三宅理恵のMultiLingual紹介vol.1

2015/05/08

三宅理恵のMultiLingual紹介

 

株式会社翻訳センター

三宅理恵

 
<今後の当コラムについて>
 
毎号、皆様に「MultiLingualの記事の紹介」と題して、MultiLingualの各号から記事をピックアップしてお伝えしておりますが、一号ずつでは、MultiLingualの発行のスピードに追い付きません(皆様もお気づきのとおりです)。
そこで、河野編集長のアイディアで、毎回、MultiLingual2~3号の中から印象的な記事をご紹介していくスタイルに変更することになりました。
全ての号のご紹介ができないことから、タイトルも、「MultiLingualの記事の紹介」から、「三宅理恵のMultiLingual紹介」とさせていただきます(こちらも編集長のアイディアです)。
ご紹介のスタイルが少々変わってしまうことになりますが、より内容の濃い充実したご紹介ができるように努めます。
今後とも、MultiLingual誌をどうぞよろしくお願い致します。
 
 

 
 
<ピックアップ記事>
 
(MultiLingual2015年1/2月号の記事より)
クラウドの可能性がバイヤーの期待を高める
(Cloud capabilities raise buyer expectations)
- Semir Mehadžić
 
「クラウドが私たちの生活を変えている。」という書き出しで始まる記事は、前号でも特集した翻訳技術について、少し前の翻訳のあり方はどうだったのか、どのように変化しているのか、変化せざるをえないか。そういったことが、バイヤーにとってどう思えるかという視点から書かれている。立場としては翻訳技術の提供側だが、非常にバイヤー目線である。筆者は、もとは翻訳で修士号を取得した方であるためか、英語の読みやすさと内容の明快さ、話の流れのつかみやすさで、圧倒的に気持ちをつかんでしまう。
 
顧客にとっての翻訳技術のこれまで
 ソフトウェアのライセンス数を増やすことで翻訳技術にかかる費用も天井知らず。
★デスクトプまたはサーバベースの翻訳管理システムとツール・・・クライアント企業よりも翻訳会社に適していた。
★何より伝統的なサーバーインフラは高価だった!
 (サーバは、設備、ハードウェア、ソフトウェア、人員、そしてメンテナンスを必要とする。)
 
◎翻訳産業における情報の非対称性
クライアントは、誰がいくらで翻訳をしていて、今プロジェクトがどの段階まで進んでいるかが全く分からなかった。さらに、ファイル交換、メール、言語資源のアップデートや、対訳のメンテナンスが絶え間なく行われている。
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◎クラウドの登場。
筆者の会社は、Translation Frameworkを提供。翻訳プロセスをクライアントが完全に社内で作成できるようにするプロセスをとった。
外部の翻訳者に、会社の言語資源の与えて管理させずに仕事を頼むことを可能に。→翻訳の注文と管理のための閉じられた翻訳システム。
翻訳者も同時にシステム内で作業することができるというもの。
 
・翻訳管理システム
・翻訳支援ツール(CATツール)
・用語ツール(terminologyツール)
を含む。制作会社(manufacturing companies)のためにデザインされ、翻訳企業のためではない。
 
筆者らのツールの利用による顧客の行動の変化
・使用前の顧客の状態
 社内で翻訳を依頼する際のみ使用。
 
もともと翻訳システムは全く必要なく、翻訳サービスだけでよいと言うクライアントが多く、プロセスに参加することに全く関心なし。
 これらの企業を取り込むべく、ツールの無料版を作成。無料版でも、基本的な翻訳管理機能が含まれる。
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・使用を始めてからの顧客の行動
 ツールの機能に次第に気が付き、2~3の翻訳管理機能を極めて定期的に使用するように。
主な使用例:
・企業特有の用語および文、またはアーカイブ内の古いプロジェクトの検索
・翻訳プロセスの確認(透明性向上!)
 誰が翻訳をしているのか、費用構造(cost structure)や、翻訳者のプロフィール、参考資料等の閲覧。
・外国からのスタッフやパートナーを翻訳プロセスに含むことか可能に。→彼らに、国内で翻訳されたコンテンツのレビューを、完全にシステム内で行うように依頼することも可能。
                ↓
 翻訳技術が企業により身近になり、顧客がユーザとなっていった。
 
★多くの顧客は、実際に毎日の仕事で使用するまで、役立つ機能や翻訳システムがあることに気付かない。使用してみてはじめて、翻訳技術の恩恵が、顧客の生産性に結びついてくる。
★クラウドベースの翻訳システムは、容易に、顧客が翻訳ツールに期待するものを超えるユーザエクスピレンスを生成する。シンプルで機能的なので、顧客は自然に翻訳技術を採択できるようになる。
 
さらに進んだクラウドの活用
 
・翻訳のジョブを直接フリーランス翻訳者に依頼・送信。
 直接依頼をすることで、かろうじて翻訳プロセスのスピードを上げ、質の良い翻訳者を見つけ、翻訳のコストを下げることができる。
◎顧客に対して、彼らが利用可能な時間または予算によって、個々のプロジェクトのための適切な費用便益比率(cost/benefit ratio)を選択することができる力を与える。(顧客は、どのフリーランス翻訳者が彼らのコンテンツを以前翻訳したかを見ることができるので、システム内でそれらのフリーランス翻訳者を見つけて、直接コンタクトし、後で直接対価を支払うだけでよい。一部の顧客は、好ましい翻訳者をシステムに登録するよう誘導し始めている。 直接外注するというオプションは、少なくともより小規模なプロジェクトや最も一般的なファイル書式を使用する場合には、膨大なリソースの節約になる。)
★直接外注するという機能は、すべての関係者の利益に:顧客は、小規模な翻訳をより早く、より低コストで得ることができ、腕のよいフリーランス翻訳者は、この特典について何もお金を払うことなく、安定したクライアント(trusted client)から仕事を受けることができる。
 
顧客の翻訳ビジネスへの新しいアプローチ
・クラウドを活用した翻訳のワークフローでは、顧客の情報が漏れることがない(翻訳メモリまたは用語集は、認証されていないユーザには、システムからエクスポートできない)→言い換えればセキュリティ面でのメリットがあるということでは。
・翻訳プロジェクトのすべてがリアルタイムになされるとともに、顧客がモニタすることが可能。(協働作業をしている翻訳者は、他の翻訳者がシステムに関与した、翻訳セグメントまたは用語集を即座に再利用(リユース)することができる)。
・Translation Frameworkでは、すべての翻訳プロバイダー(内部翻訳者、フリーランス翻訳者またはエージェンシー)*1が、登録をし、ジョブを受けとり、翻訳ツールを無料で使用することができる。
◎クラウドの活用は、翻訳ビジネスのための新しいアプローチをもたらすものである。
 
・筆者の企業が実施した、Translation Frameworkを使用している企業への調査結果。(2014年9月にText Unitedのウェブサイトで公表)
 どの顧客が以下の特徴(feature)を使用するか:
・システムおよび翻訳ツールを、内部で翻訳するために使用
・翻訳を、フリーランス翻訳者に直接送信
・翻訳を、Text Unitedまたはそのパートナーエージェンシーに送信
・翻訳を、海外のスタッフに、在留国内でシステム内でレビューをするよう送信
・中央の翻訳メモリサーバを使用
・中央の用語集レポジトリの使用
 
 これらの結果が教えてくれることは何か?
・多くの企業が、すでに「フリーランス翻訳者への外注」機能を採択。
・企業の大部分は、いまだに、翻訳エージェンシー(translation agencies)のサービスを利用している。(一方で、より多くの企業が、内部の翻訳のキャパシティ(internal translation capacities)を強化していることも注意すべき)
・1つの企業は、翻訳プロセスを完全に社内化し、外部の翻訳リソースを完全に排除。(ユニークな製品と用語集を有していて、社外の誰も、適切な翻訳をすることができなかったため)
・企業により様々な異なる方法でシステム使用。各々の会社が翻訳のニーズに適合するための独自の組み合わせを作成している。
 
★中央集権化されたクラウド翻訳システム(centralized cloud translation system)が、以前は持ちえなかった独立性を企業に与えた。
 
筆者のまとめの言葉
・翻訳関連の活動におけるcustomer experienceは、翻訳のバイヤーを満足させ続けるために、現在よりもずっとよくなる必要がある。
・翻訳ビジネスは、もっとスピーディーで、もっと柔軟で、そしてよりリアルタイムな相互作用(interaction)を必要としている。この記事で紹介したモデルは、これに到達するためのひとつのアプローチに過ぎない。
・他の翻訳技術企業(translation tech companies)は、すぐに、同様のものを作るだろうし、さらに開発をするかもしれない。
 
 筆者は、自らの企業のツールを最高のものと言っているわけではなく、目的のための手段の一例だと紹介し、他社がもっとよいものをつくるかもしれないという謙虚さを持っている。革新者(innovator)とも言えると思うが、常に新しいものを探究している人々にとって、成し遂げたものに満足をしないことと、謙虚さは大切で、それが業界や技術を発展させていてくのだろうと非常に教えられた。
 翻訳のトレンドの最先端を紹介してくれている内容であり、特集記事の中でも紹介すべきものはこれだと感じた。
 ひとつだけ残念なのは、翻訳技術を使用して作業するように求められる翻訳者(人)についてほとんどふれられていないこと。筆者は今回、顧客サービスということに的を絞っているといえる。その点に限定されていても、なお十分読むに値する。
 翻訳者の皆様にとってのクラウドという視点から補足をさせていただくと、私は偶然、クラウドを使用したボランティアによる翻訳プロジェクトを手伝っており、社内でもつい最近、翻訳支援ツールに携わるようになった。翻訳者にとって、翻訳技術を習得するには練習が必要である。一人で最初から1から10までスムーズにこなせる人は稀かもしれない。ただし、慣れれば容易に作業することができる。自分も体験してみて、プロジェクトマネージャや校閲者などいずれの立場で作業をしても、使いやすく設定されているのには驚いた。コンピュータが苦手で大嫌いな自分でも使えるようになっていた。(100%使いやすいというものはありえず、欠陥も必ずあるが、使ってみればなんとか使えるともいえる。翻訳技術のレベルは非常に高い。)
 フリーランスの翻訳者の方も、ぜひ、翻訳支援ツールなど、翻訳会社から声がかかったら試してみてほしい。語学や専門知識のような、直接翻訳の内容に役立つ勉強にはならないかもしれないが、視野が広がるかもしれない。また、仕事の幅も広がると思う。
 
*1
記事内では、Translation providerには、社内翻訳者、フリーランス翻訳者、そしてエージェンシーがある。エージェンシーが、いわゆる翻訳会社等に該当する。
筆者はそのように分類して考えている。
なお、翻訳業界での集まりや情報で、TranslatorsとLSP(言語サービスプロバイダ)という分類がされるときには、LSPが、翻訳会社等を意味することが多い。この用語に馴染む前には、LSPにはなぜ翻訳者が含まれないのか不思議に思ったこともある。
筆者の分類も理に適っているように思われる。先ほど、翻訳者についてふれている部分が少ないと書いたが、実は筆者の頭の中には、翻訳をする翻訳者(社内もフリーランスも)、そして翻訳を仲介するエージェントとしての翻訳会社等、がきちんとインプットされている。アクターとして翻訳者がきちんと認められている。
翻訳技術を扱っている筆者ならではかもしれないが、この点も注目に値する。
 

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