナーは内容も充実しており、通算で第12回となるイベントの1トピックとして「翻訳品質を考える」ためのシリーズに関するセッションが開催された。
今年6月に先行して開催された同シリーズのセッションでは、ネットアップ㈱の上田有佳子氏がクライアントの視点から、SDLジャパン㈱の澤村雅以氏が翻訳会社のプロジェクト管理者としての視点から、そしてJTF理事を務めておられた田中千鶴香氏が個人翻訳者としての視点から「翻訳品質」に対する考え方や、取り組みについてパネルディスカッションを展開された。上田氏と澤村氏が独自の発想を打ち出す反面、田中氏は皆の意見をまとめようというのではなく、翻訳に関わるさまざまな立場の人たちにメリットがもたらされることや、基準を設けることの大切さを伝えるためにも登壇されたという。田中氏はこのイベント直後の本年7月に急逝されたが、同氏はWL日本支部の発足当初からの会員としても、日本翻訳連盟(以下、JTF)でも『JTF 日本語標準スタイルガイド』の発行や翻訳品質委員会の発足など、翻訳品質に熱心に向き合って来られ、業界に多大な足跡を残したといえるだろう。

本イベントでは、本団体の日本支部長である森みゆき氏の発声による田中氏への献杯のあと、日本支部創設者である上田氏が田中氏のWLへの貢献を紹介し、JTF事務局長である矢野和美氏が田中氏との関わりを中心にJTFという団体やその組織を紹介した。田中氏は個人翻訳者でありながら2008年6月にはJTF理事に就任し、それ以前にも自主勉強会を企画・開催され、日本翻訳者協会(以下、JAT)、テクニカルコミュニケーター協会、言語処理学会、日本規格協会など、さまざまな団体を通して個人翻訳者として輝かしく活躍され、個人翻訳者でありながらISO17100:翻訳サービス提供者の認証を取得された。

 


高橋聡氏のプレゼンテーションスライドの1枚目には「田中千鶴香さんの足跡 ~業界と人をつないだ優しい笑顔~」というタイトルが付されており、JTFでの田中氏の功績が紹介された。田中氏と深い縁を持つ高橋氏は、努めて明るく「大事な仲間」のことを語った。2010年には「スタイルガイド検討委員会」を発足し、オンラインフォーラムとアドバイザー会議を開催された。日本のあらゆる企業で使用してもらえるようなスタイルガイドを作りたいという田中氏の発想は、多少ながら高橋氏を圧倒したそうだ。2011年11月の翻訳祭では進捗が報告され、2012年1月には前述の日本語スタイルガイド初版の発行、2012年9月にはスタイルガイドに準ずる3種類のチェックツールの公開および説明会の実施、2013年6月にはJATの協力を得て同スタイルガイドの英語版を発行、2015年にはスタイルガイド委員会のオリジナルマスコット「美寿島先生(ミスしませんせい)」の発表、2015年4月以降に開催されたスタイルガイドセミナーでは日本語ライティングに重きが置かれていたり、ツールのハンズオンセミナーがあったり、既存の形式にとらわれない取り組みが展開された。
平仮名、カタカナ、漢字という三種類の文字がある日本語の特殊性は否めることなく、世界的に翻訳業界で採用されているDQF(TAUSのDynamic Quality Framework)やMQM(QT LaunchpadのMultidimensional Quality Metrics)を日本語に当てはめるには難しく、日本独自の品質保証モデルを作りたいという方針へと向かっている傾向が伺えた。
2017年6月には、旧スタイルガイド委員会を改めた翻訳品質委員会が発足され、その第1回となる会合の当日に田中氏の悲報がもたらされた。

 

JTFの翻訳品質委員会は、JTF理事に新たに就任された西野竜太郎理事が委員長となり、さらに翻訳品質に取り組んでいく。

WLでは現日本支部長の森みゆき氏、運営担当の上田氏、澤村氏、千葉氏(㈱十印)が11月初頭に米国シリコンバレーで開催されるLocWorld35および、11月末に東京で開催されるJTF翻訳祭にて、さらにはこれ以降も日本語の翻訳品質に関するセッションを展開していく予定だ。