6-1 翻訳業界の現状と未来~そのなかで翻訳者が取りうる道~

2015/01/16

井口 耕二 Inokuchi Koji

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翻訳者、JTF常務理事

報告者:辻 仁子(個人翻訳者)

 



翻訳サービスの速さ、安さを重視する翻訳会社やソースクライアント(SC)と、一生の仕事として続けるための報酬、将来性、やりがいを手に入れたい翻訳者の思惑には、当然のことながら隔たりがある。本セッションでは、JTF翻訳業界調査に基づいて個人翻訳者の現状を紹介しつつ、個々の翻訳者が将来に向けたビジネス戦略を考えるためのヒントが提示された。

2013年度のJTF翻訳業界調査では、初めて個人翻訳者を対象とするアンケートが実施された。回答者のボリュームゾーンは、翻訳単価(英日)が9~15円/ワード、年収が300~400万円(平均380万円)、時間単価が2000~3000円だった。しかし単価35円/ワード超、年収1000万円超という翻訳者も少数ながら存在した。このようなプレミアムな層は一定のポジションを維持しているが、業界全体には単価抑制の圧力がかかっているとみられる。

アンケート結果の分析によれば、年収との相関関係が最も強いのは単価である。スピードに関しては、極端に遅いケースを除けば年収との関係はそれほど明確ではなかった。

また、SCから個人翻訳者が直接受注する場合に、SCから翻訳会社が受注する場合よりも料金が抑えられる傾向があった。これは、第三者チェックやリライトに対応できない点が個人翻訳者の弱点と見なされるためである。しかし、スムーズな意思疎通や安定した品質といった個人翻訳者の強みをアピールすれば、翻訳会社を上回る単価で受注することも不可能ではない。

高年収を実現するには、スピード、単価、労働時間のどれか1つ以上を増やす必要がある。具体例として年収450万円の翻訳者が600万円を目指す(33%増)場合の戦略を考える。

労働時間を増やす(目標:5~10%増)

・無駄を削減する。1日中机に向かっていても、実際に収入を生む作業をしているとは限らない。メール対応やウェブ閲覧などの無駄を省くことで、実質的な作業時間が増える。

スピードを上げる(目標:5%~増)

・辞書の整備やユーザー辞書の登録など、作業効率の上がる環境を整える。
・翻訳ツールの導入を検討する。効率アップ、資産の再利用、コストダウンなど、翻訳ツールの長所と言われるものの一部は、実は翻訳会社側のメリットである。翻訳者には単価の引き下げや編集作業の負担といったデメリットをもたらす場合もあるため、主体的に選択しなければならない。スピードは追い求めるものではなく、後からついてくるというスタンスが望ましい。

単価を上げる(目標:20%増)

  • 品質を上げる。ネイティブ言語のブラッシュアップも怠らないようにする。
  • 単価を厳密に計算する。DTP作業が含まれるなら、その料金を上乗せする。消費税の支払いを確認する。
  • 価格交渉をする。交渉のタイミングは「断る仕事が多くなったとき」である。仕事が殺到するのは優秀で割安な翻訳者だと思われている証拠である。現在の仕事が無くなって困るようならば、価格交渉をするのは時期尚早だ。