三宅理恵のMultiLingual紹介vol.6

2016/03/04

三宅理恵のMultiLingual紹介vol.6






翻訳センター 三宅理恵


 
 
MultiLingual 2015 October/November Issue
地域特集:「中国」より
 
以前お約束したとおり、新たな地域特集が出ましたので取り上げます。
これまで、西部ヨーロッパ、アジア、中東欧、と紹介してきました。
今回は、「中国」特集です。
ご紹介するのは、アジア圏に十年以上住んでいたという筆者の、中国への(そして恐らくアジアへの)理解と愛情にあふれた記事です。

 
 
 
 
西への旅―西△遊▽△記▽
Journey to the West - 西△遊▽△記▽
Jacob Stempniewicz
 
【おすすめポイント】
文章が短くて大変読みやすく、明瞭です。ポイントがすいすい頭に入ってくるような原文でした。筆者のプロジェクトの様子を一緒に見るという視点も、読み手を飽きさせません。
西遊記に巧みにふれながら、中国語と英語の間の翻訳のむずかしさ、そして現在携わっているゲームのローカライゼーションについて書かれています。
 
【記事の内容紹介】
 
・中国の企業にとって、最も優先順位が高いのは国内市場。しかし状況は厳しい。
→グローバル戦略は、するかどうかではなく、いつするか、の問題。
・中国語と英語ではワードカウントが異なる
 (全角の中国語と半角の英語、同じことを意味する単語の文字数自体大きく異なる)
・中国のゲームの多くは“西遊記”をもとにして作られている。
 
・毛沢東のアルファベットへの対抗意識が、漢字を簡略化することにつながり、簡体字を生み出し、中国大陸で使用される唯一の筆記システムとなった。(繁体字が使用されるのは、香港、マカオ、台湾ほか)
・中国語の文法は極めてシンプル。
・既存の文字を組み合わせて、新しい単語や文が簡単に作られる。
 
・外国のゲームが中国に入るためには、現地のパートナーと共同で作業し利益を分け合わなければならない場合がほとんど。
 
・よい翻訳者を見つけることが最も難しい課題。
・英語から中国語への翻訳は長い期間なされてきて、熟練したネイティブスピーカーが沢山いるが、中国語から英語の場合にはこれはあてはまらない。
・中国語をマスターしている英語のネイティブスピーカーはわずかで、中国に住んでいる中国人は英語のスキルがしばしば十分でなく、外国へ移住した人は、今使用されている母国語に接する機会がなくなっているかもしれない。
◎急激な進歩をとげている国の例にもれず、中国は、最近までなかった大量の新しい概念や技術に対応するための言語を採り入れる必要があった。若い世代が使用する言語は、親世代が使用する言語とは大きく異なっている。
 
・筆者の会社でも、中英訳者を採用したり[報告者補足:その質を]訳者を精査したりするのは、ほかのほとんどの言語ペアよりも難しい。
・言語の課題のみならず、安定したインターネット環境や最新のソフトウェアでの適切な端末やネットワークシステム(workstation)*1へのアクセスも欠如している。
 
★文化的な理由でのむずかしさ
・中国のゲームには、中国の文化に根差したもの、または、少なくとも、神学、鍼療法、薬草、数秘術、十二支、中華料理または武術といった要素を一部含むものが一般的。
→これらの要素をすべて省略するのは無意味だが、理解しやすくすることはできる。例えば、小さな修正をしたり、画面に表示されているものについて簡潔に説明したりすることで。
・中国の誰もが知っている西遊記の登場人物と冒険の数々は、ほかの場所のユーザにも分かるとは限らない。
→プレイヤーを物語の中にそのまま放り込むのではなく、説明などを追加することが必要になる。
(注記)
*1 workstationと筆者が書いていた内容は、現地のネットワークに詳しい方によるとこのようなものを指すと考えられます。会社でセキュリティなどのしっかりしたネットワークシステムの構築が難しい現実があるようです。中国におけるインターネットへのアクセスの難しさ(フィルターがかかっていることにより国外の情報の検索に非常に時間がかかること)等は、初耳ではない方も多いのではないでしょうか。
 
【感想】
筆者のように、ビジネスの事情のみならず、言語や文化、歴史的背景もしっかり理解されているのはローカライゼーションを担当する際の強みでしょうし、そのような理解ある人にローカライズを担当してもらえるゲーム開発者、販売者だけでなく、ユーザも、そしてゲーム自体も幸せものだと思ってしまいます。
「分かるだろうと考える」「知識のないままプレイヤーをゲームのストーリーに放り込む」、この二つをしないことが、ゲームをローカライズする際の筆者のモットーのようです。
よく知っている話がゲームになっていると楽しくゲームができるものだと思いますが、プレイヤーがよく知っている話ではなさそうなときに、ちょっとだけ工夫をして、難しく感じないように手助けをするということなのかもしれません。ローカライゼーションのみならず、生活や仕事のあらゆる場面で、筆者のこの姿勢を見習いたいと思います。
西遊記やゲームがお好きな方、ぜひ原文をお読みになってください。