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日本の大学・大学院における翻訳(通訳)者養成の展望●武田 珂代子

2014/11/07

日本の大学・大学院における翻訳(通訳)者養成の展望



 

武田 珂代子(たけだ かよこ)

立教大学異文化コミュニケーション学部・大学院異文化コミュニケーション研究科教授。会議・法務通訳者、翻訳者。日本通訳翻訳学会副会長。国際学術誌 Interpreting および International Journal of Legal Translation and Court Interpreting  の編集顧問。2011年までモントレー国際大学 (MIIS) 翻訳通訳大学院日本語科主任。米国時代に外務省、カナダ政府の通訳者養成、通訳資格試験に従事。元カリフォルニア州認定法廷通訳者、全米翻訳者協会認定翻訳者。MIISで翻訳通訳修士号、ロビラ・イ・ビルジリ大学(スペイン)で翻通訳・異文化間研究博士号を取得。
 

 大学・大学院の翻訳教育はほとんど通訳教育と一緒になっており、以下の話の多くは両方にあてはまります。最初に、私が長年教えていたモントレー国際大学翻訳通訳大学院(MIIS)の例を紹介します。MIISの修士号には、翻訳、翻訳と通訳、会議通訳、翻訳とローカリゼーション管理、の4種類があり、英語を軸として、中・仏・独・日・韓・露・西に対応しています。入学のときに自分のA/B/C言語を宣言します。教える側も目標言語がA言語であることが求められます。A言語は日本語、B言語は英語の私は、英日翻訳・通訳を教えていました。
 モントレーは大学院のコースです。私自身、日本の状況は異なり、民間の翻訳学校で学んだり翻訳者のもとで修行してすばらしい翻訳者が生まれてきたことは認識していますが、最近は、大学院で翻訳者の養成を行うことが好ましいと考えています。
 まず、選抜された学生を対象に体系的カリキュラムを組むことができます。研究と教育が直結する点もメリットです。また、世界的にみると大学院での翻訳者・通訳者養成が標準なので、各国の教育機関と協力関係を樹立することができます。民間の学校と大学院の協力は制度的に困難です。翻訳・通訳の社会的認知向上にも繋がります。さらに、国際的に活動する場合、翻訳・通訳関係の修士号を持っていないと就労ビザが下りないという問題もあります。
 ちなみに、ISOの資格要件では、学士と修士を区別せずに学位といっているようですが、これは問題です。また、学位名に「翻訳」が入ってさえいればよいのか、入っていなくてはだめなのかという点もきちんと考える必要がある点です。

 日本の大学では、現在、翻訳・通訳関係の科目を提供しようとするケースが増えています。文学などでは学生をなかなか惹きつけられないため、よりコミュニケーション志向で実践的なものをという背景があると思いますが、ISOは意識していないと思われます。

 2011年に立教大学に来てから、教育面では、翻訳テクノロジーの利点と問題点、評価方法などを扱う「翻訳テクノロジー論」、通訳・翻訳教育の方法論を扱う「通訳翻訳教育論」、ゲスト講師を招いて翻訳・通訳の実情を話してもらう「翻訳通訳と現代社会」といった科目を新設しました。また、海外の大学と共同でオンライン・ワークショップを行なっています。
 大学院では、研究や理論を教えています。博士課程の学生は全員が実務家で、理論を学び、自分たちの行為を体系的に分析し言葉にするとともに、のちのち大学で教えるための学位を取りたいという人もいます。韓国の翻訳・通訳に関する名門大学院を出て、理論・研究を立教で学び博士号を取りたいという人もいます。
 研究としては、2011年度から13年度まで「翻訳『革命』期の翻訳者養成」というプロジェクトを行い、さらに、2014年度から2016年度の予定で「翻訳通訳リテラシー教育の確立」という、専門職教育ではなく、翻訳通訳の実践に対する適切な理解と対応ができるような教育を学部生向けに考えるプロジェクトを行なっています。

 日本で翻訳通訳学部や大学院を作る場合、いくつかの課題があります。手続き面では、新学部設置に関する文科省の認可を得るのが大変です。実質面で最大の問題は、教員の確保です。優れた先生や翻訳者、通訳者の方はいますが、学位、教歴、論文などの基準が問題となります。中国では、翻訳・通訳の修士号を国家認定学位とし、150以上の大学に修士課程を作りましたが、教えられる教員がいないことが問題になっています。
 今やるべきこと、検討すべきことは、いくつか考えられます。
 第一に、指導者の養成です。私自身、現在、立教における自分の任務は、回り道だとしても、翻訳・通訳に関する指導者・研究者の養成にあると考えています。また、大学で柔軟な雇用を実現することが重要です。第一線の翻訳者や通訳者が、論文がないとか修士や博士の学位がないといった理由で非常勤でも教えられない状況を変える必要があります。海外の大学では、この点について柔軟な考えを採用しているところがあります。
 大学の体制に目を向けるならば、コンソーシアム的大学プログラムも検討に値します。複数の大学が共同で学位相当の認定書を出すといったことも考えられるでしょう。認定試験もコンソーシアム的に、複数の大学が関与して認定試験を作ることが考えられます。
 さらに、民間の翻訳・通訳学校には、今まで蓄積してきたノウハウや重要な実践があるので、連携や協力関係を作ることが望ましいと考えています。