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英国リーズ大学大学院における翻訳者養成●トニー・ハートレー

2014/11/07

英国リーズ大学大学院における翻訳者養成

 

 

トニー・ハートレー (Tony Hartley)


現在、東京外国語大学で翻訳テクノロジーと会議通訳を教えている。大学で翻訳通訳学を学んだのち、通訳として活動するかたわら、フランス及び英国の大学で教える。 1990年度のルノードー賞受賞作家ジャン・コロンビエの翻訳も行う。その後、機械翻訳(MT)研究と応用との関連で、認知科学の修士号を取得。2001年から2010年までは、英国リーズ大学大学院翻訳研究所所長。この間、欧州全域の高等教育機関及び関連企業と協力して翻訳研究と教育を進めた。仏リール第三大学、豪連邦科学産業研究機構、加ケベック州ラヴァル大学、日本の情報通信研究機構、立教大学、東京大学各客員。日欧との共同研究として、機械翻訳及び共同翻訳に対する計算機支援等を進め、関連の主要学会で研究成果を発表している。授業においては、現実の課題を利用し、学習に対する問題志向かつ共同的アプローチを重視している。

Currently I teach translation technologies and conference interpreting at Tokyo University of Foreign Studies. My initial training was in translation and interpreting and I worked extensively as an interpreter while teaching in universities in France and UK. I also translated a novel by Jean Colombier, winner of the 1990 Renaudot prize. Along the way to Japan I added a qualification in Cognitive Science to consolidate my research and applied interests in machine translation (MT). From 2001 to 2010 I was Director of the graduate Centre for Translation Studies, University of Leeds, UK, working in partnership with academic and industrial groups throughout Europe. I’ve held visiting positions in Lille, Sydney, Quebec and, in Japan, NICT, Rikkyo and Todai. My research with colleagues in Japan and Europe focuses on MT and computer support for collaborative translation, with joint publications at the leading venues in the field. In class, I try to promote a problem-based, collaborative approach to learning prompted by authentic tasks.

 

 リーズ大学翻訳研究所は2001年に設立され、私が所長を務めました。当時、実務翻訳を教える「応用翻訳」の修士課程がありましたが、研究所設置後10年で、「会議通訳」「オーディオビジュアル翻訳」「英国手話通訳」が加わり、専任教員は2名から9名に、非常勤教員は9名から22名に、対応言語は独・西・仏・伊・日・葡・露・中の8カ国語に亜・英国手話・希・波が加わりました。ただし、扱う言語は定期的に見直され、変わることがありますので、最新の情報はウェブサイトでご確認ください。学生数は35人から110人になりました。助成金収入も約100万ポンドに増え、経営面でも成功しています。
 以下では、「応用翻訳」コースについて少し詳しくお話しします。コースは1年のプログラムとなっています。
コースのビジョンとして、翻訳力に加え、「反省的」な力、すなわち、自分が何をどのように行っているか、どうしてそうしているか明確に説明できる力を育成することを重視しています。翻訳の力としては、理論に加え、実践面ではプロジェクト管理や用語管理も取り入れているほか、翻訳支援ツールの導入にも力を入れました。その際も、ただツールを使うことではなく、ツールを利用するかどうか判断できる力の養成を重視しています。
 表2は、コースのモジュールを欧州単位互換制度の単位(European Credit Transfer System; ECTS。概ね25~30時間の学習で1単位となる)とともに示したものです。ローカリゼーション、プロジェクト管理、用語管理を含むコンピュータ支援翻訳(CAT)を重視しています。翻訳実習は1万語の長文翻訳を加えて合計で30単位です。さらに複数の選択単位を選ぶ必要があり、追加実習も選択肢となっています。
 これだけ多くのモジュールに全体として一貫性を持たせるために、品質とその評価を、モジュールを横断するテーマとして重視しています。品質評価という観点は、どのような選択肢の中から何を根拠にどの方針を選択するかに関わるもので、翻訳だけではなく、技術的な選択やプロジェクトの実施においても重要です。
 例えば、言語のレベルでは、可能な表現の範囲を明確に意識した上で、採用する表現を決めることが重要です。ある学生が別の学生の翻訳を評価し修正するときには、その理由をはっきり説明できなくてはなりません。技術的なレベルでは、ただツールを使えるというのではなく、どのような条件でどのようなツールを選ぶか判断できる必要があります。そのような視点を養うために、リーズでは5つの翻訳メモリ・システムを使えるようになっています。実務レベルでは、翻訳案件を受注するかどうか、営利的・倫理的観点から意思決定できることが重要です。

 リーズ大学のプログラムは、欧州翻訳修士課程(European Masters in Translation:EMT)ネットワークの基準を満たしています。その基準は、ISOおよびその元となったEN15038の要件にとても近いものですが、さらに、品質管理、顧客との関係、サービスの手続き、翻訳過程についての基準が設定されています。
 コースの運営にあたっては、様々な機関との協力関係を重視しています。他の大学との協力に加え、日本のJTFに相当する英独の翻訳専門組織である英国翻訳通訳協会(Institute of Translation and Interpreting; ITI)とドイツ連邦翻訳者通訳者協会(Bundesverband der Dolmetscher und Übersetzer; BDÜ)、さらに複数の翻訳企業と協力し、様々なプロジェクトを遂行して、教材や教育環境を構築しています。これについては、リーズ大学翻訳研究所のウェブサイトを参照してください。

 適切な翻訳者養成コースは、学生にとっても魅力的です。そうしたコースで、産業と大学が協力できれば、大学として学問的に魅力をもつと同時に、産業の観点からも有効なコースを実現することができます。協力関係の構築がとても大切なものとなります。

*表2 リーズ大学「応用翻訳」修士プログラムの構成
 モジュール  ECTS
 必修  必修 翻訳の方法と翻訳論  15
 CAT(L10N・プロジェクト管理・チームワーク)  22.5
 専門翻訳(4分野・いくつかのテキストタイプ)  15
 長文翻訳(1万語)または論文  15
 選択  選択 専門翻訳・追加言語  3×7.5
  =
 22.5
 機械翻訳の原理と応用(RBMT・SMT・評価)
 翻訳者のためのコーパス言語学(コーパス構築・用語抽出)
 テクニカルライティング(制限言語・情報デザイン)
 AV翻訳入門
 通訳技術入門
 その他のオプション・・・