2-C ITマーケティング翻訳の未来考察 第二弾 - 多様化するニーズを満たすために

2018/01/19

パネリスト:

三輪 朝 Miwa Ashita

ライオンブリッジ ジャパン(株)ランゲージ リード。2015年入社。英国リーズ大学翻訳研究科総合翻訳専攻修士課程修了後、CLS Communicationに入社し、約5年間金融関連の翻訳に従事した後、フリーランス翻訳者も経験した。現在はIT関連企業の和訳マーケティング案件の品質管理を担当。

加藤 めぐみ Kato Megumi

ヴイエムウェア(株)ローカリゼーションオペレーションズ、シニア マネージャ。IT企業でのローカリゼーション業務経験を経て、現職でもIT企業の日本オフィスにて、マーケティング関連(Web、キャンペーン、イベントのプレゼン、ビデオ、PR資料など)のローカリゼーションプロジェクトや品質を管理する部門でのマネージャとして従事。

秋元 加奈 Akimoto Kana

(株)SEデザイン 制作部CR1グループ ディレクター。ハイテクメーカーのテクニカルライターを経て2005年よりSEデザインのディレクター職。IT系を中心に、グローバル企業のソフトウェア/ハードウェアなど製品/サービスの販促ブローシャ類、Webページ、動画(ボイスオーバー/字幕)の英日ローカライズのディレクション、チェック、コピーライティングを担当するほか、日本語オリジナルのインタビュー記事、ソリューション紹介記事等のディレクションも実施。

モデレーター:

藤原 正道 Fujiwara Masamichi

ライオンブリッジ ジャパン(株)シニア ランゲージ リード。2006年入社。各種IT系ハードウェア、ソフトウェア製品のUIやドキュメントの大規模なローカリゼーション プロジェクトにおいて、30言語前後の多言語案件のグローバル ランゲージ リードとして全言語の品質管理を統括。顧客ごとに異なる品質要件を整理し品質プランを策定する、「品質管理者」としても同社ランゲージグループをリードする役目を担っている。最近ではIT製品系にとどまらず、様々な業種の和訳マーケティング案件を数多く手がける。
 
報告者:眞鍋弓月(フリーランス翻訳者)
 



 ITマーケティング翻訳の未来考察の第二弾として、去年に引き続き活発な議論が展開された。今年は、大小の翻訳会社に加えて顧客側の視点も加わり、議論に厚みがもたらされた。

多岐にわたるITマーケティング翻訳の対象物

三輪 ビジビリティの高さが顧客の品質要件の高さに比例している。多くの人の目に触れる資料の翻訳には高い品質が求められる。
SNSの普及による発表媒体の増加、CATツールの普及に伴う余剰予算をマーケティングに振り分けた企業が増えたことなどが、需要増につながった。用途が多様化するにつれ品質要件も多様化した。
加藤 「非常にハイビジビリティな翻訳なので、英語から離れてもよい」と伝えることがある。1文1訳が原則であったが、マーケティングは品質が優先。

翻訳者のバックグラウンド

三輪 マーケティング案件をよく受けている翻訳者は、関連の仕事をしていた人が多いと予想したが、技術系の仕事をしていた人の割合が高かった。
秋元 技術系の人に加え、技術系の会社でマーケティングをしていた人も何人かいたが、必要なものを理解しているという印象。

マーケティング翻訳の難しさ

三輪 たとえば、”Please take a few minutes to … “という文章を、「お忙しい中大変恐縮ではございますが、10分ほどお時間を頂戴して…」と訳してリリースした。直訳も間違いではないが、人にものを頼む時に「数分しかかからないから」という表現はしない。日本のビジネスマナーを踏まえながら翻訳しなくてはいけない。
加藤 日本のマーケティング翻訳には時間やお金がかかる理由を説明するのに良い例。翻訳者は、日本でいろんな文章を読んでいるから、それがマーケティング翻訳の勉強になり、この例のような翻訳ができるようになる。
三輪 他の例として、” a virtual water cooler “という言葉を、「バーチャルな情報交換の場として」と訳してリリースした。水飲み場の周りでの意見交換を仮想で行うということ。字面だけ訳しているのでは不十分で、よくわからない言葉に出会った時にはしっかり調査することが求められる。
また、言葉にはトレンドがあり、最先端を行くIT分野では、言葉の変化や誕生が著しい。例えば、”early adaptor”や”influencer”などは、今では「アーリーアダプター」、「インフルエンサー」とカタカナ化しただけで通じる。
加藤 4年前は、SaaSにはサービスとしてのソフトウェアという訳を当てていたが、その半年後には廃止された。最近だとモダナイゼーションも同様。トレンドの変化は速いが、ついていかないと古めかしい翻訳と言われる。

パネルディスカッション

——— 『高品質のものを、より早く、より安く』が求められているのか?
加藤 マーケティング翻訳もそういう時代。

——— とはいえ、短納期で良い翻訳者を抑えて納品するというのはかなり難しいと。
三輪 最終納品時に社内レビューアーが手を加えることは必須だが、翻訳の時点でどれだけ品質を上げられるかが課題。顧客から情報を引き出すなど、対話に時間を割いていくことも重要。
秋元 優秀な翻訳者は確保が難しいので、スピード重視で下訳を依頼し、社内でブラッシュアップすることがある。
加藤 全世界同時リリースの際に、1週間余分にほしいとは言えないので、翻訳会社には厳しい納期に対応してほしい。コスト交渉の余地はある。

——— 納品した翻訳物を実務者がどう思うか気になる。
加藤 ハイビジビリティなものについては、マーケティングの人がレビューする。機械翻訳のようだとか、自社のウェブページを全く読んでいない人が翻訳しているとか、日本の市場のことをもう少し考えて翻訳してほしいとか、よく言われる。末端の使用者は顧客に合わせた翻訳を求めているので、翻訳者はそれができるように付加価値を上げてくれるとうれしい。
秋元 同業他社との経験があればある程度のことはわかるが、顧客ごとの細かい好みがわかるためには、その顧客からの案件を複数回こなすこと、生のフィードバックを頂くことがものをいう。
三輪 スタイルガイドや指示書には落としきれない部分があるし、好みの違いもあるので、フィードバックから見えてくるものがたくさんある。翻訳会社は非常に参考になるし、翻訳者にも伝えていける。

——— SEデザインは社員30人ほどということだが、人数が少ないメリットは?
秋元 ヴイエムウェアの担当は数人しかいない。私がローカライズを担当し、日本語の事例を作っている人間とともにメインで対応している。この案件の時にはこの表現だというノウハウの集約はし易い。

——— 現場実務者は、翻訳のレビューというよりは日本語のマテリアルとして見ているのか?
加藤 基本的に日本語のみを読んでいる。一文ずつでは意味が通るが、文章として意味が分からない場合は却下される。

——— 好みなのか、エラーなのかが難しいが、いつまでも好みの問題だとも言っていられない。
加藤 英語から逸脱しても、内容が分かって日本語として読みやすい、超訳のようなものを私たち顧客は求めている。意識の改革が必要なのではないか。

——— 顧客の要望を翻訳者に伝えるのも難しい。
秋元 翻訳者は、意訳したものがずれていると言われるのが怖いので、依頼の時点でどこまで意訳して良いか伝えてもらえると有難い。
加藤 どの翻訳者が担当するか分からないので、意訳を了承すると、意図からずれた意訳になるかもしれないと思うと了承しにくい。顧客と翻訳会社の信頼関係もあるが、事前にどういう翻訳者に依頼しているかなどを知らせてもらえると、了承しやすくなる。

——— TMをそのまま利用しない方が良い場合もあるが、マッチ率で支払われると割に合わない気がする。
三輪 TMが参考程度にしかならない場合も多い。ソースファイルを検討した上で、顧客に工数のことを相談する必要があるかと思う。翻訳会社として出来ることは、顧客と協力して対話の場やトレーニングの場を設けることができるとよいのではないかと思う。
秋元 100%マッチであっても使わない方が良い場合も多々ある。傾斜単価+トランスクリエーションにかかる費用について、顧客と合意ができればよいと思う
加藤 良い翻訳だと、内部でのレビューの負担が大幅に減るので、お金を払う価値があると思う。TMは参考程度ではあるが、逃してほしくないキーワードもあるので、大事にしてほしい。

——— 品質の良いものを上げるために、翻訳者や翻訳会社はどこまでやる必要があるか?
秋元 その製品によって、何が可能になるかさえ理解していれば、顧客の求めるものに近づく。
三輪 一流の翻訳者は積極的に新しい情報を求めている。当事者意識を持っていただきたい。翻訳会社もできることはしたい。
加藤 いろんなものを読んで、翻訳にトライして、フィードバックを得ながら成長してほしい。

——— マーケティング翻訳の評価システムは必要か?
三輪 必要。特にマルチランゲージベンダーでは、多言語と比較する必要がある。翻訳者には、プラスに捉えていただきたい。顧客にはぜひほめていただきたい。
加藤 普通の翻訳だとQuality evaluationのスコアがあるが、マーケティングにも対応できるようにチューンアップ中。品質の高い翻訳者に高いコストを払うためには、根拠となるスコアが必要。ほめるという点では、良い点を翻訳者に伝える方法があるとよいと思う。

——— 今後の取り組みは?
秋元 顧客の求めているものが、翻訳会社や翻訳者に伝わる場があるとよいと思う。
三輪 翻訳者と顧客は、主従関係ではなくチームだという意識が大事。
加藤 翻訳者の考えを聞く機会、皆が集える場があるとよい。

——— 聞きやすい雰囲気も大事だが、ビジネスマナーも必要では?
三輪 必要。根拠があればコストの話をしてよいのであれば、ビジネスマナーを守りつつ翻訳者の声を届けていきたい。
加藤 翻訳者にも自分の会社だと思ってもらい、お互いに言い忘れた点などにも気が付き提案できるようなパートナーとなっていきたい。

質疑応答

1. 直訳調の翻訳者と、そのままリリースできる翻訳者間でのレート差は?
藤原 通常のIT翻訳とマーケティング翻訳では別のレートがある。
三輪 レートだけではなく、仕事量が増えてくる。
加藤 良い翻訳者にはきちんとリワードされていく。

2. 日英翻訳の際には、現地の人に依頼する方がよいのか?
加藤 日本語ネーティブの人が英訳すると裏に日本語が見える。必ずネーティブチェックを依頼しているし、英語ネーティブの人が訳す方が良い部分もある。

3. 最終成果物を出すだけでも役に立つのか?
秋元 最終成果物はかなり有用で、社内で蓄積し共有している。