イベント報告

2019/05/10

2019年第一回“i” translateイベント報告
非日常空間で翻訳会社と翻訳者の刺激的交流イベント
「“i” translate」開催さる

 



開催日●2019年2月13日(水) 13:00~17:00 
開催場所●イベントスペース 渋谷DAIA (東京都)
企画●“i” translate 企画委員会
主催(合同主催)●アスカコーポレーション、カセツウ・ビジネススクール、川村インターナショナル、コングレ・グローバルコミュニケーションズ、ジャック・インターナショナル、トランスパーフェクト・ジャパン、ヒューマンサイエンス、YPSインターナショナル
報告者●伊藤祥(翻訳者・ライター)

 


 

渋谷のイベントスペースで翻訳業界イベント!?

 早春の2月13日、翻訳業界に新風を吹き込む交流イベント“i” translateが初開催された。本イベントは業界のコミュニケーションを活性化し、企業と人材のマッチングの促進を目指し、翻訳会社7社と通訳翻訳者向けコンサル「カセツウ」の8社合同主催で実施された。
 「“i” translateとは、業界への愛を深めるイベントとの願いを込め名付けた」と主催者を代表し、十印 日下部優社長のスピーチで会はスタート。志は高く、遊び心を忘れず、渋谷のイベントスペースの三方がモニターのステージ上で、第一部として各社のプレゼン「プレゼンバトルロワイヤル」、第二部として参加企業の発注担当者でのディスカッション「トークバトル」、第三部として交流会と三部構成のプログラムが進行された。参加した翻訳者からは「エージェント側の主席者が若い方中心なのが印象的だった」、「業界の活気や変革の気概が伝わった」などの感想があがった。第一部の模様は動画で世界同時配信された。

各社の個性が激突、プレゼンバトルロワイヤル

~今業界がどのような翻訳者を求めているかを各社がプレゼン

アスカコーポレーション 制作部係長 リソースマネージャー 板かおり氏

薬の街大阪の道修町で創業、63%を占める医薬系の案件の中でも治験分野が多い。医学関連や製薬会社の営業資料・広報などの受注もある。2018年は英日、日英の割合が高く、日英が増加中。英語の案件中心で、翻訳者は理系が8割、文系が2割。求めるのは、最新情報の収集を怠らない人、創作ではないのでまねることが出来、質とスピードのバランスがいい人。翻訳志望者には、まずチェッカーにもチャレンジしてもらいたい。

川村インターナショナル 翻訳・制作グループ シニアマネージャ 中安裕志氏

機械翻訳活用やテクノロジを活用したプロセス自動化を翻訳の現場で推進中。IT・医療分野を中心に様々な案件を受注しており、英日、日英翻訳のみならず、アジア言語、欧州言語への展開も行う。機械翻訳およびポストエディットのプロジェクトには長年関わっており、近年では、エンジンのコーパスのメンテナンスなど機械翻訳関連のビジネスが増加していることを肌で感じる。一方で、人手の翻訳の案件もこれまでと変わらずご依頼をいただいており、予算や作業期間の関係でこれまで翻訳されてこなかった文書に向けて、機械翻訳/ポストエディットへの期待が集まっている。翻訳者とはコミュニケーションと相互のフィードバックを大切にしていきたい。

コングレ・グローバルコミュニケーションズ ランゲージサービス事業部 翻訳部 課長代理 冨田剛介氏

医学会やサミットなどの国際イベント運営でトップシェアを持つ「コングレ」が親会社。英語案件が85%。有名企業や世界的スポーツイベント等大きな仕事に携われる。ISO・GBなど国際規格の案件も多い。積極的に新規翻訳者を募集し、2018年は65名が新規登録となった。振込手数料当社負担、1ヶ月サイトと対価をきちんと早く支払う。求める人材はビジネスパーソンの自覚があり、自身の翻訳商品だという認識があり、きちんとコミュニケーションが取れる人。

ジャック・インターナショナル 代表取締役社長 上村魁氏

翻訳はIT/ハイテク/マーケティング関連の翻訳が中心。税関への通訳派遣からスタートし、対応可能言語が64言語と多い。国内外のベンチャー企業から上場会社にサービスを提供し、官公庁からの受注も多い。翻訳通訳・語学研修・海外プロモーション・国内プロモーションの4事業を通じて、海外進出支援を行っている。読みにくい翻訳文は顧客・読者にとってのコストであると考え、よりわかりやすい表現を心がけている。2018年は数多くのユニークな商品の発売にあたりPRプロジェクトとして受注した。翻訳者には翻訳力・文章力・想像力・好奇心を持つことを求めている。

十印 プロダクション本部 ベンダーマネージメント リソースマネージャー 菊地大悟氏/派遣事業部 マネージャー 内田満之氏

産業翻訳が55%を占め42言語に対応している。最近は旅行やエンタメ分野の案件が増加している。現在を翻訳2.0の時代と呼ぶならば、以前との違いは、顧客の外国語レベルの向上、機械翻訳の実用化・積極的利用、世界基準(ISO対応や、世界的には院卒の翻訳者の出現など専門知識の高まり)、基本的ITツールの知識が必須の時代となったことなどである。このため、求める人材もビジネスマインドを持ち、専門性の高い翻訳者と肩を並べる実力・向上心を持つ世界標準の人、柔軟にツール対応できる人が求められている。また、オンサイト翻訳は収入面が安定し、業界の翻訳ニーズや翻訳工程への理解が得られ、履歴上の翻訳実績が残るメリットがあるので翻訳者にチャレンジしてほしい。

トランスパーフェクト・ジャパン プロセス開発担当 福岡由仁郎氏/ベンダーマネージャー 玉置祥氏

世界90拠点の米国のマルチランゲージベンダー、日本法人はアジア太平洋地区のハブ、最大拠点を目指している。日本語の市場規模は世界で5-10位以内に入っており、市場規模のある言語である。日本語は特殊で難しいとされており、日本法人は日本語に特化し世界からの需要がある。選考・契約のあとはトレーニングを経て登録となる。採用には2年程度の翻訳経験を目安としている。特に医療翻訳の和訳、自動車・エレクトロニクスの技術翻訳の英訳をはじめ特許・マルチメディア・ゲームなど幅広い分野の人材を募集している。

ヒューマンサイエンス ランゲージソリューション部 マルチリンガルトランスレーショングループ チームマネージャー 本多秀樹氏/ローカリゼーショングループ プロジェクトマネージャー 栗原聖香氏

マニュアル翻訳の日英英日・欧州言語・アジア言語など多言語に対応し、日英ではIT・機械・マーケティング・医療など日本の大手企業から、英日ではスマホアプリやSNS企業の小冊子・ホームページなどマーケティングの外資大手企業の案件を受注している。英日はネイティブ相当または翻訳経験2年相当で、マーケティング分野経験者がのぞましい。新しいツールを活用した案件も多いので、案件を通じ翻訳者は経験値を高めていくことが可能である。日英は技術系文書、マニュアルが多くTradosが必須となる。一定以上のボリュームがある案件についてはレビューアから必ずフィードバックを返しているので、翻訳力向上に是非役立ててほしい。

壇上に全員集結トークバトル

~そこが知りたい、レートについて

 カセツウ酒井秀介氏をファシリテーターに、各社の担当者が一堂に会しての「トークバトル」は、翻訳者にとって核心のレートの話がメインの本音トークとなった。レートの決定、見直しのタイミング、翻訳者がレートアップのために用意すべき材料、エージェントのほうからレートを上げたくなるような人材について、レート交渉以外の収入アップのアイデアなどについて、突っ込んだ議論・翻訳者へのアドバイスがなされた。
 レートの決定については、「案件によって予算にあった人選を行う」、「翻訳会社の取引が初めての人には、トライアル結果と経歴、案件の予算を見てレートを提示している」、「就業可能時間や月収イメージを聞いて、しっかり相談して決める」、「初回レートは実績がないため慎重にならざるを得ないが、バックグラウンドや実績値でレートのプラスになるものがあれば考慮する」と、各社の考え方によって決め方は異なる印象を受けた。
 レートを見直すタイミングは、定期的に行う会社と不定期に行う会社に分かれ、登録後半年から1年という短期で見直す会社はあまりなく、複数年での品質スコア、案件数、クライアントの評価を加味して再考されるという。交渉の有効な材料には、資格や他社の経験実績の提示などスキルアップや経験値のアップの客観材料の添付があり、「オンサイトでは入社タイミングの交渉がすべてでその後はあまり上がりづらい」、「最初のレートが不足であれば、その時点でレートアップの交渉をした方がよい」、「オンサイト翻訳の場合、顧客からポジティブなフィードバックがあれば、それをエージェントに報告し、単価交渉の材料にするという方法もある」。しかし、一般的には翻訳者からの値上げ交渉は比較的まれで、「チェッカーへの応募や、プラスαのセールスポイントによる別サービスの提案をすることで、別レートを設定することも収入アップしやすい手かもしれない」との意見が出された。
 また、複数社から「スピードや品質、貢献度が高い人、すなわち市場価値が高いと判断されれば、エージェント側から高いレートを提案することもある。例えば、決算資料の翻訳で質量スピードに優れていた人は、1.5倍に上げたこともあるし、繁忙期は高いレートを提示することもある」、「経験が少なかったため単価が低かった人でも、専門知識が高く、言語のアウトプットもよく、客先からも好評で校正やチェックの手間がかからず自社の工数削減にもつながったので値上げをした例、別のケースではコミュニケーションがとりやすく、品質も安定していた人には値上げを提案した」、「オンサイトで客先のニーズを的確にエージェントに共有し、受注増につながる貢献をした人」とエージェント発の値上げの事例も共有された。
 翻訳の評価については、どうしても減点評価になりがちだが、意外にも(?)プラス評価をもっとしていくべきとか、翻訳者のプラスの特性を売り込んでいきたいなどの声があった。また、「リサーチが綿密にされている原稿には、レビューの調査力にプラス評価をつけることで、その翻訳者の発注増につながっている」、「一律のランク評価ではなく、翻訳者の得意・不得意を見定めて発注している」との意見も多く上がった。

翻訳者として交流会に参加して

 各社のプレゼンでは、社風や会社の重点に加え、登壇者の自己紹介で出身県・経歴・会社での役割・趣味などを聞くとぐっと共感や親近感が増した。なかでも、ジャック・インターナショナル 上村社長の「翻訳業界 最強の男(物理限定)」としてベンチプレス120キロ(!)を挙げるというエピソードには仰天。かように、顔が見え相互にオープンになり、踏み込んだ話が出来るイベントであった。翻訳会社から翻訳者に手を差し伸べたイベントであったことが印象的で、会場で会った翻訳者の友人は「普段の受発注や求人データの背景にある翻訳会社の考え方が分かり、翻訳会社が身近にというか味方に感じられた」との感想を語っていた。私も翻訳会社の翻訳者を育成しよう、真価をちゃんと評価しようという姿勢に感銘を受けた。一方、翻訳者に求めるものとして、ビジネス感覚、コミュニケーション力がこれほど強調されるとは、志望者に欠けている人が多いのか…。
 このようなイベントを通じ業界や各社の求める人材が周知されることで、マッチングの比率があがりそうなことが実感として予見された。