限りなく100%のコミュニケーションを目指して

2014/11/05


工藤 浩美 株式会社テンナイン・コミュニケーション 代表取締役。
白百合女子大学を卒業後、総合商社で事務職を経験。一度は結婚退職したものの、通訳・翻訳サービス会社に再就職。まったく未経験の業界で、年間5億円以上の業績を上げた後、株式会社テンナイン・コミュニケーションを起業。一方で、かつては脚本家としても活躍し、読売テレビシナリオ大賞 佳作受賞、フジテレビ・テレビ朝日・城戸賞のシナリオコンクールで最終候補者に残り、竹内結子主演のドラマ『ランチの女王』(フジテレビ)などの脚本制作にも関わる。著書に『英語が会社の公用語になる日』(KADOKAWA 中経出版)がある。
 

 テンナイン・コミュニケーションを設立したのは、今から14年前のことです。社名であるテンナイン(ten nines)とは、99.99999999と表記し、ほぼ100%完璧という意味です。9が10個並び、限りなく100%のコミュニケーションに近づきたいという、会社の姿勢を表しています。
 「なぜ100%ではなく、99.99999999なのですか?」と聞かれることがあります。それには理由があります、「言葉」は時代の息遣いを反映し、常に変化し、進化を続ける不完全なものだからです。翻訳という仕事はその不完全な言葉に携わる仕事です。だからこそ、100%ではなく、常に100%を目指すという姿勢が大切だと考えています。
 私はプロの翻訳者との何気ない会話の中から、多くのことを学んでいます。それがコーディネーターという仕事の一番の醍醐味です。私が尊敬する翻訳者は常に自分の力に満足することなく、上を目指して継続的に勉強に取り組んでおり、そういう人はどんどん成長します。反対に慣れた仕事だけ受け、新分野にチャレンジすることなく現状に満足している人は、なかなか伸びることが出来ません。私自身もそういう翻訳者を見て、「もっと自分も会社も頑張ろう」とモチベーションを高めています。チャレンジする翻訳者がいる限り、伸びしろのある会社を目指すという意思を込めて、テンナイン・コミュニケーションという社名にし、意識の高い翻訳者をネットワークしてきました。
 テンナインの強みは、まさに常に上を目指すという姿勢にあります。私たちは創立当初から「記憶に残る通訳・心に届く翻訳」というミッションを掲げ、会社全体で積極的に取り組んでまいりました。どんなに素晴らしい言葉も、相手の心に届かなければ意味がありません。翻訳はただ言葉を縦から横に訳すだけでは不十分です。テンナインでは言葉の背景にある思いやメッセージを汲み取って、相手に正確に伝えるということをモットーにしています。
 またもう一つの強みは、2004年よりスタートした「ハイキャリア(http://www.hicareer.jp/)」というサイトを運営していることです。登録者の面接の際に「どうやったら通訳・翻訳者になれるのか、きっかけがよくわからない」という質問が多かったのがサイト作りのきっかけです。通訳・翻訳業界は中にいると気づかないのですが、外から見ると非常に閉ざされたニッチな業界です。これから通訳・翻訳者を目指す人のための情報を発信するサイトを作りたいと思いました。結果オープンよりトータル4000名以上の方がこのサイトを通して登録し、会社の知名度も上がり基盤を作ることが出来ました。まさに「情報は発信しているところに集まってくる」のだと思いました。
 
 21世紀はまさにコミュニケーションの時代です。2020年のビックイベントに向けて、翻訳の需要はますます高まってくるでしょう。ただクライアントの翻訳に求めるニーズも、加速するグローバル化を背景にどんどん変化しています。変化しているというより、より高いパフォーマンスが求められるようになりました。その上コストに対しては非常にシビアです。クライアントは「スピード」「品質」「価格」の3つを同時に求めてきます。「短納期」でありながら、「低価格」と「高品質」を求められることも多くなりました。弊社では安易に価格の値引きに応じないようにしています。なぜならそのまま翻訳者の生活に直結するからです。
 適正な翻訳単価を守るためにも、交渉力と提案力のあるコーディネーターが不可欠です。クライアントに翻訳というものを理解いただくのはエージェントやコーディネーターの重要な仕事の一つです。テンナインではコーディネーター育成に何より力を入れています。私自身、会社員時代は一人で何でも仕事をしていたと思っていたのですが、会社を設立して「一人で出来ることは限られている」ということに気づきました。例えば名刺から会社案内、HPの作成、切手の購入まですべて一人でやるのは、本当に大変です。そこで「人を育てる」ということに力を入れるようになりました。
 人材育成に限らず仕事上で「人」に関する悩みは尽きません。例えば「嫌いな上司がいる」「部下がなかなか仕事を覚えない」「クライアントとうまくいかない」「翻訳者とうまくコミュニケーションが取れない」など人以外の悩みはないと言ってもいいぐらいです。つまり仕事上のトラブルや問題は人が運んできます。私は人材ビジネスを通して、人の問題に直面することも多くありますが、翻訳者より登録者や仕事をご紹介いただくこともあります。「仕事」や「幸せ」も人が運んできてくれるのです。私の中で人材育成はもっとも重要な取り組みです。
 コーディネーターに求められるのは、きちんと基本は守りながらも、臨機応変な対応力です。クライアントのニーズを聞き出し、提案し、粘り強く折衝できること、無理な依頼もNOと言わずに出来る限りクライアントに寄り添って受注に繋げる、または結果的にお断りすることになったとしても、クライアントがまた仕事を頼もうと思っていただけるような前向きなNOを伝えることが必要です。例えばクライアントから値引きの交渉があったとします。ただお断わりするのではなく、トータルでコストカットのために出来ることを提案します。本当に全文の訳が必要なのか、特急なのか、オンサイトで対応出来ないかなど、コストカットのための提案をします。
 コーディネーターは自分自身が通訳・翻訳を行っている訳ではないので、1日に複数の案件に対応します。1つのことに何時間も集中して仕事をすることは出来ません。社内のスタッフには「分散された集中力が必要だ」と伝えていますが、イメージとしては、皿回し芸人のような感じです。今日納品の翻訳の調整をしていても、来週の見積や、新しい依頼がどんどん入ってきます。1枚の皿だけに集中すると、他の皿が割れてしまうので、臨機応変な対応力が求められます。
 私たちコーディネーターにも、つい頼みたくなる翻訳者と、できれば頼みたくないと思ってしまう翻訳者がいます。頼みたい翻訳者はスキルが高いのは第一条件、そして時にはキャパシティーを少し超えてでも受けてくれるだけの力強さがある人には、依頼が集中するようです。限界を超えてストレッチするからこそ、翻訳力が付くというのはあると思います。後は背景知識が豊富で、ITスキルもある程度必要です。
 反対に頼みたくないという翻訳者は、第一に納期を守らない人。それ以外にも自分で調べずにすぐに質問をしてくる人、自分でできる範囲を決めて、その範囲でしかやらない人という声がありました。翻訳者という職業はプロフェッショナルな仕事です。誤解を恐れずにお伝えするならば空いた時間とか、何かの片手間に目指せるような簡単な職業ではありません。これから翻訳者を目指す人には、それを十分に理解してもらいたいです。
 
 現在翻訳部が抱えている課題は、いかに新しい翻訳者の方を開拓するかということです。トライアルでは非常にいい成績でも、実際に仕事を頼んだ際に、力を出し切れない翻訳者の方もいます。またコーディネーターはいつも頼んでいる慣れた翻訳者に依頼したほうが、失敗もなく、安心だと思いがちです。ただそれでは成長はありません。一人でも優秀な翻訳者を増やし一緒に新しい仕事をすることが、会社の成長にも繋がります。
 最初に翻訳をお願いする際には、まず翻訳のチェック作業から依頼をしたり、納期が比較的長いもの、その方の得意分野などを考慮してご依頼するなど工夫したりしています。またテンナインには「カウプロジェクト」という丑年にスタートしたプロジェクトがあります。翻訳のポテンシャルがあるけど、未経験でなかなかチャンスがないけど翻訳者になりたいという方に、オフィスに出社していただき、チェッカーをやっていただくという取組です。そこでたくさんの翻訳に触れていただき、少しずつ翻訳の仕事を依頼し、最終的にはフリーランスの翻訳者を目指していただきます。このプロジェクトは大成功で、たくさんのプロの翻訳者が誕生しました。是非テンナインで経験を積みたいという方はご連絡ください。
 
未来は今日の小さな一歩から、選択できる!
私はそう思っています。