イベント報告

2018/05/11

第13回イベント報告
Women in Localization Japan


金子 行宏
1964年生まれ。
㈱リクルートにて人材育成コンサルティングおよび研修企画、プログラム開発を担当。退社後、2003年に日本と上海にブライトンヒューマンキャピタルコンサルティングを設立し、現在に至る。
中国日本商会、JETRO、海外職業訓練協会、金融機関などでの講演多数。
上海外国語大学(非常勤)講師
OVTA国際アドバイザー、厚生労働省キャリア・コンサルティング手法等調査研究委員、経営行動科学学会、国際ビジネス研究学会、アジア・国際経営戦略学会所属
著書『中国進出企業における成功/失敗事例集』(共著)技術情報協会
『老成時報』(労務行政)Web版連載


三笠 綱郎
大手電機メーカーでシステム開発に携わった後、1990 年代半ばローカリゼーション業界に入り、翻訳サービスのプロセス標準化や品質管理、機械翻訳をはじめとした言語関連の各種テクノロジーの導入、翻訳チームのマネジメントに従事。
途中フリーランス翻訳者も経験し、IT を中心としたさまざまな分野の翻訳に携わる。
現在は品質管理プロセスの強化・改善とともに最新のMT 技術の導入に取り組んでいる。 


森口 功造
品質管理担当として株式会社川村インターナショナルに入社後、翻訳、プロジェクトマネジメントなどの制作業務全般を経験。
2007年に品質工学の考え方を取り入れた独自の統計的品質管理手法の社内導入を推進。2011年からは営業グループを含めた業務全般の統括として社内の管理に携わっている。
現在は、業務プロセスの標準化推進にも関わり、ISO TC 37 国内委員として、主にISO17100、ISO18587、ISO21999の策定に関わる。




Women in Localization Japan 第13回イベント報告
日時●2018年02月02日(金)19:00 ~ 21:30
開催場所●ネットアップ株式会社 会議室
セッション I
テーマ●中国人のものの考え方やコミュニケーション
登壇者●金子 行宏 Kaneko Yukihiro ブライトンヒューマンキャピタルコンサルティング会社
セッションII
テーマ●いまMTをどう使うか? MTにどう立ち向かうか? 
登壇者●三笠 綱郎 Mikasa Tsunao 株式会社十印
セッション III
テーマ●翻訳とポストエディットの本質的な違い -国際標準規格から考える-
登壇者●森口 功造 Moriguchi Kozo 株式会社川村インターナショナル
WL事務局メンバー(森 みゆき・上田 有佳子・千葉 容子・澤村 雅以)
報告者●目次 由美子(XTM International Ltd.)

 



 ローカリゼーションに携わる女性のための非営利団体として2008年に米国加州で設立された「Women in Localization」の日本支部は2015年に発足し、3ヶ月ごとに勉強会兼ネットワーキングのイベントを開催している。発足当初は約10名であった会員は今や100名を越え、クライアント企業のみでなく、翻訳会社や個人翻訳者、翻訳ツールベンダーを含む。ローカリゼーション関連の新しい技術や共通の問題をトピックとしたセッションを行っており、この2月のイベントでは機械翻訳が大きな話題として取り上げられた。

セッション I
中国人のものの考え方やコミュニケーション
金子 行宏氏

 「発話された言葉が相手にどのように受け取られているのか。そこには中国人と日本人の違いが存在する」
 中国と日本に研修・コンサル会社を設立して15年の金子氏は、中国に所在する日系企業を顧客に擁している。中国人を部下に持つ上司の不満の一つとして、中国人は受けた仕事上の指示に対して、「できる」は気軽に言うが、「できない、分からない」とは決して言わないことがあげられると指摘し、次のように述べた。
 日本人が考える「できる」と中国人の「できる」では、その言葉の意味することが異なる。日本人が「できる」と言えば、それは完遂できることを意味し、その発言にも責任や義務がまとわりつく。中国人のそれは、私ならできそうだ、やってみますという程度の、いわば仕事の受領宣言に近い意味がある。なので、その仕事を完遂する能力が有るかどうかは別の話だから、実際に受けた仕事が不十分な成果になることもしばしば起こる。日本人上司は、「できると言ったのに!できないなら先に言っておいてよ」という不満を持つことになる。他方「できない、分からない」と発言する部下への反応も違う。日本人の上司は育成的な態度を示してフォローする傾向にあるが、中国人の上司は私が機会を与えているのになぜやろうとしないの?と、部下のやる気に疑いの目を向ける。このように同じ言葉であっても受け取られる意味にずれが生じてしまう。なので、仕事で大きな問題を生じさせることがある。結局、日本人上司が中国人部下に対してできることは、期待値を現実的に設定し、遂行プロセスに介入する、できないことよりもできることを中心に考える、刻々と変化する状況においてはその時々に対応するということになる。
 そもそも、このような違いがうまれる背景には社会とその成り立ちに関係がある。中国社会において、自分の能力を多少過剰に発信することは極めて一般的な行動である。その理由として、中国が厳しい個人の競争社会であることや、人の流動性が高いことなどが挙げられる。逆に日本人は、自らの能力をやや過小に申告してしまう傾向がある。
 それぞれの社会にはそれぞれに合理的な行動があると、私たちは相互に理解し合いながら仕事をすることは可能であると言える。
 以上、金子氏の講演に対し、参加者から「日本人は自らの長所を過小申告しているとするが、米国在住の日本人の提示はさらに低く発信しているように思われる」との発言もあった。講演内容は翻訳自体に直接関連する話題ではなかったが、私たちは多言語翻訳プロジェクトなどで、ターゲット言語ごとに翻訳者や該当国の特色が伺えることがある。それはその国の国民性であると簡単に片付けてしまいがちだ。しかし、それは取りも直さず私たちの翻訳業務の難しさそのものを示しているのかもしれない。「日本語への翻訳は、なにがそんなに難しいのか、なぜチェックにそんなに時間が必要なのか」と問われることがあるが、それは金子氏が指摘したことと同じように関連しているようにも思われた。

 

セッションII
いまMTをどう使うか? MTにどう立ち向かうか?
三笠 綱郎氏

 株式会社十印にて品質管理業務に従事する三笠氏は、現在、機械翻訳(Machine Translation:MT)の実務への導入に取り組んでいるそうだ。ルールベース、統計ベース、そしてニューラルネットワークといった機械翻訳の代表的な手法についても、それぞれの特徴をざっと紹介してくれた。
 特に、2016年11月にリリースされたGoogle翻訳のニューラル機械翻訳を含め、ニューラルネットワークを搭載したMTエンジンから生成される和訳の流暢さを提示した。なかには、英作文が得意ではないことが顕著であり、文法の誤りが含まれる英文であっても、MTにかけると一見して流暢に見受けられる和文が生成される例を示してくれた。
 また、MTの弱みとして訳語の「揺れ」が指摘された。deploy(デプロイする、配備するなど)、configuration(コンフィギュレーション、構成、設定など)の訳に不統一が見られ、ソフトウェアのローカリゼーション業務においては必須とされる用語統一が難しい様子であることが言及された。
 MTを利用する形態としては、MTを利用して訳文を生成するのみのこともあれば、「ポストエディット」(Post-Edit:PE)と呼ばれる、MTが生成した訳文を人手によって修正する「MT+PE」という作業があるとのこと。
 代表的なMTエンジンとしてGoogle社の「Google Translate」、情報通信研究機構(National Institute of Information and Communications Technology:NICT)の「みんなの機械翻訳」、Microsoft社の「Microsoft Translator」などが紹介された上で、実施している試験利用と結果を紹介してくれた。
 たとえば、あるユーザガイドを対象にGoogleとNICTのエンジンを利用してPEを実施した場合、人手翻訳(Human Translation:HT)よりも作業効率が向上するという結果が出たそうだ。ただし、4人の担当者に対してPEを急いで行うようにという指示は出さなかったとのこと。翻訳品質の評価は確認してはいないものの4人の被験者には同じ傾向が見られ、他のMTエンジンに比較して、Google Translateを利用した場合は最速でPE作業が完了したそうだ。
 さらに、三笠氏はテクニカル製品のマーケティング資料の英和翻訳においても、MTの利用が有効であるかを試験してみたとのこと。ノートパソコンなど実際のWebサイト上の製品紹介ページを提示した上で、MT結果とHT結果を混在して提示してくれた。MT結果には良いところとそうでないところの「ムラ」が見られ、「Choose yours!」というような英語ならではの表現ともなると、それらしい和訳の生成は難しいことが見て取れた。

 

セッションIII
翻訳とポストエディットの本質的な違い
-国際標準規格から考える-
森口 功造氏

 ISO TC 37の国内委員としても活躍する森口氏は、まず、「ポストエディット」(PE)とはなにかを参加者たちに質問した。その場では、「機械翻訳後の修正作業」という表現が挙げられた。
 そして、翻訳に関連するISO(International Organization for Standardization、国際標準化機構)の規格がどのように策定され、施行されるかをざっと解説してくれた。たとえばISO17100:翻訳サービスに関する国際規格が策定された背景として、翻訳提供者間にて真に国際的な基準を設ける需要があったことや、副次的な効果として翻訳業界でプロセスが共有されたこと、ISOを取得したことによって企業の信頼性が向上したことが紹介された。ISO17100は、日本ではすでに32の組織が取得済みとのこと。
 本セミナーでは、2017年4月に正式版がリリースされたISO18587:ポストエディットに関する国際規格をISO17100と比較しながら解説してくれた。この規格については、日本では認証機関が存在しないために「自己適合宣言」しか選択肢がなく、信頼性が低くなるという点と、しかしながらこの規格のおかげで「ポストエディット」という言葉が普及したように思われるという利点が紹介された。
 ISO17100は品質が重視されており、翻訳の成果物に特化しているとのこと。一方、ISO18587は納期短縮と予算低減が重視されているそうだ。しかしながら、HTと同レベルの品質は求められているとのこと。
 さらに、ISO18587でいうポストエディットは「フルポストエディット」であるとも解説があった。「製品としてリリース可能な品質」のためにはフルPEが必要であるが、最終的に公開することを目的とはしておらず、主な概念やポイント、情報を収集する目的であればライトPEで十分という表現を聞くこともある。そして、フルPEには、翻訳者による翻訳と同水準が求められており、つまりはISO17100で規定される翻訳者と同水準のスキルセットや資格が必要であるとのこと。
 ISO17100で規定されているHTでは、翻訳をした後、セルフチェックをし、バイリンガルチェックをすることが求められており、チェック担当にも翻訳の学位や経歴が求められている。ISO18587では、「MT+PE」、つまり機械翻訳に訳文を生成させて、ポストエディットをするというのみのプロセスが定められており、それ以降のチェック作業のプロセスは明確には定義されていないそうだ。しかしながら、「ポストエディター」にはISO17100に規定されている翻訳者と同様の力量が要求されており、翻訳に関連する学位や資格、検定などの力量評価、さらには専門知識や能力まで求められているとのこと。
 MTやPEを提供している翻訳会社は、ISO18587に関わらず、発注者と仕様を協議して必要なプロセスの項目を増やすことも可能であるとの言及もあった。また、フルPE作業に関して発注者と合意を形成するポイントとして、以下が挙げられた。

  1. 用途は正しいか(重視するのは品質か、価格・納期か)

  2. ターゲット品質の違い

  3. チェック作業の有無

  4. チェック項目の明確化

MTが向上している今だからこそ、こういった定義をする必要があると森口氏は力説された。