韓国における翻訳教育事情●吉英淑

2014/11/07

における翻訳教育事情

吉 英淑ギル ヨンスク
ソウル外国語大学院大学校・通訳翻訳大学院・韓日通訳翻訳学科 主任教授


【略歴】
‐ソウル外国語大学院大学校 ・韓日通訳翻訳学科 主任教授
‐「韓国日本学会」傘下「日本語通訳翻訳学会」副会長
‐韓国外国語大学校・通翻訳大学院 修士・博士課程修了
‐首脳通訳を含む国際会議通訳・同時通訳 700回以上。
 
【翻訳書・著書】
■ 『なんせんちょうむ』小川裕司 著、NNA Global Communities
■ 『なんせんちょうむ(2)』小川裕司 著
■ 『なんせんちょうむ(3)まだまだ驚きの韓国初体験』小川裕司 著
■ 『本質を見抜く「考え方」』中西輝政 著、21世紀ブックス
 
■ 『新 日本語能力試験 聴解 この一冊でOK!』 共著、東洋ブックス
 



 大韓出版文化協会によると、2013年、韓国の出版物に占める翻訳書の割合は21.6%(9,301点)にのぼっており、日本(3,368点)と米国(2,811点)の書籍がその6割以上を占めている。日本や欧米など先進諸国と比べて翻訳書の割合が非常に高く、英語という世界で通用する言語を上回る数の日本書の翻訳が行われているのである。これだけ見ても、韓国社会は日本語を含む日本文化や日本の産業技術などと切っても切れない関係にあり、多大な影響を受けていることが分かる。このように翻訳書の出版が一般化しているためか、翻訳・翻訳者に対する関心は社会的に根強いものがある。

 最近、こうした現状を反映するように、学部レベルで通訳·翻訳コースを設置するところが増えているが、言葉を身につけることで精一杯の状況であり、真の意味での通訳・翻訳教育は困難な現状にある。
 よって、韓国における踏み込んだ通訳·翻訳教育は、主に通訳・翻訳大学院を中心に行われているといっても過言ではない。韓国には、韓国外国語大学、ソウル外国語大学院大学、梨花女子大学などをはじめ、専門の通訳·翻訳コースを設置・運営している大学院が全国各地に合計7校ある。
 翻訳教育については、梨大通訳·翻訳大学院が、当初から翻訳学科を別途設置し、韓国文学を世界へ広く発信する目的で設立された「韓国文学翻訳院」と連携することで、文学に特化した翻訳教育に焦点を当てている。
 一方、老舗の韓国外大と成長の勢いを増しているソウル外大は、ほぼ同じような方式を採用しており、1~2学期には幅広い分野を網羅する授業が、3~4学期には産業経済翻訳と技術翻訳、政治・法律翻訳とメディア翻訳に分けて専門的な内容の授業がそれぞれ実施されている。
 教材については、フリーランスとして翻訳の仕事をしている各講師が翻訳依頼を受けたテキストを使用することが一般的であり、専門的な文書(使用説明書、広告、条文、論文など)のほか、新聞記事やコラム、小説・エッセイなど文学作品も取り上げられている。このところの韓流ブームの影響から翻訳ニーズの高いドラマや映画の台本などと合わせて、冒頭で述べたように、出版翻訳に占める日本書の割合の高さから、できるだけ出版翻訳を教育課程に取り込むために知恵を絞っている。
 授業の進め方については、各講師により多少異なる場合があるが、学生たちから事前に提出してもらった課題の評価と講師からのアドバイス、学生によるディスカッションなどを通じて、より良い解決策を見つけていく形の授業が一般的である。
 
 ところで、最近注目すべき取り組みが行われている。専ら実務中心となっていた通訳·翻訳大学院修士課程に、一部ではあるものの、翻訳理論が導入されつつあるということである。その結果、顧客の期待、ないしニーズを事前に綿密に把握し、オーダーメード型の翻訳を目指すための手段として、「翻訳ノート」の重要性が浮上している。充実したノートの作成には、顧客とのコミュニケーションが欠かせない。こうしたことから、「翻訳ノート」の書き方を含め、受注から実際の翻訳作業、学生同士の評価、講師による評価など、ダブル・トリプルチェックを行う全体プロセスの中で問題をめぐって徹底的に議論するという、実務と理論が組み合わせられた授業も登場し、翻訳教育の新しい地平を開いている。
 せっかく芽生えてきたこうした取り組みが、一部だけに留まらず、より拡大していくように、講師会など話し合いの場を通じて情報を共有し、さらなる議論と工夫を行って現場のニーズに応えるオーダーメード型の翻訳教育に向けた取り組みがようやく韓国でも動き始めている。