フィリップ・コーン博士インタビュー

2013/11/08

フィリップ・コーン博士インタビュー

(2013年10月8日、NICT主催「未来の翻訳研究に関するワークショップ」会場にて。聞き手:レイチェル・デパルマ)



―機械翻訳に関連するたくさんのプロジェクトに取り組まれていると思いますが、これらのプロジェクトの中でどれが最も刺激的だと感じていますか?
そうですね、いろいろなことが複合的に組み合わされているので、ひとつに絞るのは難しいですね。
私はいろいろなことに興味を感じる人間なんです。
大きくとらえれば機械翻訳の改良に興味があるのですが、その中でも機械翻訳がどうすればより役に立つものになるのかという点への関心がだんだんと高まってきて、その結果として翻訳支援ツール(Computer Aided Translation)をテーマとするようになりました。
 
―そこで翻訳支援ツールなんですね?
機械的に計算されたスコアばかり相手にするのではなくて、翻訳そのものに目を向ける余裕を与えてくれるよい環境を、翻訳支援ツールが提供してくれるんです。
 
―数値化された結果だけを生成することには満足できなかったということでしょうか。
もしもあなたがコンピューター科学者であるならば「スコアはどうか、どんなスコアが得られたか」だけに耳をかたむけていればいいのですが、それでは実際の翻訳とは何かが見えなくなってしまいます。
 
―なるほど、だから最初に出発した分野からだんだん興味の中心がシフトしてきた、と?
そうですね。ちなみに機械翻訳に集中して取り組む以前には、機械学習に一番興味があったんです。
機械学習は、膨大なデータを処理するためには素晴らしいアプリケーションです。これはとても難しい学習課題で、だから夢中になってしまったんです。
 
―すばらしい回答をありがとうございます。しかし、申し訳ないのですが、そのテーマについておたずねするのは私には荷が重いかもしれません(笑)質問をかえます。ちょっと哲学的な質問になるかもしれませんが、未来において機械翻訳はどのような役割を果たしていくべきものだとお考えですか?
最初からその問いに応えるのは簡単ではありませんが...
外国語を翻訳するためのGoogle翻訳のようなサービスは、間違いなく必要ですよね。
もしも外国語を自動的に翻訳できて意味が分かれば、すごく便利なはずです。
例えば外国を旅行中にレストランに入り、その店のメニューが読めないときなど、自動翻訳機があれば重宝します。
その機械翻訳が、人間の翻訳者を支援して翻訳者の生産性が上がるのに役立つのであれば、それは素晴らしいことですよね。
そこに最大の障壁があるように思われます。
人々をへだてる言葉の壁をこえてグローバル化をより進めていくには、人間による翻訳がより安価に、大量に、短時間で行えるようになればよいのですが。
 
―私が考える日本の大きな課題の一つは、多くの翻訳者がいまだに翻訳支援技術をことごとく機械翻訳と同じように「敵」ととらえていることです。多くの翻訳者はテクノロジーを自分への脅威と感じており、ツールの使用に対して消極的です。ですので、とりわけ英語-日本語間について、多くの翻訳者や翻訳会社がツールの採用に踏み切るきっかけとなるような前向きの研究成果が得られることを願っています。
日英・英日翻訳は、間違いなく難しい言語の組み合わせの一つであり、ヨーロッパ言語間の組み合わせ(言語ペア)と比べると、その機械翻訳品質は劣ってしまいます。
翻訳支援ツールに対して翻訳者が脅威を感じる理由については、私にはわかりません。翻訳支援ツールと機械翻訳は別のツールです。
ツールとして有効であれば(翻訳者にとっても)役立つはずですし、不便なツールであれば役立たない、それだけのことだと思います。
 
―プロジェクトマネージャーの話を聞いていると、翻訳対象分野の専門知識があるというだけでなく、いろいろなツールに抵抗なく対応できる翻訳者をみつけるのがとても難しい状況です。とても興味深い分野なのに、残念なことだと思います。

すでに技術はあり、その技術を利用する手段も用意されていると思います。


(この続きは12月13日に公開予定です)
 
 

 

Mosesプロジェクト


フィリップ・コーン博士はオープンソースの統計機械翻訳エンジンMosesの開発者として機械翻訳の世界では広く名前を知られている。Mosesを使うとあらゆる言語の組み合わせに関して統計機械翻訳を行うことができる。Mosesの特徴のひとつとして、ソフトウェアを公開するだけでなくソフトウェアの背景にある処理についての詳しい解説が提供されている点を挙げることができる。詳しい解説を読みながらソースコードを調べ、実際に処理を行ってみることによって、初心者でも統計機械翻訳を学習できる。
コーン博士が執筆したこの分野の代表的なテキスト「Statistical Machine Translation」と併せて、コーン博士の学問における姿勢が感じられるソフトウェア開発プロジェクトである。

 
Mosesのホームページ:
http://www.statmt.org/moses/