JTCA×JTFコラボレーションセッション 用語集の重要性と運用の在り方

2019/01/18

10/25 Track1 15:45-17:15

パネリスト:

高橋 聡 Takahashi Akira

個人翻訳者、日本翻訳連盟専務理事
CG以前の特撮と帽子をこよなく愛する実務翻訳者。翻訳学校講師。学習塾講師と雑多翻訳の二足のわらじ生活と、ローカライズ系翻訳会社の社内翻訳者生活を経たのち、2007年にフリーランスに。現在はIT・テクニカル文書(特にニュース、ブログ)の翻訳を手がけつつ、翻訳学校や各種SNSの翻訳者コミュニティに出没。2016年よりJTF理事。最近は、翻訳者が使う辞書環境の研究が個人的なテーマになっている。共著『翻訳のレッスン』(講談社)。

徳田 直樹 Tokuda Naoki

一般財団法人テクニカルコミュニケーター協会 副評議員長
英和・和英翻訳者、テクニカルライター、株式会社パセイジ代表取締役を経て、現在株式会社クレステックおよび株式会社パセイジの顧問/国際法令規格アドバイザー。テクニカルコミュニケーター協会マニュアルコンテスト委員長/標準規格策定委員長。IEC/TC 3/JWG 16のエキスパートとして使用説明の国際規格IEC 82079 Ed.2の改定作業中。また、テクニカルコミュニケーター協会より出版予定の「製品・サポート情報のつたえかた コンプライアンスと校閲編」の日本および欧州の法令に関する部分を執筆。


モデレーター:

森口 功造 Moriguchi Kozo

株式会社川村インターナショナル 常務取締役、日本翻訳連盟理事
品質管理担当として株式会社川村インターナショナルに入社後、制作業務全般を経験し、現在は営業・マーケティングを含めた業務全般の統括として社内の管理に携わっている。現在は自動翻訳を活用したプロセス改革と国際標準規格の策定に活動の中心を置いており、TC37 SC5 国内委員として、ISO17100および18587の規格策定にも携わる。アジア太平洋機械翻訳協会(AAMT)理事、日本翻訳連盟(JTF)理事。
 
報告者:小森 浩樹(株式会社 サン・フレア)
 



 元/現翻訳者であるパネリスト3名が、用語集の重要性と課題について、それぞれの現職であるTC(テクニカルコミュニケーター)、翻訳会社、翻訳者の立場から語った。

 初めに森口氏より、事例を用いた用語の重要性についての再確認が行われた。


 具体的に、「Functional Test」という用語が、UI採用やTMでの利用・編集により、複数のバージョンがバラバラに伝播していき、結果、用語管理のライフサイクル内に負の連鎖が発生するという、ドイツTC協会tekomでの事例が示され、用語の規定ルールが存在しないことによる用語の功罪を確認した。そして、用語の規定ルールを標準化するため、中国、韓国、日本、ドイツで取り組みが進んでおり、その中でTC協会とJTFでも用語統一のためのワーキンググループ(WG)が発足したことが紹介された。

 次に徳田氏が、TC観点からの用語の重要性と課題について説明した。
 
 翻訳の分野では用語集といえば「A=B」という形式で対訳として提供されることが多い。一方、TC分野では原稿を作る段階から表現の統一に使用されるため、対訳だけでなく用語の定義や用例などの項目が必要であり、翻訳以前の原稿作成の段階から用語を固めておくことの重要性が提起された。TC分野における和文の原稿作成の場合、元原稿を技術者が執筆するのが一般的である。技術者は、用語の創作/名詞化(例:「~機能」)を好んで行う傾向がある。日本語では名詞化した言葉を創作するのは簡単であるため、数多くの表現が生み出される。名詞化した用語は英訳の際に同様に名詞化することは難しいため、通常、動詞で表現する。それを用語として登録することにはとても困難が伴う。そのため、原稿執筆の段階より用語を固めておく必要があると徳田氏はいう。また、この問題が起こるのは、技術者の書いた用語を的確に理解・承認できる人がいないことが背景にあることも指摘された。

 次のセクションでは森口氏から、用語管理の階層構造やPDCAサイクルを念頭に置いた欧米の用語管理・運用について、TCシンポジウムで翻訳会社の立場からメーカー向けに公演した内容として以下が語られた。

クライアントから用語が支給された際、課題は以下のようなものがある。

  1. 用語集がない
  2. 階層構造の軽視
    一般的に、用語集は階層構造を持っており、ピラミッド的に以下のように各レイヤーで積み重なっている。
    (下層→上層)
    「(辞書的)汎用語」→「専門用語」→「業界用語」→「社内用語」→「部門別の用語(開発部・マーケティング部での用語が異なる)」→「製品別用語」→「OV(One Voice)」
    悪い例:客先から提供された用語集が1つのExcel内に複数のシートがあり、どのシートをどのような用途・優先度で優先するのか不明。
  3. 優先順位が不明瞭
    上記の用語集に優先度が未指定。
  4. 運用方針の不備
    UI、略語、未知語の取り扱い、大規模プロジェクト時に用語が揺れた際のQAフローなどが未決定。
  5. 管理方針の不備
    TMに登録した後の管理方針に不備がある場合、後に勝手に変更してしまう恐れがある。

 管理運用に際して、上記のような課題があるなか、管理方針の参考として欧米の例を紹介する。
 欧米の例では用語の管理について以下の1–6までを繰り返し回していく。
 「1.エントリ選定」–「2.定義依頼」–「3.定義作業」–「4.承認」–「5.公開」–「6.メンテナンス」–「2.定義依頼」…
 各フェーズについての解説とコメントは以下の通りである。

  1. エントリ選定:用語とする言葉を選定する。ソースクライアントが選定するべきであるが、決まってないことが多い。ソースクライアントの任意の部門が「用語」として言葉を選定する必要がある。
  2. 定義依頼:開発部門もしくは翻訳会社など、定義を決定する作業者を決め、定義を依頼する。
  3. 定義作業:各言語で用語を定義する。多言語の場合は各言語のサプライヤーや販社に依頼することになる。
  4. 承認:定義された用語を承認する。定義された用語を誰が承認するのかの検討が必要。(例:ターミノロジスト、現地の販社、ソースクライアントの依頼部門)
  5. 公開:作業者に用語集を公開する。用語集の使い方が正確に伝わっているかに注意。
  6. メンテナンス:必要に応じて用語の変更、削除を「2.定義依頼」のプロセスに流す。


 上記6フェーズのサイクルの中心で、ステータス・属性管理などすべての管理をしている「ターミノロジスト」が重要な役割を果たしている。
 特にドイツでは管理の仕組みが整備されており、会社によってはターミノロジストという役割を与えている会社もある。ただし、専任ではなくPMやQA担当者が兼任することが多い。

 上記サイクルができあがった後、公開・運用時にも課題は挙がる。例えば、新出の用語が出現したときの対応方法を翻訳者に扱いを任せるかどうかと言った点である。用語集があると翻訳者は逆に迷うことがあるが、新出用語は現場の翻訳者が一番把握しているため、「新出の用語の場合は翻訳者に任せます」という一言が重要である。

 翻訳者の高橋氏が個人翻訳者の立場から、用語集への要望や、理想の用語集について語った。

 翻訳者が依頼者から受け取る用語集にはいくつかの種類がある。案件にTradosを使用する場合はMulti Termの形式で届けられる。能動的に検索しなくても該当の用語が使われている場合は自動で提示されるため、分野に詳しくない場合に有用であることが利点として挙げられるが、一方で欠点には、検索機能が低く、用語加工の手間がかかることが挙げられる。一番多い形式はExcelファイルで配布されるパターンで、利点としては作成・加工しやすさがあるが、正規表現やワイルドカードが使えない等、検索性が高くないことが欠点である。用語集がテキストファイル形式で配布されることもあり、こちらが一番使いやすいと考える。検索性が高く、加工しやすいという利点を最大限に活かすため、受領した用語集はすべてこの形式に変換して使用している。欠点は色分けなどができないことである。
 上記のような形式があるが、形式によらず以下a–fのような用語集は翻訳者にとって利用しにくい。a)会社全体、部門別、製品別などレイヤーの区別がなく、翻訳者の判断が困難。b)一対多になっており「使い分け情報」がない。c)製品名、サービス名の表記が混乱している。d)用語の過不足。e)更新されない。f)更新箇所の差分情報がなく、いちいち確認が必要となる。利用しやすい用語集は、これらの反対のものである。つまり、レイヤーが明確で、一対多でも使い分け情報があり、過不足がなく、更新の差分情報がある用語集は利用しやすい。
 翻訳者は用語集の運用を左右できる立場にないため、「ソースクライアントと翻訳会社の管理下で適切に整備されている」状態を常に願っている。更に理想としては「翻訳者の提案で新規追加」できれば、ソースクライアント、翻訳会社、翻訳者の三者がともに幸福になれるはずである。
 まとめとして「用語集は翻訳の要(のはずだが軽視されている)」「その原因は、用語集の作成と運用が片手間で行われているためである。ぜひ用語集専門の部隊を作ってほしい。」「より良い用語集の構築のために翻訳者–翻訳会社–クライアント三者間のコミュニケーションツールができれば、より良い用語の管理が可能である。」この3点を伝えたい。

 

 最後に、JTF用語集検討WGの発足と活動の趣旨についてパネリストより以下のように紹介があった。

 先の議論を踏まえ、用語集が重要であることは認識された。しかし、クライアントが重要性を認識していない場合は翻訳会社で用語集を管理運用する必要がある。そのため、業界団体JTFの翻訳品質委員会の一環としてJTF用語集検討WGを発足した。以前に作成したJTFスタイルガイドも、客先がスタイルガイドを準備していない際のたたき台として活用されている実績があるため、今回策定しようとしているJTF用語集も独自の用語がないクライアントには有効だと考えている。先行事例としてtekomの用語DBを紹介する。Webベースでの用語集だが、定義、用例、コンテキスト、現在の承認ステータスまでわかるようになっており、このままでは翻訳には使いにくいが用語集として使用することは可能である。
 今後、どのような形で活動ができるかを、近日実施予定のアンケートの結果をもとに検討・推進していく。