翻訳を愛せる仕事へ●齊藤 貴昭

2015/05/08

翻訳を愛せる仕事へ



                                                                                                                                                                                                編集委員 齊藤 貴昭

「翻訳横丁の表通り」
コラムオーナー

 


翻訳を翻訳会社の中から見るようになって以来、翻訳業界の将来を考えると「キーとなるのは翻訳会社だ」という想いを強くしています。その理由は、翻訳会社がもっとも多くの顧客と接触する機会を持つからです。
 
翻訳価値の一般認識の是正と創造
 
我々が取り扱う商品「翻訳」の価値を決めるのはお客様です。しかし、翻訳物の使用者である最終読者が翻訳の購買者(顧客)であるケースは、比較的少ないのが現状ではないでしょうか。つまり、最終読者が必要とする翻訳とは何かを意識せずに発注する顧客が、相当数市場には存在する事になります。「翻訳は言葉の置換」「機械でも翻訳できるもの」「故にコストは掛からないはず」といった誤解を、「翻訳を熟知したプロである翻訳会社」が正しい理解と認識のもとに、顧客へ適切なアドバイスやコンサルティングをし、あるべき翻訳価値の理解に繋がるように誘導する立場にあると思います。
 
翻訳に対する一般的認識が垣間見える最も分かり易い例が、機械翻訳システムにより多言語化されているホームページです。導入側はおそらく翻訳の素人で、自らが情報正確性の担保を放棄したメッセージを出すようなシステムにも関わらず導入しており、また、翻訳会社は自らの専門性を放棄して、需要側のニーズに迎合している例だと思います。
 
良き翻訳会社を育てるのは翻訳者
 
市場にある無数の翻訳会社を見て、翻訳の理想的な未来へ導いてくれる企業か否かを評価できるのは翻訳者だと思います。翻訳という仕事を通して、その企業の姿勢や考え方、哲学というものが透けて見えてくるものです。相互に助言をして高め合うという姿勢が大切だと思います。その上で、相応しくないものは排除していくという思い切りも必要となるでしょう。
 
だからこそ、業界を牽引できる強い業界団体が必要
 
そんな翻訳会社や翻訳者を含め、翻訳業界全体を啓蒙していくのは、法人会員を多く抱える日本翻訳連盟のような業界団体であり、その活動がとても重要になってきます。翻訳業界の明るい将来を考えたビジョンを示し、翻訳に携わる翻訳会社や翻訳者へ向けた指針やガイドラインを示して業界を牽引していく。そんな役割を果たしてくれることを期待してやみません。そして、この日本翻訳ジャーナルは、そういった業界への重要な情報発信インフラとして位置付けられることでしょう。