6-1 円滑な審査と権利行使を実現する英文明細書作成における特許翻訳者の役割

2014/01/10

藤岡隆浩

藤岡国際特許事務所 所長弁理士

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報告者●木村和美(IP・Pro株式会社)

 



特許実務は戦いである。戦の勝敗は戦う前に決しているのと同様に、特許は英文明細書で勝敗が決している。その英文明細書の作成において重要な役割を担っている特許翻訳者に対するアドバイスとメッセージである。

特許翻訳、出願の現場における実情と問題

弁理士と特許翻訳者とのコミュニケーション不足

特にフリーランス翻訳者の場合、翻訳に対するフィードバックがほとんど無い。また中間処理に関与することが無く、特許法、審査過程、特許実務などを理解する機会が無い。そのため、弁理士の修正負担につながる。

日本の弁理士の語学力の問題

英文明細書のチェック者である弁理士は必ずしも英語力に長けているわけではない。実務上は、特許翻訳者によって完成度の高い英文明細書を作成することが円滑な権利取得のキーとなる。

発明者による英文明細書の確認(署名)

発明者が出願英文明細書に関する宣誓書に署名すると、修正を加えることができない建前となっており、その後は現地代理人による確認・修正なく出願される。

これらの問題が、記載不備、明確性違反など、本来不要な拒絶通知の発行とその対応費用発生(増加)につながる。
したがって特許翻訳者に期待されることは、特許法、特許審査、特許実務などを理解することにより、記載不備を回避できる適切な翻訳をすることである。

特許翻訳者が利用可能なフィードバックと審査過程の閲覧方法(一例)

各国特許庁の公開公報を利用・閲覧すれば、翻訳者自身の翻訳がどのように修正され、出願されたのかを知ることができる(ただし、出願明細書の公開は優先日から18ヶ月後以降)。
また、審査過程で拒絶理由通知を閲覧することにより、記載不備や明確性違反などの拒絶が翻訳に起因するものであるかどうかを知ることができる。

閲覧方法 英日翻訳の場合の例:

IPDL(特許電子図書館)を利用
キーワードから公開された明細書を検索。
番号などから出願の経過情報を検索。

閲覧方法 日英翻訳の場合の例:

1.IPDLを利用し、キーワードなどで日本語の出願番号を特定。
2.espacenet(欧州特許庁)で、米国特許出願番号を特定。
3.Public PAIR(米国特許庁)にアクセスし、英文明細書や拒絶理由通知を検索する。

特許審査:特許翻訳者が知っておくべきこと

  • 審査官は英語のノンネイティブが多い。
    →従って、簡単で誰が読んでも分かりやすい表現を心掛ける必要がある。
  • 審査官は、まずクレームを読み、図面を使って発明を理解する。実施例は、用語や内容の確認のために利用している。
    →そのため、クレーム記載事項が図にないと拒絶対象になりうる。用語の揺れが無いようにする。
  • 特許審査は明確なルール(米国の場合はManual of PATENT EXAMINING PROCEDURE (MPEP))に基づいて行われる。

日本からの米国出願の主な拒絶事項は、記載の不明確性(米国特許法第112条)であり、これは適切な翻訳によって回避できる。一方、権利行使の観点からは、機能的クレーム(ミーンズ/ステッププラスファンクションクレーム:米国特許法第112条第6パラグラフ)と認定されないようなクレーム作成に心がける。

円滑な特許審査のために:特許翻訳者が注意すべきこと(具体的な表現について)

  • クレームにおいてmeans for ~ / step for ~ing といった機能表現を避ける。
  • 同様に xx unit for ~ing も避けた方がよい。
  • 実施例で必須事項(essential、critical)という表現は使用しない。
  • クレーム中の構成要素の説明において、さらに新たな構成要素を含めない(inferential claiming)。
  • 背景技術の記載では、先行技術文献の記載通りに正確に翻訳する(偽証(不公正行為)の認定になるような誤訳をしない)。
  • PCTは忠実に翻訳し、技術的な誤りは補正で対応すること(最初から誤りを正して翻訳すると、審査官によって適切に承認された補正と判断されず、訴訟で争点となる)。


以上のように、特許翻訳者が翻訳のフィードバックや、特許審査などの特許実務に関する知識を得て、さらに特許翻訳者と特許事務所がコミュニケーションを円滑すれば、翻訳の品質も向上するし、特許翻訳者もさらに良い仕事を獲得できる。そして、仕事の楽しさを実感できるだろう。

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