質疑・ディスカッション

2014/11/07

質疑・ディスカッション



●ISO規格の位置づけについて。そもそもISOという基本的に工業分野の規格で扱われること、翻訳の学位があれば専門分野の知識や実務経験がなくてもよいという点は、問題ではないでしょうか。

●リーズ大学の翻訳コースに入学した人のうち単位を取得して卒業する割合は?

ハートレー: 入学の基準を非常に厳しく設定していますので、90パーセント以上の学生が単位を取得して卒業します。推薦状を丁寧にチェックするほか、入学試験があるので、そこで厳しく入学者を選別しています。入学後のサポートも細かく行なっているので、ドロップアウトする人は年間で1人か2人くらいです。

●質問ではありませんが、規格を受けて、民間の翻訳学校という立場から何ができるのかを考えなくてはならないと思いました。

●大学教育の立場からはご意見がいただけましたが、産業の立場から何ができるか、例えばJTFがどのように関われば、よい形で前進できるのでしょうか。

影浦 大学側から見たとき、現状の展開として翻訳大学院ができても、レベルコントロールができずに形骸化する恐れがあります。大学では教員も学生も、翻訳というと出版翻訳、特に文学翻訳のイメージが強いので、産業翻訳の領域に対する理解を促すことはとても大切な課題となっています。一方で、きちんと教育を行うことは、日本の翻訳産業2000億円全体のクオリティコントロールとも繋がる、重要な課題だと思います。

武田 具体的な協力関係としては、インターンなどをとっていただけると、大変すばらしいと思います。学生にとって現場が見えることはとても大事なことです。先ほど専門知識の話が出ましたが、MIISの例で言うと、大学院で翻訳を教える場合、学部で様々な分野を学んだ人が来ます。そうした人が、夏の間3カ月、有給でインターンに行く仕組みができあがっています。日本でもそれができるととてもよいと思います。

ハートレー英国ではITIが実務翻訳者による学生指導の仲介をすることがあり、ITIの会員となっている大学もあります。日本でも、大学の翻訳者養成コースが成功するためには、JTFといった組織との連携は重要で、本日のセミナーはその一歩だと思います。

●日本の翻訳者で食べていける人はほとんどが技術翻訳者だという点を考えると、企業の協力を受けて技術的な知識を学べる仕組みがないと難しいと思います。英国で特に技術翻訳について企業との協力例はありますか。

ハートレー リーズでも他の大学でも、技術翻訳を実務翻訳者が教えています。通常、そうした翻訳者はITIのメンバーで、多くの場合、教え方も上手です。また、翻訳支援ツールや関連ソフトウェアのベンダーと大学は良好な関係にあり、多くのベンダーから教育用に無償で使用ライセンスを得ています。

影浦 大学における教員の柔軟な雇用と、企業やJTFとの協力関係は鍵ですね。今のままだと、そうした協力なしに大学側で翻訳教育コースを作ってしまう恐れがあります。

●大学や大学院で教えるとして、どこまで教えるのか、どのレベルをもって何が身についたと考えるのかは重要な問題です。リーズ大学の「長文翻訳」で1万ワード程度だと、体験してみましたという程度です。

武田 2年で誰もがトップレベルになれるわけないのですが、現実にMIISは就職率が100パーセントです。エントリーレベルとして受け入れられる基準に達しているのだと思います。もう一つ、学生のほとんどは社内翻訳、組織内での翻訳や通訳を希望しています。
MIISの「翻訳とローカリゼーション管理」の卒業生は企業で翻訳プロジェクトの管理者になります。

●もちろん入口に立てるかどうかという話なわけですが、ISOの規定を日本の状況で考えるとフリーランスでないと話が合わないように思います。そうすると、修士卒の資格もフリーランスとしてやっていけるレベルと考えざるを得ず、困難だと思います。

ハートレー 1年や2年のコースで育成しているのは熟練した翻訳者ではなく、信頼できる新人です。翻訳という仕事を理解しており、新しい技術にも対応できるので、卒業生の就職率はとても高いです。専門分野の知識については、実務翻訳の場で、自分が学んだ専門とは別の分野の翻訳が必要になることもありますから、必要に応じて専門分野に対応する調査力が大切ではないかと思っています。

影浦 日本の翻訳産業構造で考えなくてはならないフリーランス翻訳者と大学での教育との関係はきちんと考える必要がありますが、今回、キックオフとして、ISOに形だけ対応するのではなく、実質を伴う形で翻訳産業も大学も適切に対応するためにどうすればよいか、問題提起はできたと思います。今後、継続的に、大学、産業、専門学校を含めて具体的な翻訳者養成をどうするか、考えていくことができれば幸いです。