イベント報告

2019/01/18

2018年度第4回JTF翻訳セミナー報告
【通訳セミナー】第1部 表現する力、第2部 フランス語通訳の魅力


佐々江 信子(ササエ ノブコ)


青山学院大学・文学部英米文学科卒業。ペンシルバニア大学大学院 教育学修士号。通産省外郭団体Association for Overseas Technical Scholarship (海外技術者研修協会)の常勤通訳を経てフリーランスの通訳に。現在まで総理大臣の海外での記者会見をはじめ東アジア首脳会議、日本ASEAN首脳会議、TPP閣僚会合、日米財界人会議、アジアの未来、富士山会合、世界経営者会議など数多くの国際会議で会議通訳者として活躍。2012年から2018年まで夫の佐々江賢一郎駐米日本大使とワシントンに在住。公務の合間に会議通訳の仕事を継続するとともに、米国の女性のトップリーダーとワシントン在住のキャリアウーマン達との対話を行う「信子フォーラム」を創設。企画及びモデレーターを務める。二男の母。趣味は山歩きと音楽鑑賞。

高野 勢子(タカノ セイコ)

上智大学文学部フランス文学科に在学中、仏国アンジェ・カトリック大学に留学。帰国、大学卒業後、在日フランス大使館に就職し、総務部長補佐通訳を務める。フランス大使館を退職後、外資系製薬会社に日本代表医師の補佐として入社。在職中に通訳学校に通い、学校卒業後、フリーランスの通訳者に。現在は、日本語・フランス語の会議通訳者として、要人来日通訳、G7大臣会合、TICAD首脳会議など、重要な国際会議で活躍。



2018年度第4回JTF翻訳セミナー報告
日時●2018年12月12日(水)14:00 ~ 16:40
開催場所●剛堂会館
テーマ●【通訳セミナー】第1部「表現する力」(英語)、第2部「フランス語通訳の魅力」
登壇者●佐々江 信子(ササエ ノブコ)会議通訳者、信子フォーラム代表、前駐米大使夫人
   ●高野 勢子(タカノ セイコ)フランス語会議通訳者
報告者●藤井 ゆき子(一般社団法人通訳品質評議会 理事)

 


 

第1部

40年にわたり第一線の会議通訳者として活動してきた佐々江氏が、その人生の中で得た知見を生かして発信したメッセージは、寒い中集まった参加者にとって心が熱くなる活力になったと思われる。

表現する力と表現をする事から生まれる力

自分のまったく違った3つのキャリア、会議通訳、大使夫人、 信子フォーラム代表について振り返ることで、表現する力と表現をする事から生まれる力についての話が始まった。
 
まず1番長いキャリアである「会議通訳」について、きっかけはアポロ月面着陸の同時通訳、この時に通訳の仕事に驚き魅了された事である。
通訳の仕事の難しい部分は、 内容を把握して論旨を理解し、自分と違う知性を持つ発話者の頭の中の想いを代弁する作業にある。
特に日本語を英語にする難しさ、曖昧性や、主語がないことが特徴。サイトトランスレーションの訓練をするとよくわかるが、日本語は文章の骨格で欠けているところが多い。
また「通訳は作曲家にはなれないが、演奏家にはなれる」と言われるが、パフォーマンスで曲の良し悪しが決まる。通訳は全人格的なものが投影され、複数の通訳者が同じ内容を通訳してもスタイルが異なり同じアウトプットにはならない。
 
転機が訪れたのは、2012年、通訳者としてのキャリアの油がのっていた時期で、渡米についてキャリアを犠牲にする事に悩んだが人生というプリズムでみてワシントン行きを決断した。その後は両立する道を模索し、国務省から就業許可を貰うことができ、ここでもう一つのキャリアである大使夫人という公務に携わることになる。
その後は裏方の通訳と表に出る大使夫人という非常に性格の異なる仕事のワークワークバランスをどうするか模索する毎日だった。
公務に通訳業務が役に立ったのは、不確実性に対応する能力、次々とくる課題を処理する能力・段取り力、失敗をひきずらない事であった。またコミニケーションの中で聞き方や聞く勘や、通訳業務で培った幅広い知識も大いに役立った。
一方デメリットは、自分が主体となって話をしない、黒子意識が表に立つ事を心理的に阻害する事である。それを克服するために、public speakingをすることに取り組んだ。その人の人格や哲学や価値観からでた生きた言葉が人の心を打つのであり、AIでは作れない、過去のデータや検索では作れないスピーチが大事である。
さらに通訳ではできない、議論に参加することも試み、議論の面白さに気付いた。
 
公務の中で通訳で培った経験が役立ち、また通訳の呪縛からも逃れられたその中で、発言して表現していくうちに、思いがけなく行動力が出てきた、これが3つ目のキャリアである信子フォーラムに繋がった。
アメリカ各界のリーダーを読んで運営企画からモデレーター役を手がけるようになったが、フォーラムを運営するにも会議通訳の経験が生きた。自分にとってはトランスフォーメーショナルな出来事であり、通訳というコンフォートゾーンを出て次のステージに進めたという事になる。
 
最後に、通訳で鍛えられたポテンシャルについていえば、一つ目は「表現する力」、それに自分の考えを加えると「発信する力」、そして「行動する力」につながる。
二つ目は個の力、組織の中で守られてこなかった強さある。組織は振る舞いの振り付けの力、個人は振り付け無しの舞をする力が必要であり、人生の中で次のチャプターを開くためにこのポテンシャルとしての個の力は重要であると話を締めくくられた。



第2部

帰国子女ではなく、大学に入ってフランス語を学んでフランスに留学したという高野氏の自らの経験をもとにした現場のビビッドな話に、聴衆はこの貴重な機会を聞き逃さないようにと聴き入っていた。

フランス語通訳の魅力

まず基礎知識としてフランス語が話されている国の説明があり、次にフランス語を学ぶことのメリットについて3点を挙げた。まず「視野が広がる事」、これについてはラテン語系の言葉に馴染みを覚えてその文化圏の見聞を広められること、そして「異なる文化やアイデンティティの多様性を尊重する姿勢に学べる事」、アフリカなどの多様性を含め相互に文化や個人のアイデンティティを尊重する姿勢、最後に「批判精神をもっている、距離を置いて考える訓練ができる事」で物事の本質を考えることに通じるという点。

さらに、通訳を通じて認識できたフランス語圏の人々の主義主張については、「自由・平等・博愛」「人権を尊重」「民主主義」をあげた上で、具体的特徴として「言われたことは批判的精神で考える 」「自分がやりたいことをまず主張する」「言いたいことはユーモアを交えていう 」「双方の主張が対立する時は話し合う」「対立意見も言い合う」「話し合って決めたことは根に持たない」の6点を説明。

ここで通訳の種類を「通訳ガイド」「通訳アテンド」「放送通訳」「商談通訳」「会議通訳」に分けて具体的な事例を挙げて説明した後で、フランス語通訳の現場の特徴としては、仕事の分野が多岐に亘ると説明。いわゆる商談や国際会議以外でも体験範囲が広い事を実際の業務事例として「農家の視察」「パン屋」「猫のコンクール」「映画祭の女優インタビュー」「絵本作家の出版関連イベント」などをあげた。またアフリカの人との接触は触発される事が多いとして、訪日したアフリカの中学の先生がエスカレーターに驚いたり、モーリタリアの方が月が見えないと日付がわからないと言ったエピソードを紹介。
  
どんな人が通訳になるのかといえば、答えは「やりたい人がやる。」これはどんな職業も同じである。最初の頃は仕事を受ける度に、失敗して今後仕事がこなくなったらどうしようと不安だったが、人間は得てして、トライした事は後悔しない、やらなかったことを後悔するもの。ただし通訳は準備が重要、ベテランでも上手な人ほど準備するもの。

どんな能力が必要かについては、何でも興味をもって楽しむこと、自分を分析して足りない部分を補填する方法を考えられる前向きな姿勢、お客様の要望に対応し時代に合わせる柔軟性継続的努力、うまくいかなかった事を忘れて次の仕事に集中する立ち直る力、始めてお会いするお客様が多いので人見知りしないこと

失敗に対しては、具体的なエピソードを交えて、場所の雰囲気に呑まれてしまった事や観衆に通訳の恩師がいて緊張した事をあげ、失敗を乗り越えるのがうまい人は失敗から教訓を引き出していること、通訳を続ける人は再チャレンジを楽しいと思うこと、人から言われた事は全て有難いと思う謙虚な姿勢が大切で、上手にストレスを発散する事を勧める。
また個人事業主として、自分のマネジメントを自分でやる事を付け加えた。

最後に長く続けるために、モンペリエ大学のトレス教授 のストレス解放の原則を紹介し、フランス語は、カバーする分野が多く好奇心が満たされるだけでなく、通訳と言う仕事は歴史を動かす場面に立ち会えることもあるという魅力をしっかり伝えてくれた。