イベント報告

2018/09/14

Women in Localization Japan
第14回イベント報告
 



Women in Localization Japan 第14回イベント報告
日時●2018年06月08日(金)19:00 ~ 21:30
開催場所●ネットアップ株式会社 会議室

セッション I
テーマ● SAPにおけるローカリゼーションの現状と挑戦
登壇者●佐野栄司 Eiji Sano, SAPジャパン株式会社 
セッションII
テーマ●2020年に向けてローカリゼーション業界が目指すべきもの 
登壇者●尾立源幸 Motoyuki Odachi, Oyraa
セッション III
テーマ●LocWorld Tokyo #36の報告
登壇者●上田有佳子 Yukako Ueda, Women in Localization日本代表
WL事務局メンバー(上田 有佳子・千葉 容子・澤村 雅以・加藤めぐみ・森 みゆき)

報告者●目次 由美子(XTM International Ltd.)


 

 ローカリゼーションに携わる女性のための非営利団体として2008年に米国加州で設立された「Women in Localization」の日本支部は2015年に発足し、3ヶ月ごとに勉強会兼ネットワーキングのイベントを開催している。発足当初は約10名であった会員は今や100名を越え、クライアント企業のみでなく、翻訳会社や個人翻訳者、翻訳ツールベンダーを含む。ローカリゼーション関連の新しい技術や共通の問題をトピックとしたセッションを行っており、この6月のイベントでは日本におけるローカリゼーションの取り組みにスポットライトが当てられた。

セッション I
SAPにおけるローカリゼーションの現状と挑戦

佐野 栄司氏

 「SAP」といえば、グローバルに活躍している企業であり、その翻訳需要の高さからも社名を聞いたことがない業界人は少ないのではないだろうか。SAPジャパン株式会社にてSAPランゲージサービス ジャパンのディレクターを務める佐野氏は、「企業向けのソフトウェアを作って販売しているドイツの会社である」と自社を簡潔に説明してくれた。予測分析や機械学習、クラウドを基盤としたマーケティングへAI(Artificial Intelligence、人工知能)を組み込むことなどにも取り組んでいるマーケット リーダである。急成長を遂げるデータベース ベンダーでもあり、同社のソリューションはクラウドのみでなく、オンプレミスやハイブリッドでも提供されている。1972年の創設当初は約5名であった社員数は2018年には140ケ国9万人を超え、約10社であった顧客も180ケ国40万社近くに昇っている。
 


 同社の翻訳・通訳の需要を満たすSAPランゲージサービス(SAP Language Services、SLS)は、SAP製品、サービスおよび社内コンテンツを標準的に約40の言語に翻訳している。SLSの拠点はドイツ本社のほか日本、カナダなどに点在するが、通訳サービスの取り扱いが最も多いのは日本であるとのこと。SLSは41ケ国の120を越えるサプライヤーと協業し、2800名以上の翻訳者により2017年には約10億ワードを翻訳した実績を有する。ソース言語は英語のみではなく独語のこともある、また、近年のストラテジーとして機械翻訳を標準プロセスとして取り入れ始めているという紹介もあった。同社独自の翻訳ツールを開発し、外部顧客へも提供しているそうだ。
 SAP社の現状としては、製品のクラウド化が加速し、新技術への対応が求められる中、イノベーションも促進されている。これに伴って、労働環境の改善や人材育成も進んでいるそうだ。
SLSが直面する課題として、急激な翻訳分量の増加、予算や人材を含む翻訳リソースの限界、クラウドの開発サイクルや翻訳プロセスのオートメーションなどが挙げられた。SAP社は数十社の吸収・合併を年間で実施しており、合併された企業の製品なども翻訳対象となる。単なる翻訳分量の増加だけではなく、既存する用語集やスタイルガイドなどとの統一も当然ながら課題となる。さらにはSAP社への売り上げの貢献も求められている。
 特にSLSジャパンとしては、オペレーション拠点が中国へ移転されるなど世界的な経済情勢に単純に飲み込まれることなく、日本チームの重要性や存在意義を訴え、日本チームからの価値提供を継続していくという課題も抱えているそうだ。会社の指針や上位組織のストラテジーを反映した目指すべきゴールを明確に周知し、ビジネスの変化を受け入れ、自己啓発や新しい知識の習得も意識してメンバーと共に邁進しているとのこと。

セッションII
2020年に向けてローカリゼーション業界が目指すべきもの

尾立 源幸氏

 尾立氏は講演の冒頭で、海外で放映された日本のアニメーションの数コマを見せてくれた。そのうちの1つは、あるキャラクターが視聴者へ向けて棒付きキャンディーを差し出している。次のスライドに示された日本原作の同じコマでキャラクターが手の平に握っているのは、1本のタバコであった。未成年者に喫煙を促してはならないという配慮からこのような変更が発生したのだそうだ。
ローカリゼーションとは、「産業翻訳、ビジネスや技術に関わる文書の翻訳」と定義されているが、海外の地域性や文化、法律や規制、商品やサービスに対するニーズを理解した上で進出することが注意されている。
日本政府の内閣府が推進する「クールジャパン推進戦略」では、コンテンツのローカライズおよびプロモーション支援もその一環として含まれており、コンテンツ産業の海外市場獲得希望を2011年の0.7兆円から約10年で約2~3兆円に拡大するという目標を掲げている。

 


 日本の魅力を海外に発信する支援政策としては、大きく4つの事業がある。そのうちの1つである「ジャパン・コンテンツ・ローカライズ&プロモーション支援助成金」では、コンテンツを海外へ展開する際に必要な「ローカライズ」(字幕や吹き替えなど)や「プロモーション」(国際見本市への出展、PRイベントの実施など)に関する費用の補助を行っている。海外への発信に対する総合的な支援を実施し、日本ブームを創出することによる関連産業の海外展開の拡大や、観光などの促進につなげることを目的としている。2年間の予算総額約155億円において、3815件が採択されたとのこと。
 また、観光立国推進基本法により、観光立国の実現は国家戦略として位置づけられていることも手伝って、訪日外国人の数は2011年頃から毎年約500万人ずつ飛躍的に増加している。政治家としての経歴をもつ尾立氏は、中国を対象として初めての個人観光ビザの発給に2009年に取り組まれたそうだ。その後も、タイやマレーシアに対するビザ免除、インド、フィリピン、ベトナムに対するビザ発給要件の緩和にも取り組まれたとのこと。
 ビザ発給の緩和化は訪日外国人数の増加に効果を発揮したと考えられるが、新たな問題がもたらされたことも否めない。たとえば訪日外国人に対する緊急医療の支払いが滞る、医療現場における「言葉の壁」が挙げられる。
 尾立氏は現在、「Oyraa」(オイラ)という名前のオンデマンドでプロの通訳者を利用出来るアプリの開発と世界展開にあたってOyraaのローカライズに取り組まれている(https://www.oyraa.com/)。インバウンドとアウトバウンドの両面において言語の障壁をなくすという目的を掲げ、グローバル化に取り組まれている。

セッションIII
LocWorld Tokyo #36の報告

上田 有佳子氏

 4月3日~5日に舞浜のヒルトン東京ベイにて開催されたLocWorld Tokyo #36では、『Let's Talk About Japanese Again in Japan』というパネルディスカッションが執り行われ、上田氏よりその報告があった。
 


 日本語は世界で最も難しい言語と言われており、Women in Localizationのジャパン チャプターとして取り組んでいるトピックについてのパネル  ディスカッションを行った。今後はこのトピックに関するポータルを製作し、ナレッジを蓄積して世界に対して発信していくことを目的としている。
 LocWorld Tokyo #36では新しいツールが導入され、会場の参加者を対象としてリアルタイムで統計を取得し、スクリーンに結果を映し出すことができた。以下、結果をいくつか紹介する。

 当該セッションの参加者のうち、52%以上が翻訳バイヤー(翻訳会社にとってのソースクライアント)であることが示され、翻訳会社が24%、ツールベンダーと個人翻訳者それぞれが4%、その他が16%であった。
 日本語を母国語とする参加者が52%と示された。
 さらに、翻訳バイヤーのみを対象とした質問では、67%が機械翻訳を使用しているという数値も示された。
 同じ質問を翻訳会社のみを対象としたところ、60%という全体の半分以上の数値が示された。
 さらに、翻訳会社を対象に英語から日本語の翻訳プロジェクトで機械翻訳を使用しているかという質問に対しても、55%という数値が示された。
 100%マッチに対するレビューを実施しているかという質問に対しては、71%がしているとの回答だった。「読みやすさ」や「品質のため」という理由が挙げられる一方、「コンテキストがなければ意味がない」、「コストや時間を消費する」という意見もあった。

 質疑応答においては、ローカリゼーション業界の最新状況が伺える内容が網羅されており、こちらも一部紹介したい。

Q. プロセスの自動化に伴い、プロジェクトマネージャは減少しているか?
A. 「コーディネータ」タイプのPMは減少していると言える。コミュニケーションに長けている、「アカウント マネージャ」と呼ばれるようなPMは需要が高いと考えられる。

Q. 翻訳バイヤーとしては翻訳会社が機械翻訳の使用を把握できるか?
A1. 翻訳会社と確認すべきである。
A2. 翻訳会社は合意しないかぎり機械翻訳を使用すべきではない。

Q. 100%マッチのレビューにAIが導入されているか?
A1. 可能性はある。大きなデータでコンテキストをAIによって判別するようなことができれば、100%マッチの信頼性は高まるであろう。
A2. 現在そのような取り組みがなされていると聞いたことはない。